5 夜話

5 夜話


 食事を終えた後に軽くシャワーを浴び、自室で本を読んでいると、再びロイドが部屋に入ってきた。

「失礼いたします」

 箒とちりとり、それに小さいバケツに布巾を入れている。

「武文様、窓を開けさせて頂きたいのですが、宜しいですか?」

 そう問われたので、軽く窓を開けてやる。夜風が部屋の中を軽くさらい、すぐに収まる。

「ありがとうございます」

 そう笑うロイドの姿が、何だか少しだけ可愛く見えた。

 掃き掃除をして、棚の上などを軽く拭いた。正直、どこが汚くなっているのか分からないが、時計や飾られた絵の額なども丁寧に拭いていた。

 一通り掃除が終わると、そいつは掃除用具を持って一度部屋を出て、リンゴを片手に戻ってきた。

「リンゴはお嫌いですか?」

「いや、嫌いでは無いけど」

「よかった、どうぞお召し上がり下さいませ」

 そう言ってテーブルにリンゴの皿を置いて、本人はと言うとこちらを見てニコリと笑った。

「本日の私の業務は、これにて全て完遂いたしました」

「そうか、ご苦労」

「武文様は、すぐにお休みになられますか?」

「……ん? いや、リンゴも食べるし、まだ8時だからな」

「それでしたらお願いがございます。私に、武文様の事をお聞かせ下さいませんか?」

 そう言ってメイド服の裾をつまみ、こちらに頭を下げた。

「俺の事?」

「些細な事で構いません。お好きな食べ物やお飲み物等をお聞かせ願えれば、今後のお役にも立ちますし、武文様がお好きな物語や、旦那様のことなどもお聞かせ願いたく思います。武文様が私に話しても差し支えないと思われる、本当に微細な事で構いません。ご都合が悪いようでしたらすぐに退室致しますが、お願い出来ませんでしょうか?」

 そう恭しく頭を下げられ、何だか断りづらかった。

「まぁ、いいけど?」

「ありがとうございます」

「で、何を話せばいいんだ?」

「何でも構いません。武文様の事が知りとうございます」

 そう笑顔で言われると悪い気はしない。それに、こいつの顔ならば比較的まともに見られる。

「とりあえず、座れよ」

「あ、いえ、私は……」

「いいから、相手が立ってると話しづらいし、席は空いてるんだから」

「それでは、お言葉に甘えさせて頂きます」

 ロイドはペコリと軽く頭を下げると、スカートの裾を前側に押しやり、しゃなりと腰を下ろした。背筋がピンと通っている所が人間らしくないとも感じたが、端々にこういう仕草が無いと人間だと勘違いしてしまいそうだ。

「リンゴは? 消化機能は無いんだっけ?」

「ああ、はい、折角のお勧め申し訳御座いません」

「まぁ、そうだよな」

 フォークの先に刺さったリンゴを一つ齧る。果肉の甘さが酸味と混ざって、口の中にジワっと広がっていく。水気が多くて、美味しかった。

「で、何の話をすればいいんだっけ?」

「それでは、まずは武文様のご嗜好についてお聞かせ願えますか?」

「ゴシコウ? 考えって事?」

「いえ、好き嫌いの方でございます」

「ああ、いいよ」

 その時にふと、心に充足感を感じた。こうやって、会話をする事自体久々だったから。

「武文様?」

「ああ、すまん、ゴシコウだったな」

 半分齧っていたリンゴを口に放り込み、俺は目の前のロイドに言葉を投げた。

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