第33話 『狂宴』

嘘じゃん!2-13




 昔ある所に、1人の女の子が産まれた。


 両親に愛され、街の住人に愛され、彼女はすくすくと育っていった。


 いたって普通の女の子であったが、彼女は一つだけ、みんなとは違うところがあった。


 それは、異常な魔力量。


 年齢を追うごとに多くなっていくその魔力量は、『開門の儀』を行うまでには国でも随一のものとなっていた。


 街の住人は期待した。この街から、新たな英雄が誕生するかもしれない、と。


 そうして、住人が期待する中、少女は初覚醒を果たす。押し止められていた魔力は天に昇り空を突き、広範囲に渡って広がっていった。


 住人は歓喜した。目の前で起こったことは、彼らの常識の埒外であった。すわ神の御使かと、そう思うものも現れる始末。


 これでこの街も安泰だと、皆口々に言った。この少女は、俺たちの希望の星だと。


 だがそのセリフは、今となってはとんでもない皮肉。


 少女が放出した高出力の魔力は広範囲に広がり、魔獣を刺激する。魔獣はその魔力に当てられ、狂ったように街を目指した。


 そして、少女が初覚醒を果たしてから、わずか数時間後。この世から一つの街が消えることになる。


 それが、『狂宴バンケット』。


 魔獣が狂い死が踊る、地獄の宴。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜







 シオンの魔力が暴走したあと、気絶してしまったシオンを背負って俺はシャンドの村に帰ってきていた。


 これから始まる『狂宴バンケット』。その開催地はここ、シャンドの村だ。今から参加者どもがわんさか訪れ、用意された料理を貪り食う。


 そんな事態を打破すべく、俺はニナ達と合流をした。


 「悪いニナ、遅くなった」


 「いや、遅くなったとかじゃなくない?もっと他に言うべきこと、無い?」


 「..........勝手に動いてすみませんでしたっ!」


 場所はシャンドの村の中心に位置する広場。そこには近隣の村から訪れたであろう沢山の子供達と、機嫌の悪そうなニナがいた。


 「別に良いんだけどさ.........ちゃんと説明してよね」


 「ああ、わかってる」


 さっきの魔力の波動はおそらくこの村にいる全員が感じ取ったはずだ。そして、それがもたらす最悪の未来も、直にみんな思い起こすだろう。


 そうなれば、パニックが起こるのは必然。一度パニックが起こってしまうと、それを止めるのは不可能に等しい。だからまずはそれを止めるため、ニナに動いてもらわなきゃならない。


 そんな事態にしたのは俺だ。きちんと説明して、お願いしなければ。


 「実はな--------」


 そうして手短にあったことを伝える。シオンのこと、キルケに両親が死んだことを告げられ、魔力が暴走してしまったこと。


 「...............そうだったんだ」


 「ああ。んで、パニックを抑えるためには、ニナ。お前の力が必要だ。なんとか、頼めないか?」


 「..............はぁ、良いよ。私もそうしようと思ってたし。でも、『狂宴バンケット』の方はどうするの?」


 「そっちは俺とゼラに任せてくれ」


 「わしは行かんでも良いのか?」


 これまで黙って話を聞いていたリューグが口を開く。


 「リューグはニナと一緒に村の人たちの護衛を頼む。外で走り回るよりも、そっちの方がいいだろ?」


 「うむ、まあそうじゃな。では、任された」


 「ありがとよ、親友」


 ほんとうに、いつもリューグには迷惑をかけてばっかだな。レインボーシロウサギとは別に、今度何か買ってやろう。


 「じゃあ行ってくるね。ゼラは村長の家に行くって言ってたから、多分そっちにいると思う」


 「わかった。それじゃ、頼む」


 「任せて!私これでも領主の娘なんだから!このくらいはお手の物だよっ」


 ニナはそう言って、ニシシッと笑う。まったく、この笑顔を見ると何故だか失敗する気が微塵も起きねぇんだよなあ。


 ニナとリューグがパニックを止めるため走っていったあと、俺はゼラと合流するため村長の家に向かう。


 すると、村長の家に着く前にゼラが目の前に現れた。


 「うぉっ、びっくりしたぁ........なんでそんなガチ隠密してんだよ.......」


 「さっきからあなたの探査魔法が煩わしいからよ。もうちょっと気遣いなさいよね」


 「緊急事態だ、ちょっとくらい我慢しろ。こんな状況になったのも、元はと言えばゼラ、お前が裏切ったのがいけないんだからな?」


 「あら、裏切りなんてしてないわよ。元々あなたの味方ってわけじゃ無いでしょ?」


 「いやそーだけどさ..........ケチっ」


 朝、シオンとデートに出かける前。俺はゼラに『頼んだ』と伝えた。そしてゼラは『任された』と言ってくれた。だから俺は安心してシオンと向き合っていたと言うのに、実際にはキルケが来てしまった。


