第32話 闇の王との決戦

 王様が化け物になって襲ってくるなんて、ゲーム「殲滅の吸血姫」のシナリオには存在しない展開ですわ。


 ですので、どのような恐ろしい未知の敵と相対することになるのか、正直に申せばキモを冷やしましてよ。


 ですが……


 ズモモモモモ……ズモモモモモ……ズモモモモモ……


 瘴気の中から現れた巨大な化け物は、


「なんだアルミダーラじゃないですの!」


 巨大な卵形の頭部には巨大な一つ目と歪んだ口。


 筋張った4本の巨大な腕と2本の足。


 これはゲームに出てくる中ボスのアルミダーラ、そのままでした。


 レイアとチャールズは、アルミダーラを見て、身体を震わせておりましたわ。


「なっ! 王が化け物になってしまいました!?」


「いや、もしかしたら魔物が王に化けていたのかもしれない。しかし、こんな恐ろしい敵と戦うことになるとはな……」


 二人はアルミダーラを見るのは初めてのはず。だとしたら、恐怖に煽られて二人の精神が削られてしまってはマズイですわ。


 二人の正気度を保つためには、わたくしどうすればいいですの?


 と悩んでいたところへ、


「それでアレクサ、この化け物はどうやって倒すのですか?」


 恐怖に震えながらもレイアが尋ねてきましたわ。ふふふ、レイアもようやくわたくしのことが分かってきたようですわね。


「アルミダーラは、頭部にある一つ目が弱点ですわ。それを狙って攻撃し続ければ、必ず倒すことができますの。ただ、普通に攻撃しても防御されてしまいます」


 わたくしが説明を始めると、二人の震えが止まり、真剣に耳を傾けてくれましたわ。


「アルミダーラは、両腕を使った叩きつけ攻撃の際に、頭も一緒に下げてきますの。その一瞬、動きが止まるので、そこをレイアのエルフィンリュートで攻撃してくださいまし。チャールズとわたくしは、ヤツを煽って叩きつけ攻撃を誘いますわ」


「分かりました、頭を下げたときに目を射抜けば良いのですね」


「チャールズ! わたくしがアルミダーラの懐に飛び込んで攻撃しますわ! 神話武器でないとヤツにはダメージが通りませんのよ! あなたはヤツの動きを見て、わたくしが危ないときには気を引いてくださいまし!」


「キミが危ないときに、怪物の注意を引き付ければいいんだな! 一切承知した!」


「では行きますわよ!」


 そう言って、わたくしは聖剣ハリアグリムを構え、アルミダーラに向かって突進しましたわ。


 アルミダーラの頭頂部には、王様の王冠が載っておりました。


 ゲームに登場するアルミダーラは、地下聖宮に潜む魔神の使徒として登場するのですが、その頭部には王冠がありましたの。


 ゲームでは、そのことについて描写されていませんでしたが、きっと何か裏設定があるのだろうと思ってましたわ。もしかすると今の状況は、その裏設定に沿ったものかもしれませんわね。


「矮小なる者どもよ! 王の前にひれ伏すが良い!」

 

 巨大な鐘が響くようなアルミダーラの声が響きました。

 

 巨大な右腕を右から左に払って、わたくしたちを薙ぎ払おうとしてきました。


「さがってくださいまし!」


 わたくしはレイアとチャールズと共に、さっと後方へと飛び退きましたわ。


「星辰より来る神々の使徒、悪魔勇者の贄として、貧民どもを捧げていたのを、貴様が邪魔をした!」


 この雑魚ボス、何かを語り始めましたわ!


 悪魔勇者? 貧民? わたくしが邪魔をした?


 いったい何の話ですの!?


 と困惑しているところへ、レイアが大声を上げました。


「まさか! もしかして孤児院が設立される以前、スラム街の子供たちが数多く行方不明になっていたことを言っているのですか!?」 


 それならわたくしも知っている……というか、関わっていますわね。


 スラム街での治安の悪化を食い止めるために、孤児院や診療所の設立に協力したり。自警団を編成して、サンチレイナ家から報酬を出したりもしてましたわね。


 そのおかげで、誘拐や行方不明者も出なくなって、スラム街の治安がかなり改善されたのですわ。


 わたくし、何も悪いことはしていませんわよね?


「悪魔勇者だと!!」


 アルミダーラに向って、チャールズが叫びました。


「王よ! あなたはゴーラ国を守る立場にありながら、星の啓蒙派と通じていたというのか! 悪魔勇者召喚など、人が決して手を触れてはならぬ所業! もはや貴様に王たる資格はない!!」


 チャールズに向ってアルミダーラが巨大な腕を振り下ろしましたわ。


「ぐぬぬ。フレデリックに婚約破棄させて貴様を誅殺し、その後は王家の血を引くフレデリックと聖女たるリリアナを捧げさえすれば、悪魔勇者召喚の儀式は完成していたというのに! だが何故だ! 二人にはその身を護る強力な魔結界を張っていた! どうやって二人を殺すことができたのだ!? いくら聖剣とてあの結界を破るのは相当困難なはずだ!」


「ですから! 二人を殺したのは殲滅姫ローラだと言ってますわ! というか婚約破棄は貴方の企みでしたの!?」


「「「殲滅姫だと!」」」


 アルミダーラとレイアとチャールズが見事にハモりましたの。わたくしとしては、どちらかと言えば婚約破棄の方に反応して欲しかったですわ。


「確かに殲滅姫ほどの魔力であれば、魔結界を破るなど容易かろう。だが何故、魔族の姫が貴様に協力するのだ!」


 そう言いながら、アルミダーラは目から熱光線を放ちましたの。


 ビィィィィィイ!


「わっ! 危ないですわ!」


 わたくしは、レイアとチャールズを引き寄せて下がりつつ、熱光線を避けました。


「何故って、ローラはうちに居候してますのよ! 少しくらい協力して当然ですわ!」


「「「えぇ!?」」」


 アルミダーラの身体がプルプルと震え始めましたの。


「ふっ、ふっ、ふっ」


 アルミダーラは両手を組んで高く掲げました。


「ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!」


 次の瞬間、アルミダーラが両腕を使った叩きつけ攻撃を仕掛けてきましたの。


 どおぉおおおん!


 わたくしは、とっさに後方に飛んで回避しました。


 それと同時にアルミダーラの頭が下がり、動きが止まりましたの。


「レイア! 今ですの!」


 そして次の瞬間――


 レイアのエルフィンリュートから巨大な光の矢が放たれました。

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