物を売る少女

 私は草原をスキップしながら渡り、大きな壁で覆われた城下町に向かう。賑やかで、穏やかで、そしてとても心地良い魔法が流れる首都ガーネストロ。


 私はそこでいろんな物を売っています。お散歩で手に入れた薬草、珍しそうな魔法石。それらを売ってお金にしながら、私は生活しています。


 昨日はとっても珍しそうな薬草を見つけたから、それが目玉商品ね!


 私はウキウキしながら首都ガーネストロへと足を踏み入れます。道端には綺麗な水がサラサラと流れていて、花が綺麗に咲き誇っている……そんな綺麗な首都ガーネストロ。私はいつものようにガーネストロの広場に向かい、自前のテントを張ります。


 黄色のテントに青い絨毯を敷いて……そこに商品を一つずつ丁寧に並べて……あとは手書きの値札も付けて……。よし、完璧ね!


 ――ゴーン。ゴーン。ゴーン。


 首都ガーネストロを見下ろす大きなお城、ミスコット城が大きな鐘を鳴らして朝を告げます。この音が私たち商人にとってはお仕事の合図です。私は頬を手のひらで叩き、表情を笑顔にします。そして大きな声で――。


「いらっしゃいませ!! 寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! 珍しい薬草に、旅で役立つ魔法石ですよ!」





 ――数時間後。


 全く売れない。みんな私の方に見向きもせずに通り過ぎてく。誰かが私の商品を手に取ったとしても、それはすぐに投げ捨てられてしまう。私は投げ捨てられた商品をすぐ手に取り、元の場所に戻す。


 やっぱり、私は駄目な子なのかな。だから、ママもパパも……。


 …………。


 ……ダメダメ、お仕事の時は笑顔じゃなくちゃ。


 私はもう一度自分の頬を叩き、笑顔を作る。そして、何度でも声掛けをします。


「寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい! 旅に役立つ魔法石に、珍しい薬草ですよ! お得ですよ! ぜひ見ていってくだ……さい……?」


 若そうなお兄さんが私の元にやって来た。お兄さんは今日の目玉商品を手に取ると、興味深そうな表情を浮かべ始めた。


「お、お兄さん! お目が高いですね。それは本日の目玉商品、森で見つけた珍しい薬草ですよ!」


「ふむ、なるほど。お嬢さんはどうやらこの薬草の正体を知らないようだね」


「ふぇ?」


「“色を高める薬草”……噂には聞いていたが、本当に存在するとはな……」


 ――色?


 色って、確かみんなが使える“魔法”の事だよね……。その色を高めるって事は……。


「こんな無知なお嬢さんが持っておくにはあまりに惜しい。この僕が頂くとしよう」


「それじゃ、お買い上げに……!」


「は? 価値も分からない者に払う金なんてあるものか」


「え?」


 お兄さんは薬草を持って、そのまま広場の外へと向かって行ってしまった。私は急いで立ち上がって、お兄さんを追います。何とかお兄さんの元まで辿り着いた私はお兄さんの裾を掴みます。


「はぁ……はぁ……待って……下さい……!」


「っ! うるさいガキだなぁ……!」


 お兄さんは私の身体を蹴り飛ばしました。蹴りは鳩尾に入り、私の身体は宙を舞って地面に叩きつけられました。


「……っはぁはぁ……うぅ……」


 ――魔法を使ってやり返せばいい。


 私もそう思いました。でも、私には杖もなければ扱える魔法も殆ど知りません。私は、何も出来ないんです。


 周囲の視線が、私の身体を貫きます。みすぼらしい姿の私を憐れむ様な視線。でも、誰も手を差し伸べてはくれません。


 ――誰があなたみたいな子を助けるの? 両親にも見捨てられた無能な子を。


 私とそっくりな声が、私にそう囁きます。私は、何も反論なんて出来ません。だって事実なんですから。それに、みんなは自分で確立したその立場を守りたいから、助けてはくれない。


 ここは、そんな世界。


 生まれた時から、全てが定められた世界です。





 その時でした。


 倒れた私の前を、一つの“黒く歪んだ何か”が横切ったのです。


「な、何だこいつ……!」


 “何か”はお兄さんの周りを飛び回ります。お兄さんは杖を使っていろんな魔法を繰り出し、“何か”に対抗します。けれど、“何か”はそれらを全て飲み込んで消してしまいます。


「ば、化け物だぁ!!」


 お兄さんは私から取っていった物を落として、何処かへと逃げて行ってしまいました。


 黒い“何か”が私の目の前に降り立った時、私は気を失い、そのまま目を閉じました。

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