14 ロボットのまちのビリー

 14 ロボットのまちのビリー


 その街は、ロボット達の街でした。

 公園に生えている木も、道端に生えている花も、みんな機械で出来ています。

 ビルも沢山建っていて、街は、ビルの森に包まれているみたいです。

 だけど、空と雲だけは、機械ではありませんでした。

 そんな街の中に、ビリーと言う男の子がいました。

 ビリーの家は貧しく、毎日のオイルにも困るほどでしたが、それでもお母さんと二人で、幸せに暮らしていました。

 ビリーのお父さんは、仕事中、工事現場の事故に巻き込まれて、スクラップになってしまいました。

「さあ、母さん、背中を向けて」

 夜、眠る前にビリーは、おかあさんの背中にぜんまいを差し込んで、一生懸命回します。

 お母さんも、ビリーの背中に空いた穴に、同じ事をします。

 この街のロボットはみんな、背中にぜんまいを差し込む為の穴が空いています。

 毎日巻かないと、身体にオイルを流しているポンプが、止まってしまうからです。

 二人はお互いにぜんまいを巻き終えると、寄り添うように同じベッドで眠るのでした。


 ある日、お母さんの具合が悪くなりました。

 どうやら、お腹の中の何かのパーツが古くなってしまったようで、お母さんは苦しそうにお腹を押さえていました。

 だけど、お母さんが修理を頼める程の余裕はありません。

 苦しむお母さんに、ビリーは何もしてあげる事は出来ません。

 お母さんは自分の最期を悟ったのか、ビリーに言いました。

「ビリー、私の愛しいビリー、もしお母さんが居なくても、決して寂しがってはいけないよ。ビリーは強い子だから、元気に生きなくてはいけないよ」

 そう言い残して、お母さんは動かなくなりました。

 ビリーに残されたのは、自分が生きる為に必要なぜんまいだけでした。


 ビリーは学校には通っていませんでした。

 工場に通い、毎日毎日働いていたのです。

 なので、ビリーには友達と呼べる人は誰も居ませんでした。

 それに加えて、ビリーはとても人見知りで、誰かと話しをするのは苦手でした。

 お母さんが動かなくなってすぐ、ビリーはお母さんの元に自分も行こうと考えました。

 公園で、一人で座って、じっと自分のぜんまいが切れるのを待ちました。

 お母さん、ごめんなさい。僕は、やっぱり強く生きられる自信が無いです。

 自分のぜんまいを抱きかかえながら、ビリーはそんな事を思っていました。

 身体からゆっくり力が抜けていき、動かなくなって行きます。

 そこでビリーは、自分のぜんまいを落としてしまいました。

 もう、掴むほどの元気も残ってはいないのです。

 そのままビリーの身体は動かなくなりました。

 このまま時間が経てば、オイルの流れが悪くなった身体は、錆付いて固まってしまいます。

 だけどすぐに、ビリーは目を覚ましました。

 ビリーはどうしてだろうと考えたのですが、その答えはすぐにわかりました。

「危なかったわね。もうちょっと遅かったら、あんた止まってたわよ」

 そう背中から掛けられた声に振り向くと、女の子のロボットがそこにいました。

「あんた見ない顔ね~、こんな所で何してたのよ?」

 彼女はビリーにぜんまいを手渡しながら尋ねてきます。

「あ……、その……、あの……」

「ちょっと! ちゃんと聞いてる? あんた、本当に危なかったんだよ?」

 彼女の言葉に、ビリーは上手く答える事が出来ません。

 友達のいないビリーは、工場のおじさんロボットと話す事はあっても、女の子と話す機会などなかったのです。

 それにビリーは、一人で静かにその身を終えようとしていたのですから……。

 口ごもるビリーを見かねて、その子はビリーの手を取りました。

「しょうがないわね、とりあえずついてらっしゃい」

 ビリーは手を引かれるまま、彼女について行きました。

「私の名前はフラン。あなたは?」

「……ビリー」

「なんだ、ちゃんと喋れるんじゃないの」

 フランはそう言うと、振り向きざまに花のように笑いました。


 フランに連れられて着いたのは、大きな孤児院でした。

 中に入ると、そこには沢山の子供達が眠っていました。

 フランの話では、ここではビリーと同じように、一人ぼっちになってしまった子供達が、お互いにぜんまいを巻き合う為に集まっているらしいのです。

「私達はさ、絶対に一人では生きられないじゃない」

 フランはそう笑いながら、ビリーに自分のぜんまいを手渡しました。

「私、今日まだなんだ。ビリーの巻いてあげたんだから、お願いね」

 促されるまま、ビリーはフランの背中にぜんまいを差込み、キリキリと回しました。

 その途中、奥からもう一人ロボットが出てきました。

「おかえりフラン、そっちの子は?」

 ぜんまいの音がかちっと巻き終わりの音を立てました。

「こっちはビリー、名前しか知らないわ。さっき止まりそうになってたのを助けたの」

 フランはビリーからぜんまいを受け取りながら、そう言いました。

「そうかい、私はここの園長です。ここは疲れた子供達が集まる場所だ、ゆっくりしていっていいんだよ」

 そう言われたビリーは、思わず頷いていました。

「じゃあ、今日はもう寝ましょうか」

 フランに言われ、ビリーは貸してもらった布団に身体を入れました。

 子供達の安らかな寝顔を見て、ここは素敵な場所だと思いました。

 朝になったら、ここで働かせて貰えるように頼んでみよう。

 ビリーは、お母さんの言葉を思い出しながら、そのまま眠りにつきました。

『ビリー、私の愛しいビリー、もしお母さんが居なくても、決して寂しがってはいけないよ。ビリーは強い子だから、元気に生きなくてはいけないよ』

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