第7話 貴族と疑い

入学式を終えた生徒たちは事前に知らされていた各クラスへと向かう。

誰もがこの国を代表する学園の生徒の一員になることに、クラス問わず誇りを持っていた。


ライトが席に着くと大量の視線を感じる。新入生挨拶で目立ってしまったのだろう。あまり慣れない感覚だが、悪い気持ちはしなかった。ここからもっとみんなと仲良くなっていきたい、そう思っていた。この時は—


「どうして筆記試験首席がEクラスなんだろう?」

「わかんねぇ。何か事情があるんじゃないか?」

「それにしても爽やかでカッコいい顔立ちですね。お父様にお願いして彼の家を調べてもらおうかしら。」

「それにしても筆記試験首席と同じクラスなんて誇らしいな。」


身体能力が高いライトは彼等の言葉をちゃんと聞き取っていた。

自分を疑う気持ちがある中で認めてくれる人が居るんだと嬉しく思っていた。


「おはよう諸君。静粛に。」


担任が来たらしい。

銀髪の短い髪の毛をした中年男性だ。貴族であるのだろう、立ち振る舞いに華がある。

一瞬チラッとライトをみる。

ライトは目が合い軽く会釈する。


「ワシの名前はレナード=フォールド。担任だ。主に錬金術を専門としておる。」

簡単な自己紹介をする。


「さて、初日じゃが、オリエンテーションを行う。まずはお互いの自己紹介からじゃ。左の者から順番に。」


「はい!子爵家三男、僕の名前は—。」

「伯爵家、次女、名前は—。」


次々と自己紹介していく。家柄を言う必要があるのだろうか。そしてライトの番へと回ってきた。


「ライト=ファーベルです!職業は召喚…じゃなくて剣士です。平民です!田舎から来ました!よろしくお願いします!」


次の瞬間、ざわめきが教室内に広がる。


「田舎!?ってことは平民!?」

「嘘だろ!?平民がこの学校に入れんの!?」

「冗談だろ?平民なんかがこの学園に入れるわけないだろ、しかも首席って。」


教室が騒がしくなる。しかし、それは初めのような気持ちが良いものではない。



(…我々は何かとんでもない過ちを犯してしまったのかもしれん。)


そんなクラスの様子を見て1人何かを危惧するようにレナードは呟いた。



その日は学園の施設案内及び説明だった。

しかし、生徒の間にはライト=ファーベルが平民であると言う噂で持ちきりだった。


「本当に彼、平民なのかしら?」

「あんなボロボロのカバン使ってんだから間違いねぇだろ。装飾品も何一つないみたいだし」

「んじゃ、どうしてこの学園に入学できたんだよ!!」

「そりゃ、あれだ。あれ。何か不正したんじゃね?」

「そういえば、俺、実技試験も筆記試験もアイツ見てないかも。」

「それな。俺も見ていない」

「俺も」

「私も」

「え?みんな見てないの?じゃあアイツ試験受けずに入学したの?」

「それはヤバくね?」

「実力で入れないのかしら。ホントにこれだから平民は…。」

「そういえば学園長からの推薦だって誰かが言ってたよ。」

「完璧なコネじゃん。うわぁ、そこまでしたいのかな。落ちた人可哀想なんだけど。」




たった一つの疑惑から広がるライトの悪い噂。


それは彼が「平民」ということもあり、すぐに広まった。


その結果、ライトは初日からクラスから孤立してしまったのだった。







初めは些細なものだった。

クラスからハブられ、ヒソヒソと噂される。正直こうなることは少しは予想できていた。ニックとロイドに言われていたからだ。


彼等は貴族、自分は平民。だが、自分が実力を示せばきっとみんなも信じてくれる、理解してくれる、そう思っていた。


学園のカリキュラムは前期、中期、後期にわかれていて、前期、後期の始まりに能力別クラス編成が行われる。


前期は基礎能力育成。中期は実戦演習。その結果を踏まえて後期のクラス編成を行うのだ。各職業の授業が始まるのは中期から。

1学期は基礎学力と基礎魔術の育成に励む。


ライトは基礎学力テストに置いて、他の追随を許さぬ圧倒的な点数を叩き出した。


また、大変な努力家であったため、殆どの教授が彼を認めていた。決して驕らず、日々目標に向かって精進する彼がこの学園にいることを、教授たちは誇らしくさえ思っていた。

彼の解けない問題を出そうと燃えている者すらもいた。


実戦テストの魔術ではクラス最低点を叩き出すものの、基礎体力テストをオール満点で突破した。6歳にも満たない齢から剣を振り続け、日々努力してきたライトにとってはそれは当然の結果であった。


しかし、それを気に食わないと思う者は少なくなかった。

彼の評価を魔術のみの評価が真実だと考え、他は不正だと言い放った。


彼等はどこからか彼のステータス情報を入手し、全校生徒へ拡散した。


彼に対しての他の生徒からの扱いは悪口から小さな悪戯へと変わり、次第にエスカレートしていった。


最終的には暴力行為など日常茶飯事となっていた。




そして、入学から1ヶ月も経つ頃には同級生だけでなく、先輩からも暴言暴力行為を受ける日々を送るようになっていた。



ライトは誰にも相談できなかった。



抵抗すらできない。

相手は貴族だ。反抗したら自分の故郷が壊されるのは目に見えている。

ライトに対してのイジメがほんの数人であったならば、学園もいくらでも対処の仕様があっただろう。

しかし、教授たちも新学期が始まり、かなり忙しい日々を送っていた。そのため、薄々は分かっていながらも放置してしまっていた。きっと生徒たちもライトを認めるだろう、という甘い考えの元で。


その結果、気がつけば彼へのいじめは全校生徒に広がり、手がつけられなくなってしまっていた。


この頃、教授たちが出来ることといえば、生徒たちの意見に屈する事なく彼に正当な評価を下すことだけだった。

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