第11話 ユリウスの部下

 ユリウスが出征して1年。


 もう1年なのか、まだ1年なのか、誰もが予想していなかった、彼の快進撃は続いていた。


 彼自ら率いる部隊が、行く先々で混乱地を制圧していっている。


 そんな戦況を報告する為に、彼の部下が帰還していた。


 と言うのを、サボっていた使用人達の会話から盗み聞いた。


 私の所には誰も来ないから、誰かが何かを教えてくれることはない。


 でも何故かこの後、離れの近くで上層部に報告を終わらせたその部下、ラザールとばったり遭遇した。


 こんな所で何をしていたのかこっちが聞きたいのに、彼は私を見るなり汚物を見たように顔を歪めている。


 それは人に向ける視線ではないと言っておきたい。


 ラザールとは大して話したこともないのに、随分と嫌われたものだよ。


 最前線で戦い続けるユリウスは、部下達に信頼され、慕われているそうだ。


 だから、政略結婚で嫌がらせのために押し付けられた私のことを、部下達は目の敵にしているみたい。


 随分と上司思いな部下達だと思う。健気で泣けるよ。


 私自身は何一つ悪いことはしていないのだけどね。


 きっと、私の存在そのものが、彼等にとっては悪なのだろう。


 それと、あの噂も原因だ。


 実はユリウスが本当に好きなのは、私の姉の方だと言う噂。


 王都を中心に広がっている。


 出征直前に開催されたパーティーで出会った二人が、惹かれあって、すぐにお互いを想い合うようになったというものだ。


 遠く離れてからも、手紙のやり取りは密にしているとは聞いたけど。


 ちなみに私は、そのパーティーにも出席してはいない。


 で、好き合っている2人が、泣く泣く引き裂かれている現状に、多くの者が同情しているらしい。


 姉は、ユリウスとの結婚が嫌で私に丸投げしたと言うのに、完全に私は四面楚歌だった。


 姉、リゼットは、中身はともかく見た目だけはいいからね。


 それに、狡猾だ。


 ユリウスの好みは姉のあの顔なのかと、密かに嘆息していた。


 あと、あの無駄に豊満な胸のサイズなのかな。


 アレに騙されたのなら、ちょっと引くかな……


 別に、落ち込んでなんか、いない。


 噂はリゼットが流したものかもしれないし。


 子爵家のくせに側妃のお気に入りだから、社交界で派手にやっている、らしい。


 私はそんな所に出させてもらえないし、出る気もないから直接は知らないけど。


 これも、使用人達が話していた。


 まぁ、でも、それでも、私はユリウスの事を心配していた。


 どうせ元は捨てられていた命だ。


 いくら嫌われたって構わない。


 それよりも、あの出征前夜に見せた彼の不安を、私は覚えている。


 だから、他に人がいないのを確認して、そこで遭遇したラザールに話しかけていた。


「ユリウスは、元気?」と。


「殿下とお呼びください。いくらアナタが王子妃だとしても、それは形だけのこと。己の立場をわきまえては如何ですか?」


 随分な態度だけど、気にしなかった。


 この部下は私にユリウスの事を教えてくれるつもりはないらしい。


 となれば、する事は一つ。


 もう一度周りを見て、ラザールにさっさとストップの魔法をかけていた。


 時を止めた彼が持つ報告書を、素早く読む。


 良かった。


 ユリウスの身には、何も起きていない。


「私はこれで失礼します」


 魔法が解けたラザールは、何かに気付く事もなくこの場から離れて行った。


 ちょっとだけ安心して、ラザールの背中を見送っていた。


 私は戦地にいるユリウスに手紙を送っているけど、彼からは一度も届いていない。


 それが、ユリウスの本心なのだろう。


 生死をかけた戦場にいるんだ。


 どうでもいい私なんかに、気を回す余裕はない。


 悲しい想いを押し殺して、ここから逃げ出すまでには気持ちの整理も必要だなと思っていた。














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