絵が囁く物語

こんききょう

1枚目:夜にしか出来ない逢瀬を

───暗い。


日はとうに沈み、地平にわずかに残っていた赤も消えて夜がやってきた。


一際大きく高い巨木の、その天辺には誰かが座っていた。金色の髪、緑色の瞳、そして美しい翼。それは『朝を告げる鳥』と呼ばれていた。この暗い中ではその美しさも闇に塗り潰され、輪郭りんかく程度しか見ることは出来なかったが、よく晴れた夜空の星が瞳に映ってきらめいた。


朝を告げる鳥なので、夜は行動が難しい。夜目がきかず飛ぶこともかなわない彼は、本来ならば眠りに落ちる以外することが無いはずである。だと言うのに何故か、じっと夜空を見上げたままそこにいた。


暫くすると、彼の目の前にぼんやりとした光が現れた。ふわふわと漂うそれはあたたかな炎とはまた違う輝きで、白銀色の冷たくも優しい不思議な光だった。不意に光の周囲の景色が揺れる。ばさりという音と共にそこに現れたのは長い黒髪をなびかせた者。夜のマントを脱いで、『夜』がそこにいた。見ていた彼は待ちかねたように白い腕を引き寄せる。


「ああ、逢いたかった」


ささやくようにそう言えば、控え目な声が同意の言葉を紡いだ。




『朝を告げる鳥』と『夜』は恋仲である。


相容れない存在の二人はそれでも逢いたがったが、いくつかの問題がついてまわった。一つは陳べた通り『鳥』の夜目がきかないことであったが、もう一つ、『夜』は日の光が見られないということがあった。暗い中は普通に過ごしていられるのだが、日の光ほど明るい中では目が眩んでしまい、開けることすら儘ならないほど光に弱い。夜を体現した者だから当たり前だといえばそうだが、この二つの理由が逢うことを困難にしていた。これを気の毒に思ったのは『夜』の妹たちである『月』と『星』だった。普段も彼女等の光は存在するが、それだけでは『鳥』の視界は開けない。光が強すぎる炎は姉がだめだと試行錯誤し、ついに特別なランタンを作り上げた。自分達の持つ光が弱いならそれを集めれば良いと、透明度の高いガラスの球に己等の光を詰め込んで、少し光の広がりを和らげるようにそれを薄い曇りガラスで囲った。それを使って逢いに行ってこいと、『夜』に渡したのだ。結果、それは大成功だと言えるだろう。程よく互いの顔をランタンが照らし出し、よく見ることが出来て二人は大層喜んだ。




そんな訳で、『朝を告げる鳥』と『夜』の夜毎の逢瀬おうせは繰り返される。それを見ているのは夜空の月と星々だけだった。

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