 あの時はたしかに、シオンを守るために行動してくれるものだと思っていたんだが。


 「まあ、申し訳ないとは思ってるわよ?上からの命令だったから放置したけど、個人的にはシオンのこと気に入ってたし」


 「そーかよ。ならまあ、この後はきっちり働いてもらうぞ?大丈夫か?」


 「ええ。『狂宴バンケット』を見逃せなんて命令は、流石に出ないわ」


 そうか、良かった。最悪1人でやらなければと思っていたんだが、ゼラが来てくれるなら相当楽になるな。


 「じゃ、行くぞ。村のことはニナとリューグがなんとかしてくれる。俺とゼラは村の外。俺が範囲魔法で大雑把に迎撃するから、ゼラは撃ち漏らした村に届きそうな奴の処理を頼む」


 「はいはい、任されました」


 「.................嘘じゃ無いよね?」


 「いつまで気にしてるのよ。そんなメンタルじゃ生きていけないわよー」


 うるさい腹黒女子。お前とは違ってなぁ、俺の心は繊細取扱注意なんですわぁ!優しくしてほしいんすわ!





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 


 


 シャンドの村は、割と近くにザナヴァの森がある。だから今回の『狂宴バンケット』では、基本的にそちらからの襲撃に備えておけば問題ない。


 そう判断し、俺はザナヴァの森に面する草原へ来た。村からは少し距離を取り、万が一にも俺の魔法で被害を与えないようにする。


 先程ゼラに文句を言われたが、構わず範囲優先の雑な探査魔法を発動。どんなに低級な魔獣でも700メートル圏内に入れば感知できるし、魔力反応が大きい強力な魔獣ならば1キロ以上離れていても問題はない。


 今のところ探査に引っかかっている魔獣はいないが..........それよりも気になる奴がいる。



 「あんた、いつまでここにいんだよ」


 「どこにいようと私の自由だ」


 「いや、そうだけどさ.............状況、わかってる?」


 「バカにするなよ、バカ冒険者。貴様がわかっているのに私がわからないわけがあるまい」


 「あ、そう。ならまあいいや。勝手にしろ」


 先程俺がシオンを運んでいる間一体何をしていたのか、未だに草原に残っていたじじい。これから『狂宴バンケット』が始まり魔獣が集まってくるというのに、何故かここに留まり続ける。


 別にこいつの心配をしているわけでは無いが、それでも一応声をかけると返ってくるのは罵声ばかり。ったくこのじじいはほんとに、死んでもしらねぇぞ。


 ジジイばかりに構っているわけにもいかない。これから来るであろう大量の魔獣を迎撃するため、魔法の構築の準備を始める。


 集中、集中。今回は結構な規模の魔法を使う。失敗したら村を守るどころか被害を与えかねない。


 「...............貴様に一つ、聞きたいことがある」


 「生憎と俺は忙しい。後にしろ」


 「..........意趣返しか。子供め」


 「バカ言え。人の気持ちを考えろっつー、俺からの大切なメッセージだ」


 「口だけは達者だな」


 それはこっちのセリフだっつーの!


 だがまあ、確かに子供っぽいな。やめよ、ここは俺が大人になろう。


 「で、なんだよ。忙しいのは本当だ。早くしてくれ」


 「では一つ。貴様は何故、シャンドの村を救おうとする?」


 「何故、ね」


 「そうだ。これから始まる『狂宴バンケット』を止めるため、貴様は命を落とす危険もあるのだぞ。そこまでして守る価値が、あの村にあるのか?」


 『狂宴バンケット』。それは昔から語り継がれる死のお話。それが起きるということは、村や街が一つ滅びることなのだと、この世界の人間ならば誰でも知っている。


 キルケは問うている。自分が作った村に、そこまでの価値を見出してくれているのか、と。


 呆れた。ものも言えん。当然だ。当然--------


 「ねぇよ、そんなもん」


 「............では何故だ、何故私たちを見捨てないのだ」


 「約束したからだ」


 「約束、だと?」


 「ああ、シオンとな。約束したんだ」


 

 ---『村の人たちを傷つけずにシオンを助けて見せる』---と。



 「そんな、理由で........バカだバカだとは思っていたが、よもや本物のバカだったか」


 「別にバカでいい。シオンとの約束を破るよりマシだ」


 「..................バカだからこそ、か......」


 「あ?なんか言ったか?」


 「知らんな。それよりいいのか?忙しいのだろう?」


 「てめぇ、自分から話しかけといてこのやろう。まあいい、そこで見てろ」


 ムカつく奴だが、約束だ。


 お前も含めて、マルっと救ってやる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る