第1章 幻の恋人

 ふと見回すと、王子の姿が消えている。

 ダリウスはあわてて踊り相手の令嬢に謝り、人々の輪を抜けて華やかな大広間を飛び出した。(また花嫁探しの舞踏会が台無しだ。ライラ王妃のご機嫌が悪くなるぞ)心のなかでつぶやきながら回廊に出ると、今しがた王子と踊っていた派手な衣裳の美女が不満げに突っ立ち、傍らで侍女がなだめている。それを横目に階段を駆け下りて外へ出ると、栗毛馬に跨った王子が、駛り出したあとを隊士たちが追って行くところだ。

 今年から加わった弟のマリウスが、ちらりと兄を確認してから馬の腹を蹴った。ダリウスも従者に渡された紅色の手綱を持って馬を急がせる。意志の強そうなしっかりした顔立ちだ。いつもの軍服でなく、瀟洒な薄緑の衣服が濃い茶色の髪と調和して、青年貴族の品の良さと落ち着きを感じさせる。グラント王子が生まれたときから、ずっと一緒に育てられた、だれもが認める王子の片腕なのに置いて行かれては恥だ。一緒に踊っていたモリスは澄ました顔をして前方にいる。

 美しい栗毛馬の左右には青い軍服姿のロベール、セキト、マリウスが従い、水色の衣服を優雅に着こなした長身のモリスが、振り返って軽く微笑を送ってきた。間に合ったなという顔だ。ダリウスは渋面を返した。まったく王子の行動は素早いからうっかりできない。

 広い王宮の庭園を警備している兵士たちは黙って見送った。黒い馬に乗った護衛隊は兵士のあこがれであり、そのなかでも王子を護る七人の親衛隊士は特に注目の的なのだ。蹄の音が高らかに響く。いつも朝駆けに行く小高い丘まで軽快に飛ばして馬から降りると、王子はほっとしたような顔をみんなに向けた。

 十七歳といっても並みの大人よりずっと大柄で、落ち着いた栗色の髪に囲まれた彫りの深い顔は高貴さと勇壮さを感じさせるが、その空色の瞳はまだ自由と冒険を求めているかに輝いて見える。明るい黄白色に金で見事な刺繍を施した典雅な衣服を気にもせず、芽生え始めた草の上へ無造作に腰を下ろすと、みんなもそれに倣った。

 王子は幼い頃から父王や将軍と一緒に戦場へ赴き、鍛えられてきたせいか、引き締まった躰はたくましく、武術は得意だが舞踏会はどうも苦手だ。それでも強大国の王太子が年頃だとて、花嫁候補の肖像画が方々から届けられ、度々の舞踏会では招かれた姫君たちの相手を礼儀正しく務めても、未だかつて王子の瞳が情熱にきらめくさまをだれも見たことがない。それどころか、嫌となれば途中でいなくなってしまうのだから、ライラ王妃が怒るのも無理はないだろう。

「戦いに行くほうがよっぽど楽だな」と王子は大きく息を吐いた。

「裾を踏まないように気をつけながら、適当に話もしなければならない」

「たまにはお世辞もですか」とロベール。

「お世辞は駄目だ。心にもないことを言って期待を持たせたくない」

「まだお妃にふさわしいと思われる方は見当たりませんか?」とダリウスが訊いた。

「美人はいても、気品があって知性も欲しいとなると、なかなかいないものだ」

 確かに贅沢な希望かもしれないが、王子の母エリザ前王妃の肖像画を見ているみんなは、王子の望みが何を意味しているのか理解できる。気高く美しい母の面影が、王子の心の奥にしっかり根を張って美化されてしまっている。記憶にない母でも、容易に打ち崩せない理想の女性だ。といって母そっくりの女性がいるはずもない。今朝も父王から、そろそろ花嫁を決めるようにと促されたのだが……。

