#.2 持つべきものは少女

 持つべきものは友人なんて言葉があるが、貴族相手の伝手は持つべきものに恐らく含まれないだろう。

 アイツら、僕がSランクのパーティーの1人ってところしか見てなかったらしい。

 接待の為に時間割いて、ギルドなら断るような条件まで付けられた依頼も受けた。

 それでも無理なら、他のパーティーを斡旋することもやったんだけど?

 ……って、パーティーの為にやったらそれはパーティーの貢献度扱いなのか。

 そりゃ僕に対してなんも思わないわけだ。

 何て薄情な奴らだよ、全く!


「ということで、職紹介ください!」

「何が職を紹介してだ、全く……」


 呆れたような溜め息がと共に紫色の瞳は僕の頭をぐさりと視線が上から突き刺した感じた。

 自分より身長の小さい女の子相手に上から頭が見えるってどういう状況といえば、それは勿論平伏しているに決まっているだろ。


「まったく、アルが仲間とのいざこざで追放されたと知らされて心配したらこれだ」

「えっ、心配してくれたの?」


 真っ白な髪の毛を弄りながら、ラシェル・レヴィルはそういった。

 彼女は大陸でも1番でかい王国にある王都にて、自身も事業を持ちながら屋敷を構える貴族の家の当主である。

 小さいのに権威は大きいのである。


「失礼なこと考えただろ、殴っていいか?」

「えっ、職をくれるなら1発だけね? ……イテッ」


 ほんとに叩かれた。

 まぁ、殴ったから職くれますよね? 何て乞食するようなことは流石にしないが。

 他の人たちも引きがいいから困ってないと思って断ったのだろうか。

 自分でも割と有用な人材だと思うけど……。


「馬鹿者、私は君が子供でも作って修羅場になって叩き出されたかもと冷や冷やしていたんだぞ」

「師匠が師匠なら弟子も弟子って? 僕に限ってまさかまさか。そんなことある訳ないでしょ?」

「どうだかな?」


 まぁ、パーティー内での男女関係っていざこざ起きやすいとはよく聞くけど。

 挙句の果てパーティー解散、引退なんて話もあるくらいだ。

 僕らの代の1つ前の世代で《最強》だった人の引退理由はまさしくそれだ。

 ……ほんっと師匠ってばお茶目。


「にしても、君がパーティーを抜けるなんてな。私がお抱えにしようか聞いた時、君はにべもなく断っただろう」

「そうだね、僕も悪いとは思ってるよ」

「重症だな」


 僕がまだ魔法を使えたらパーティーに一緒に居られたのだろうか。

 嫌だ嫌だ、魔法が使えなくなったこと自体には後悔はないけどね。

 にしても別れてすぐなだけある。

 触れられるとかなり気持ちが落ち込む。


「はぁ……落ち込むな、元気をだせ」

「慰めてくれるの? 優しいな」

「阿保か。そもそも働かなくても貯金があるだろう」

「あるけど、何もしないのは性にあわない」


 動かなくても良いってなら、パーティー抜けてないんだよ! 後方支援にすっこんで援護している。

 それが出来ない……いや、したくないから今各所回って仕事を探しているんだ。

 まだ、見つかってないけど。


「ただ……君が私を頼ってきてくれたことは素直に喜ばしいな」

「あぁ、うんソウダネ」


 微笑むラシェルを見ていると言えない。

 ……訪ねてきたのが15箇所目なんて言える訳がない。

 言い訳するなら元Sランクパーティーの冒険者を雇える金がないってことで惜しくも契約を逃したところだってある。

 何だかんだ言っても俺のコネも捨てたものではないかもしれない。

 それに本当に困ったら宿くらいは貸すと行ってくれていた方もいる。


 後、逆に関係が近いからこそ、頼みにくかったとも考えられやしないだろうか?

 ……しないか? いや、知り合いに職を紹介してもらったらそれもう手切れ金みたいなものって弊社では認識しておりまして……ん、身内ならただのコネか?

 俺が平民で彼女が貴族であることから、複雑なご家庭な家庭であるから一般的な解釈にそぐわないということにしよう。

 

