白日夢

宝玉林檎

プロローグ すすき畑の美少年たち

 茜色に染まる空。黄金色のすすき畑を目の前に麦わら帽子をかぶり学ラン姿の柳蓮やなぎれんはスケッチブックにペンを走らせている。風に揺れるすすきの群れはカサカサと音を立てる。地面に置かれたバッグから学生美術コンクールのちらしがはみ出している。蓮は独り隔離された自然の中で、描いては消して、描いては消してを繰り返していた。何度も繰り返しているうちに手に力が入り、消しゴムが手から離れてしまう。消しゴムは勢いよくすすき畑の中に転がっていき、追いかけようと立ち上がると、一陣の風が吹き、麦わら帽子もすすき畑の中へ舞い上がっていく。蓮はスケッチブックとペンを置き、すすきをかき分けながら入って行く。

 すすきに引っかかっていた麦わら帽子を見つけ手を伸ばし、一歩踏み出すほどけていたスニーカーのヒモに引っ掛かり転ぶ。口の中に入った土に咽る。視線を向けた先に消しゴムが転がっていた。手を伸ばそうとすると、その先から人の声が聞こえる。

 蓮は恐る恐るすすきの隙間から声の方を覗き見る。蓮は息を飲んだ。

「アッ……。ゆう……」

 夕陽に染まる白い肌の少年が、同じ顔をした少年の上に覆いかぶさり首筋に口づけをしている。

 蓮はその光景に目を離すことが出来ずにいた。

 少年は口づけをしながらすすきの間から蓮を横目でにらんだ。その瞳は赤く燃えていて、蓮はすすき畑を全力疾走し、荷物を急いで拾い上げ、丘を駆け下りた。

 すすき畑が見えなくなるまで走り続け、息が切れ立ち止まる。

真っ白い陶器のような肌をし、赤い瞳で抱き合っている二人の少年。人形が動いているようで、蓮はその記憶を頭から離れるよう頭を振り、深呼吸をし、夕暮れの空を仰いだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る