第7話(3)

「あ、あのっ! あのっっ! お父様とお話しをした後、わたくしと会ってくださる。その予定、でしたよね……!?」


 王の間にやって来たエーナ様は、戸惑いながらマティアス君と国王陛下を交互に見つめました。

 どうやら陛下が場を温め、適切なタイミングで姿を現す。そういった筋書きになっていたようです。


「マティアス様っ、わたくしはここに到着したばかりですわっっ! どこに行かれますのっ!?」

「ヴァンアス城を去るため、出入り口へと向かっているところです。以後のやり取りは不毛、無意味だと確信しましたので、そう判断致しました」


 自分は、相手を代える気は全くない――。マティアス君は先程あった、陛下とのやり取りを簡潔に説明しました。


「陛下はああ仰られていましたが、貴方を目にしても判断は変わりません。こちらは用事を控えておりますので、失礼致します」

「おっ、お待ちくださいなっ! その御判断は早計ですわっ! わたくしを知っていただければ、きっとその御心は変わりますわっ!」


 エーナ様は強引に近づいてきて、「マティアス様お時間をくださいましっ」と左腕に掻き付きます。そしてその状態でしっかりと、大きな胸を二の腕に押し付けました。


「マティアス様。確かにイリス・マーフェルさんは、美しい方ですわ。きっと外見と同じくらい、心も綺麗なのでしょう」

「……………………」

「ですが、それが『最高』『最上』だとは限りませんわ。世の中をじっくり探してみれば、更に『上』が存在します」

「……………………」

「その『上』そこが、わたくしだと自負します。……それが自惚れなのか事実なのかは、わたくしに触れてくだされば瞭然となりますわ」


 妖艶さを孕んだ上目遣いになって、もう一押し。更にグイっと押し付け、胸を密着させます。


「マティアス様、お約束します。。お気に召さないのであれば、素直に諦めますわ」

「……………………」

「ですから、マティアス様。そう仰らずに、わたくしとの時間を設けてくださいまし」


 かなりくっついた状態で甘えた声を出して、可愛らしく――同性の私でさえもドキッとしてしまう仕草で、じっと顔を見上げます。


 ――エーナ様は、自信満々――。


 拒否なんて、有り得ない。そう感じた状態で返事を待って、マティアス君は――


「申し訳ございません。そのご要望は、受けかねます」


 ――マティアス君は即答して、淡々と左腕を引き抜いたのでした。

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