「何箇所目だ?」

「えっ……と、3箇所目?」

「嘘は駄目だと思わないか?」


 だいぶ盛った、ラシェルからの圧が凄い……ひぇ……。


「ごめん勘違いだった、15箇所目だ」

「桁が違うわ、勘違いで済むわけあるか!」


 叩かれた、そんなに痛くなかった。


「ま、まぁ? 働きたいというのであれば紹介出来なくもない」

「えっ、本当?」

「……ずいぶん食いついてくるな」


 当り前だろ恥すら忍んでここに来てるんだ。

 コネを使ってくれるというのなら遠慮なくそのコネに乗ろうじゃないか。


「まず1つ目は私の小間使いだ」

「あっ、それは遠慮します」


 声が心を、脳を飛ばして口に出ていた。体が追いつかないほどの反射。もうちょっと言葉を選ばなきゃラシェルじゃなきゃ嫌われてるね。


「何故だッ!? 1番楽なのに、何なら金払いが良いよ!」

「出てるよ、昔の口調出ちゃってるから」

「おっほん……理由が聞きたいな、どうして拒む?」

「だってやることなくない?」

「えっ?」


 こっちがえっ? だよ。逆に小間使いって言っても俺に何させる気なんだよ。


「だって、掃除はメイドさんがやるし基本的にラシェル綺麗好きだろ? 机の上とか見ていたら分かるよ。

 他に何かすることあるかな、書類の仕事とか手伝うってたって出来ることないだろうし。

 洗濯だって僕が触る訳にもいかない。

 小間使いって言ってもご飯だって僕は作るの下手だから何も作れないよ。

 何ならラシェルの方が上手いよね?」

「う、うむ……よく覚えているな」

「まーねー」


 パーティーの営業で生きていこうと思うなら記憶力とトーク、そして笑顔は必須スキルだ。

 これらがないと、貴族には取り入れない。

 人は覚えられていると喜ぶ、『あの時街でお会いした〜〜さまでいらっしゃいますよね?』何て言えば、もうそれは好感度がうなぎ登りの鯉滝登りよ。

 あの旅が忘れられるようなものかと言えばそういうものでもないし。


「まさか、あの修行が仇になるとは思わなかったな……」

「何か言った?」

「言ってないぞ」

「後は強いて言うなら僕に出来ることと言えば道化くらいだけど」

「それは私が嫌だぞ」

「だよねー」


 今日僕がここに来て直ぐに引っぱたかれたら流石に分かる。

 『その気色の悪い笑い方を今すぐ止めろ!』って、言われた時は流石に驚いたな。

 そんなに駄目かな、パーティーの皆にも言われたけど。


「まぁ、わかった。なら仕方ない」

「うん、次の頼む」

「むぅ……2つ目は王都の宮廷魔術師だな」

「えっ、本当? エリートじゃん」


 王都で魔術の研究をしたり、他国との戦争に駆り出されたりはするが金払いもよく戦争も稀だし。

 そもそも、魔術師自体が後衛ということもあり死亡率もかなり低め。

 その職に就くこと自体がステータスとなる。

 まさに夢の国家が後ろ盾の安定職よ。


「凄いだろう? 私だからな 」

「ほんとに驚いたよ」

「とはいえ、流石に試験全スルーとは行かないだろうが……アルレベルにもなると心配せずとも通るだろう」

「うーん、でもなぁ……」


 多分、ラシェルのイメージしているのって過去に見せた僕の魔法何だよね。

 今の僕でその試験通るかな。


「……ちょっと怖いし、合わなそうだからなかったらそれ選ぶよ」

「ん、他にもあるからな。気にするな」

「そして、3つ目は教師だ」

「……教師? でも、僕教員資格なんてないよ?」


 正確には王都で人にものを教える資格を取っていない、が正しいが。

 教育というのは人の価値観を簡単に歪ませることが出来る。だから、王都には自分に都合が悪い価値観を産ませないために危険思想を持ちそうなやつに教師をやらせないようにしているんですねー。


 ……ま、そんな資格なくても教えていたのが、僕なんですけど。


「ふっふっ、私に魔術のド基礎を叩き込んだ君ならば、私は相応しいと思うが?」

「止めてくれよ……後、それは今なら思うけど割と犯罪だよ」

「いやいや、資格を持たないものだってものを教えているし大丈夫だろう」

「でも、それは教育機関の後ろ盾があっての事だよ。資格無しに王国で教育っぽいものをしたらそれはもうその時点でアウトなんだよ……」


 貴族の土俵に立つには貴族が意識しているルールを知る必要があって、そういった国の法律を勉強することは割とやっていた時に知った。

 国に直接聞いたことはないが多分アウトだぞ、それ。


 どうしようか、こうなったら宮廷魔術師受けようかなぁ。失望されるのは怖いけど、折角紹介されたのだから受けてみようかな……今の自分の実力もハッキリするし。

 あのほんと……沈黙が辛い。


「……うむ、そうだな。この件は誰にも言わない」

「そうしてくれ……」

「だがしかし!」


 気を取り直して、彼女か大きな声を出して声を出す。まだ、何かあるのだろうか?

 僕は割と宮廷魔術師受けようかと、今悩んでいたのだけれど。


「今の私は魔術学院名誉理事長! 私の後ろ盾があれば、それは教育機関の後ろ盾言っても過言ではない!」

「おぉ!!」


 素晴らしい、素晴らしい。

 僕は思わず、手を叩きながら立ち上がる。その言葉を聞いた時、僕はまるで劇場を見終わった後のような感動があった。


「むふふ、いいな! もっと褒めて!」

「凄い! 流石、王都1の秀才! 天才魔術師! 最年少当主! 持つべきものはラシェルとの縁!」

「ふへへへへ……」


 よしっ、これで内定は貰ったな。


 しかし、そうか魔術学院か……懐かしいな。

 僕も魔術を習う時は魔術学院の授業を盗み聞きしによく行ったものだ。


 ん、金払えって? いや、平民が行けるようなレベルの場所じゃないから。あの当時、魔術に自信があっても教養の自信は流石にない。

 だけど、独学で魔術を上手くやるのはもっと無理。

 割と小綺麗な格好を身につけて、堂々と学院に入るのがコツだ。何だかんだバレないものだよ。


 ――もし、全てを独学で魔術を使えたって言うのならそいつは紛れもなく天才ってやつだと僕は思う。


「ん、どうかしたか?」

「何でもないよ」



 ――


 次話投稿 明日18:40!

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