番外編 バレンタインデー当日のトラブルと、もう一つのバレンタインデー(4)

「イリス。あの時俺を止めてくれて、ありがとう。負けずに信じて待ち続けてくれて、ありがとう。そして今、一緒にいてくれてありがとう。これは、その気持ちです」


 トゲが全て取り除かれている、綺麗な赤いバラ。そんなものを枕元に置いてくれたあと、マティアス君はそっと優しく、私の手を握ってくれました。


「これからも毎年、ずっとずっと、バラをプレゼントさせてもらいます。……イリス、俺の最愛の人。改めて、今後もよろしくお願いします」

「…………………………はっ、はい……っ。こちらこそ、です……っ。大切で大好きな人、マティアス君。こちらこそ、ずっとずっと、よろしくお願いします……っ」


 予想外の連続で、反応が遅れてしまいました。大急ぎで私も手を握り返して、何度もコクコクと頷いて。

 ――でも――。

 それだけでは、この気持ちを表しきれないから。もう一度上体を起こし、バラを持ちながらマティアス君に抱き付きました。


「マティアスくん……っ。マティアスくん……っ。私、今も昔も、とっても幸せ……っ。嬉しい……っ。ありがとう……っ!」

「そう言ってもらえると、パートナー冥利に尽きるよ。俺も、おんなじ。とっても幸せで、嬉しいよ」


 マティアス君も、背中に腕を回して抱き締めてくれて。温かさを全身で感じながら、私は嬉し涙を零します。

 さっきまでは落ち込んでいたのに、今は今日の天気みたい。私の心は、快晴のように明るくなっています……っ。


「マティアス君。貴方のおかげで私の心も周囲も、いつもあっという間にキラキラした眩しい世界に変わっちゃう。マティアス君は、私の太陽だよ……っ」

「あはは、ついに人を越えちゃったね。……じゃあ、イリスは――。月、かな」


 月は美しい存在だけれど、太陽の光がないと輝きを放つことはできない。

 今後もイリスが輝きを放ち続けられるように、しっかりと傍で照らしていくね。


 ぎゅっとしながら耳元で優しくそう言ってくれて、言い終わると間近で真っすぐ見つめてくれて。

 そうしてくれている人は、大好きな人ですから。アレを、したくなってしまいました。

 で、でも、今はこんな状態です。うつしてしまうと大変ですので――


「イリス。王城であった出来事を、覚えているかな?」


 ――止めようと、していたら。目の前にあった瞳が、ふわりと細まりました。


「俺は丈夫で、あらゆるものに耐性があるんだ。風邪だって、絶対にうつらないよ」

「ほ、本当? 本当、なのかな?」

「本当だよ。その場しのぎの嘘を吐いてしまったら、あとで罪悪感を覚えてしまうのは#イリス__大切な人__#だからね。君が悲しむ事は絶対に言わないし、行わないよ」


 そう、でした。そうだね。

 マティアス君は、そういう人。なので――


「マティアス君。大好き、です……っ!」

「俺もだよ。イリスが、大好きです」


 ――私達は、キス。

 愛する人の想いを言葉と唇で感じ、私の心は、とろけるような甘さに包まれたのでした……っ。




 2月14日。私達にとって、初めてのバレンタインデー。

 私のせいで最悪な日になってしまうと思っていましたが、それは大間違い。マティアス君のおかげで、一生忘れられない、素敵なバレンタインデーになったのでした……っ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る