異世界遊び屋「エデン」

サファイア

第1話 オセロ

 ここは、剣と魔法に溢れた異世界。異世界系ライトノベルにとっては、ありふれた世界。そんな世界のとある国の王都ペンドラゴンにて、二人の若い騎士がいた。彼の名は、ケビンとマイケル。入団してまだ三ヵ月しか経ってない騎士だ。

「あー、終わった」

 夜の警備をする騎士との交代がした後、帰路につく赤髪の騎士、ケビンはだらだらとマイケルと共に歩いていた。

「そんな、元気のない顔を出すなよ。だって、住民から信頼されて働いているのだからさ。そんな顔を騎士団長に見られたら、雷が落ちるぞ?」

 それを正反対で、まだ元気のある青髪の騎士、マイケルは少しからかいながら言った。

「だって、この王都は、食事や治安、流通などは、文句無いけどさ。だって、遊ぶところが無いじゃん。せっかく、王都なら遊ぶぐらい市民に提供しろよ」

「下っ端の騎士である俺達が言っても、何も変わらないぜ? 確かに、お前と同じ考えを持っているけどよ。それが、社会の現実だからさ。我慢しろ」

「我慢って」

 ケビンは、ため息を吐いた。


 歩いて、数分。ケビンは、ある店を見つけた。

「ん? この店は?」

 ケビンが見つけたのは、かなり高級感のある木の扉に、コンクリート製の小屋があった。扉の両端には、LEDライトがあり、上には、英語でエデンと書かれた看板があった。

「何だ? ありゃ、奇妙な素材に、あんな美しく光る街灯は見たことがないぞ?」

 すると、何を思ったのか、ケビンはその扉に手を掛ける。

「おい! ケビン!」

 マイケルは、止めようとするが、ケビンは扉の中に入ったので、彼の後を追った。


 扉の中へ入ると、地下へと続いており、階段に、赤いカーペットが敷かれていた。明るいライトに照らされながら、下へと降りると、入口にあった扉よりもさらに豪華な装飾を付けた扉に到着する。二人は、警戒しつつも、中へ入った。


「な、何だ!? ここ!?」

「楽園みたいだ」

 二人が見たものは、煌びやかなシャンデリアがたくさん設置されており、水族館クラスの大きな水槽が奥に見えて、このファンタジーな世界では、見かけない無数の熱帯魚が泳いでいた。

 さらに、近くにバーカウンターがあり、見た事も無いワイン、グラス、その隣には厨房と思われるスペースがあり、そこには数人のシェフが料理をしていた。

 最後には、十個以上のカジノテーブル、様々なタイプの豪華なテーブルが置かれており、それぞれチップなどが置かれていた。

 すると、三十ぐらいの燕尾服の男が二人の元に現れた。

「新規のお客様ですね?」

「あんた、誰?」

「私、このエデンの支配人の中山と申します。ようこそ、遊びの楽園、エデンへ」

 中山は、礼儀正しく頭を下げた。

「エデン?」

「はい。ここは、様々な遊びを提供し、お客様に最高の至福の時を味わっていただく場所でございます」

「へぇー。で? どんな遊びがあるの?」

「二人対戦、四人対戦、さらには賭け事、スポーツゲームをあります」

「すぽーつげーむというのは、分からないけど、とりあえず二人ゲームを頼む」

「分かりました。どうぞ、こちらへ」

 中山は、二人に二人対戦専用のテーブルへ案内した。

「こちらです」

 ケビンとマイケルは、対面するように座った。テーブルには、八×八のマス目がある盤に白黒の駒が入った筒状の入れ物があった。

「二人には、オセロというゲームを紹介します」

「おせろ?」

「オセロとは、このマス目のなかで、交互において自分の色の駒が多かった方が勝ちです」

「で? その駒というのは、この半分白、半分黒の駒か?」

「そうです。ちなみに、お名前は?」

「俺は、マイケル。こいつは、ケビンだ」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします。では、ルールを説明します。マイケル様とケビン様には、白か黒を選んでいただきます。そして、選んだ方の色を上にしてこのマス目に置いて頂きます。そして、相手の駒を挟むように置くと、挟まれた駒は、自分の駒になり、ひっくり返すことが出来ます。ルールはそれだけです。ただし、挟める駒が無い場合、パスとなり、引き続き相手の盤になるので注意を」

「面白そうじゃん! やってみようぜ!」

「そうだな」

「では、お楽しみください」

 中谷は、二人に礼をすると、厨房へと向かった。


「これは、まずいな。ここを挟んだら、角を取られてしまうな」

「どうした? その程度なのか?」

 マイケルは、少し劣勢で苦戦していた。ここを獲れば、多く取れるが、角を入られる可能性があり、一気に追い込まれる。

「何か策が無いのか?」

 マイケルが必死に考えていると、一人の若い女性が二人にジュースをテーブルの上に置いた。

「どうぞ。マイケル様、ケビン様」

「ありがとう。君、可愛いね。名前、何ていうの?」

「私、恵美子と言います。よろしくね」

 恵美子は、二人にウィンクした。

「飲み物は、水以外は有料だけど、初回はタダにするわ」

「すまんな。で? あそこの料理するところは、どういうのを作ってくれるの?」

「我々の故郷の料理や、故郷近くにある料理を中心に提供するわ」

「そうか。でも、腹減ってないから。遠慮するよ」

「分かったわ。で? 随分苦戦しているようね」

「あぁ、ここを置けば、多く取れるけど、角を置かれるからな。どうすればいいかな?」

「ここを置けば良いじゃない?」

 恵美子は右下の方を指で指した。マイケルは、天啓を得たように、明るい表情になった。

「なるほど! ここを取れば、右上の角を置ける!」

「しまった!」

 恵美子のおかげで、形勢が逆転し、勝利した。その後、十回戦を行い、結果六対五で、マイケルが勝利した。


「お客様。本日は、ありがとうございました」

「中山さん。今回はありがとう。この店って、いつ営業しているの?」

「一日中営業しています。我々スタッフは、交代交代でお客様に至福の遊びを提供しています」

「そうか。今日は楽しかったよ」

「はい。またのご来店、お待ちしています」

 中谷は、二人に頭を下げて見送った。

(エデン、遊びの楽園。最高の生きがいに出来そうだ)

 ケビンは、心が浄化されたように、明るい表情をしていた。

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