第9話 うごめく悪意 俯瞰視点(2)

「アドリク……!? そなたには、案があると言うのか……!?」


 不意に現れ光をもたらした者は、この国の宰相アドリク・オルジー。おもわずルシアンは――隣にいるエーナも目を見開き、彼へと駆け寄りました。


「アドリクっ、今の言葉は本当ですのっ!? 策、ありますのっ!?」

「ええ、ございます。この場でご説明をしても、よろしいでしょうか?」

「無論だっ! ただちに聞きたいっ!」

「当たり前ですわっ! 教えてくださいなっ!」


 ルシアンとエーナは、即答。それを受けたアドリクは丁寧に腰を折り曲げ、『承知』の意を示しました。


「お伝えいたします。英雄様を引き込むための策、それは『既成事実』でございます」


 そう告げたアドリクの、視線が斜め前から斜め左へと移動。エーナのみに注がれるようになりました。


「英雄様とエーナ様が、所謂男女の行為を交わす。これらを使えば『責任』が発生し、ルシアン様とエーナ様のご希望は叶います」

「そ、それは、そうだが……。アドリクよ、その策は荒唐無稽ではないか?」

「貴方、忘れていますの? あの男は、あの女にしか興味がありませんのよ?」


 マティアスは、イリスを想っています。そのためそういった状況には、絶対になりません。


「そんな事、不可能。無理ですわ」

「仰る通り、では実現不可能な行動でございます。ですがこちらにある物を使えば、それは可能となります」


 彼が懐から取り出したのは、小さな瓶。そこには、桃色の粉末が収まっていました。


「「??? それは……?」」」

「とあるルートで手に入れた、媚薬でございます。こちらを盛って欲情させ、言葉が汚くなってしまいますが――英雄様に、エーナ様を襲わせる。そうすれば、既成事実は簡単に出来上がります」


 この媚薬は非常に効果が高く、理性では抗えない。マティアスは確実に一線を越え、彼は責任を取る必要が出てくる。

 アドリクはスラスラと、『使い方』の説明を行いました。


「その際にエーナ様が何かしらの行為の証拠を確保しておけば、言い逃れはできません。お望み通り、ルシアン様とエーナ様の飼い犬と化すでしょう」

「うむ、うむ……っ。そうだな……! その通りだ……!!」

「流石は宰相ですわ! その名案、使いますわ……っ!!」


 ルシアンとエーナの中にあった判断の天秤は、一瞬で傾く。2人は目的を果たす為、嬉々として採用しました。


「お役に立てて幸いです。媚薬を盛る機会に関しても、わたしに考えがございます。セッティングを任せて頂いても――」

「ああそっちも頼んだっ!」

「全てお任せしますわっ!」

「――畏まりました。それでは早速、着手致します」


 宰相アドリクは品よく腰を折り曲げ、静かに反転。仕込みをするべく身体の向きを変え、歓声が上がる王の間をあとにしました。



 ――にやり――。



 人知れず、邪悪に口角を吊り上げながら――。

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