サンチレイナ侯爵領攻防戦

第16話 ここでラスボス!?

≪王家の谷 ~隠された王の部屋~≫


「おお、アレクサーヌよ! 死んでしまうとは情けない」

  

 光に包まれて立ち上がるわたくしにシュモネーが声を掛けてきましたの。その目はもうそれは見事なジト目でしたわ。


「またですか……」


 とシュモネーが目だけで語っているのが伝わってきますわ。


 隠された王の部屋でわたくしとシュモネーはミスティリナの樹木の前で二人きりで立っていましたの。


「むぅ……どうしてこんなことになってしまったのかしら」

「一応、言っておきますと今回で6度目です」

「うぅ、いつの間に……わたくしそんなに死んでしまってましたの?」


――――――

―――


 聖剣ハリアグリムを手に入れた後、わたくしはとにもかくにもサンチレイナ侯爵領に戻ることに致しましたわ。


 ゲーム『殲滅の吸血姫』では、神話武器をゲットするに従って魔王国の侵攻が進み、魔物の数や力も大きくなってまりますの。


 聖剣ハリアグリムの入手は本来後半から終盤近く。もしショートカットを使った裏技で序盤に入手することができた場合でも同じ現象が起こりますわ。


 つまり聖剣を手にした瞬間、空の色が変わり永遠の夜の世界が訪れ、王国全土で魑魅魍魎が跋扈するようになってしまいますの。


 わたくしがシュモネーから聖剣を受け取っても空の色は変わりませんでしたが、魔王国の侵攻が始まっていることは聖樹教会の情報からも確かなようです。


 ぐずぐずしていたらアンナお姉さまや両親だけでなく、数多くの大切な人たちが魔王軍に蹂躙されてしまいます。


 もちろん聖剣ひとつで魔王軍を完全に撃退することはできません。しかしゲーム『殲滅の吸血姫』では、主人公格のうち三人が神話武器を入手した時点で魔王軍の進軍を止めることができるのですわ。


 そしてそのまま三人の主人公格たちが魔王を討ち破って大円団となりますの。


 聖樹教会には他の神話武器のある場所とその入手方法を伝えておりますわ。今頃、他の主人公格たちが、それぞれの神話武器を入手するために行動しているはずですのよ。


 まぁ、リリアナ・バナーワースだけは手ぶらで帰ることになるでしょうけれど。


 聖樹教会は、聖女を名乗るリリアナに神話武器の情報を伝えることには消極的でしたけれど、どうせわたくしが入手するのですからと説得して、あえて伝えていただいておりますわ。


 今頃、リリアナとフレデリックがここに向かっているはず。彼らが王家の谷に到着しても聖剣ハリアグリムはもうありませんけれど。ふふふ、いい気味ですわ。


 彼らがシュモネーに出会い、聖剣がわたくしの手に渡った事実を伝えられて呆ける顔を拝みたいのはやまやまですが、ここでゆっくりしているわけには行きませんの。


 レイアとチャールズには、わたくしが聖剣を入手した後に領地へ戻ることは伝えておりますので、彼らは聖樹教会へ戻っていきましたわ。


 彼らには王都の守護と、他の主人公格たちが神話武器を入手するのを手伝っていただきますの。


 二人が去った後、わたしは隠し部屋の扉を開きました。本来、ハリアグリム教団の聖地でもあるこの場所に、聖樹教会のシンボルであるミスティリアの間があるのは奇妙なことではあるのですが……要するに隠し拠点ですわね。


 わたくしが拠点で祈りを捧げると、いつの間にかシュモネーが隣に立っていました。


「なっ!? なんですの?」


「長年ここに居ましたがこんなところに隠し部屋があるなんて知りませんでした」


 シュモネーがミスティリナをジィィと見つめておりますの。


「これは拠点ですね」


「そうですわ……拠点? 拠点のことをご存じですの?」


「ええ、知ってます」


「そ、そうですの」


「ええ……」


「……」


 会話が続きませんわ!


 どうもこの方は苦手な感じが致しますわ。とはいえ、どうして拠点について知っているのか興味をそそられます。彼女は人間ではありませんから人知を超えた知識を持っているのかもしれません。


 もしかするとわたくしの転生についても知っているのかもしれませんが、どうも藪蛇をつついてしまいそうな予感がするので、このときのわたくしは沈黙を選択しましたの。 


「……で、では失礼致しますわ」


「ええ、さようなら」


 どうにもぎこちない別れ方をして、わたくしは一路、サンチレイナ侯爵領へと出立いたしました。


 そのまま旅を続けたわたくしが、もうすぐ故郷の土を踏むところまできたときのことですわ。


 その丘はわたくしにとってなじみの深い場所ですの。生まれて初めて侯爵領を出たときに、ずっとずっと見送りに付いてきてきてくださったアンナお姉さまとここでお別れしたのですわ。


 そうあの丘の頂上にある一本の広葉樹の下で二人で大泣きしたことは今でも鮮明に覚えておりますの。


 その思い出の丘の、


 思い出の木の下に一人の少女が立っていました。


 ヒヒィィィン!


 わたくしの馬が怯えて足を止めてしまいました。馬が頭を振って逆方向に戻ろうとするのを、わたくしは必死で抑えなくてはなりませんでしたわ。


 ここから一刻も早く逃げようとする馬の判断は間違っていませんの。


 ただ既に逃げられない状況にあることが馬には分からないだけですわ。


 丘の上の少女を見たわたくしの全身に震えが走りました。


 黒いゴスロリ衣装に身を包んだ少女がわたくしを認めてニヤリと笑いましたの。心胆寒からしめる邪悪な笑いでしたわ。


 わたくしは暴れる馬から降り、聖剣ハリアグリムを構えました。


 どうして? 何故? なぜ貴方がここにいますの?


 ローラ・ノスフェラトゥ。


 殲滅姫!






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