* * *


 スーパーの店長は少々てっぺんが薄いのが気になるが、とてもいい人で、自分が協力することで少しでも愛里の具合がよくなればと、防犯カメラの映像を見せてくれた。

 事務所に通され、ちょうど二件目の目撃者である佐藤夫妻が店内にいる時間帯の映像をパソコンのモニターに表示する。

 操作方法も教えてくれて、友野は夫妻が映っている箇所を探す。


「最上ちゃんがあんな風になってしまって、みんな心配しているんだよ。あの子はいつも明るくてね……常連のお客さんからも可愛がられていて——」


 どうやら愛里は相当人気があったようで、店のスタッフからも、お客さんからの評判もいい。

 怪奇現象を目撃したせいで、今は人が変わったように引きこもってしまっているが、店長や他のスタッフからの話だと、とてもしっかりしていて、よく気のつくいい子だとみんなが口を揃えて言うのだ。

 一緒に話を聞いていた隼人は、自分の姉が褒められているのが何より嬉しかった。

 そして、改めて、早く元気になって欲しいと思う。


「————ただでさえ、最近一人パートが辞めたばかりでね……その分も頑張って仕事をしてくれて、とても助かっていたんだけど……。まさか最上ちゃんもいつから出てこられるかわからないなんて、本当に、心配だよ」



 一応愛里は休職中ということになっている。

 怪奇現象のショックから立ち直るまでは、当分働くことはできないだろう。

 店長は本当に愛里が心配だと何度も言っていた。


「うーん……特に何も、おかしなところはないなぁ……」


 友野は店長の会話は全て渚と隼人に任せて、防犯カメラの映像をチェックしていたが、佐藤夫妻が二人で店内にいる時は、特に何もおかしな様子はない。

 一度出たあと、買い忘れに気がついて戻ってきた妻の映像もはっきりと残っている。


「店長さん、これって、駐車場の映像も見れます?」

「あぁ、角度によるだろうけど、外にもついているからねぇ……」


 店長が画面を切り替えて、雨が降る前の車の様子も映る。

 駐車場に車がほとんど停まっていなかったことや、停まっていた位置がカメラで一番よく映る位置だったため、車内で妻を待ちながらスマホ画面を見ている様子が映っていた。


「何かの動画……を見ている感じですね。あ、そして雨が降ってきた」


 当日、天気は不安定。

 この時、雨は降っていないが、妻が一応傘を持って、店内へ入っていった。

 車内で妻を待ちながら、動画を見ていたのは約十分間。

 雨がまた降ってきたことに気がついて、視線をスマホからフロントガラスへ。


「あ……!!」


 何かを見て、目を見開き、怯えている。

 持っていたスマホを落として、佐藤は気を失った。


「きっとこの時だ。この瞬間に、鼠を見たんだ! ほら、ここ、一瞬だけど光が————」



 霊や心霊現象は、ほとんどの場合、映像には映らない。

 それでも、それは確かに本物の心霊映像だった。

 あの龍雲斎の番組で、霊とされていたものとはまるで違う、謎の黒い光が一瞬ではあるが映っていた。


「確かに! おお!! すごい! 本物だぁ!!」


 心霊映像に大興奮している渚の表情があまりにも輝いているのに若干引きながら、隼人は友野に疑問をぶつける。


「でも、佐藤さんはスマホで動画を見てるだけでしたよ? どうして、それで怪奇現象が起きたんでしょうか?」

「それなんだよ……。もしかして、この時のスマホの動画に関係しているのかな?」

「スマホの動画?」


 友野は画面を最大限までズームにしたが、流石に佐藤がなんの動画を見ているのかまでははっきりとわからなかった。

 結構高性能の防犯カメラではあるが、画質的に限界だ。


「確か、君のお姉さんは一人で家にいたんだろう? スマホで動画を見ていてもおかしくはない。三件目も、あの公園は事件現場の池の近く。怖いのをごまかすために動画を見ながら用を足している」

「そういえば、そうですね……」


「あーーーーっ!!!」


 友野と隼人が話している間に、店長は渚が何度も何度も黒い光が映った部分をくるり返し再生しているモニター画面を一緒に見て、何かに気がついたように大きな声を出した。


「このお客さん、毎週金曜日の夜の閉店間際に来るお客さんじゃないか! スーツじゃないから気づかなかった!!」

「そうなんですか? でも、姉さんは知らないって……」

「それは……だってほら、最上ちゃんは毎週金曜日が公休だから、その時間に会ったことはないはずだよ。金曜の締めのスタッフなら、わかるだろうけど————」






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