番外編 バレンタインデー当日のトラブルと、もう一つのバレンタインデー(2)
「イリス、スープが出来たよ。消化に良くて栄養のあるものを、お腹に入れておこうね」
ベッドに運んでもらってから、およそ20数分後。良い匂いと一緒にマティアス君がやって来て、ベッドの縁(へり)に座ってくれました。
「カボチャとたまねぎのスープだよ。カボチャには、ビタミンやミネラルが豊富。今のイリスにはピッタリなんだよ」
「そう、なんだね。ありがとう、いただきます」
適度に冷ましてくれたものが口元に運ばれてきて、私はそれをパクリと食べる。そうしたら口の中に美味しさと優しい温かさが広がって、それは更にふわっと全身に広がりました。
「熱かったら言ってね? この温度で大丈夫?」
「うん、大丈夫。丁度の温度だよ」
「それはよかった。ではもう一つ口どうぞ」
味がとっても美味しいし、そのスープにはマティアス君の想いが溶けこんでいます。なので食欲はなかったのにスルスルと入っていって、あっという間に全てを食べてしまいました。
「ごちそうさまでした。マティアス君」
「どういたしまして。あとはこれ、薬だね。これはとある薬草を粉末にしたもので、身体への負担も少ないんだよ」
「へ~、そうなんだね。ありがとう」
薬包紙に載った白の粉をコップのお水で流し込んで、それが終わると私は再びベッドで仰向けに。すかさずマティアス君がお布団とピローを調整してくれて、微調整が済むと優しく口元が緩みました。
「栄養をしっかり摂ってゆっくり休めば、すぐに治るよ。安心してね、イリス」
「そう、なんだね。マティアス君、詳しいね」
「医療関係の本を読み漁っていて、そういう知識も豊富なんだよ。大切な人が苦しんでいるのに、何もできないのは悔しいからね」
2人暮らしを始めた時から、ずっと勉強していてくれたそうです。
こういう部分までずっと、私は護られていたんですね。幸せ、です。
「…………マティアス君……」
「ん? なに?」
「そんな貴方に、今日はお渡ししたいものがあったのに……。風邪ひいちゃったせいで、渡せなくなってしまいました……。ごめんなさい」
優しさに触れていたら、自然とこんな言葉が零れていました。
今日は初めての、2人で過ごすバレンタインデーなのに……。楽しく笑い合えるはずだったのに……。台無しにしてしまって、ごめんなさい。
「イリス、君が謝る必要はないよ。風邪は自分でコントロールできるものじゃないし、そもそも。俺にとっては、イリスと過ごす毎日の全てが特別な日なんだ。その中の1日で想定外が起きても、大した影響はないよ」
「……っ。マティアス君……っ」
「それにね。実を言うと、台無しにはなっていないんだよ。イリスと俺の、初めてのバレンタインデーはね」
おもわず出てしまった涙を、親指で拭ってくれたあと。マティアス君は、ぱちりと片目を瞑ってくれたのでした。
台無しには、なっていない……? どういうことでしょうか……?
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