 東の国ダイゼンでは、この半年余り戦いの神も疲れたのか鳴りを潜め、多少の紛争はあっても平和な日々がつづいている。勇猛な青い軍隊は近隣諸国から恐れられ、多くの小国は服従し、ダイゼン領に変ってしまった。しかし、常勝王と畏れられたクラード王の健康不安が、人々の噂になりつつある今、成長したグラント王子の一日も早い婚礼をみんなが待ち望んでいる。隊士たちも、王位継承者第二位に当るリド・ライアン貴公子の艶聞を耳にするたびに、早く良いお妃をと待ち焦がれている。婚約者がいるモリスはなおさらだ。が、今日の舞踏会でも王子の心を射止めた女性はいなかったらしい。

「さきほどの姫君はいかがでしたか」とモリスが、途中で抜け出すようでは駄目だと思いながらも尋ねた。

「化粧の匂いはきついし、香水の趣味も悪い。その上ぴったり寄り添ってくるから踊りにくい。ライアンならうまくやるのだろうが私は嫌だ。可哀想だが逃げ出したくなる」

 どうにもしようがない。みんながため息を洩らしたとき、疾走する蹄の音が近づいて二人の若者が現れた。やはりこちらでしたか、と息を弾ませて馬から飛び降りたのは、金茶色の髪を波打たせ、深々とした碧い瞳が美しい、王子より少し細身で端正な顔立ちの青年。眉と目の間がやや詰まっているのが、いっそう深い瞳を謎めいて見せる。そのタクマは女性たちの関心を集めているが無口でそっけなく、みんなを失恋ばかりさせているともっぱらの噂だ。それでもタクマが現れると周りの雰囲気が急に華やかになり、剣を持てば華麗な剣技でみんなを魅了してしまう不思議な存在。王子より一歳年下だ。

「国境での紛争は収まりました。隊長の話では、例の朱と緑の羽飾りをつけた帽子の男がいたそうです。他は異状ありません」

「捕らえたのか?」

「いいえ、森へ逃げ込みました。たいしたことはないと思いますが探索はさせております」

「何が目的か判らぬが気にかかる。今度不穏な動きあらば引っ捕らえろと隊長に伝えよ」

 最近出没する集団なので、王子は少し残念そうな顔をしたが、もう一人の隊士ジョウに、「来る途中で聞きましたが、セラに仔が産まれました。良い牡だそうです」

 と報告されると、ぱっと瞳が輝き、「産まれたか。きっと良い馬になるぞ」と素早く身をひるがえして馬に乗った。

「見に行こう。つづけ!」声が弾んでいる。みんなもいっせいに厩舎へ向かって駛り出す。

早春の風はまだ冷たい。ダリウスは思わず顔をほころばせた、美しい姫君よりも、名牝の産んだ仔馬のほうが、はるかに魅力があるらしい。これではまだ当分花嫁は決まりそうにないか。昏れかかる西の空が朱く染まっていくなかを、羽飾りの男が自分と関わりがあるとは知らず、ダリウスは王子の後を追って行った。


 その頃華やいだ宴が終わり、静かになった王宮ではライラ王妃が怒りを爆発させていた。後片付けを始めた侍女たちを叱り飛ばし、侍従にも当たり散らしたが、それでも怒りは容易に鎮まらない。前王妃の子である王子のためにいろいろと気を遣い舞踏会を催しても喜ぶどころか、いつも迷惑げな顔をしている。

 王妃の出身地アガシアから、姉マイラ女王の娘レイラ王女を招待したときですら、王子はお義理に一度踊っただけで後は知らぬふりだった。印象を尋ねても生返事で、あげくの果ては「まだ妃を迎える気持ちはない」と、味も塩っ気もない言葉が返ってくる。いいかげんに婚約してくれないと、めぼしい姫君たちはみんな嫁ぎ先が決まってしまうと気をもんでいるのに、ユリア・ライアン公妃が悠然と笑っているのも癇にさわる。息子のリド公子は貴婦人たちの評判も良く、そつなく接して社交上手なのに、王子は笑顔も見せず、お世辞も言わず、まるで他人事のような態度なのだ。近づいてきた公妃に、

「王子はどんな姫なら気に入るのでしょう。これではだれもいなくなってしまいますよ」と王妃は腹立ちまぎれに文句を投げた。

「まだ、優れた姫君がおられますから、ご心配には及びませんわ」

公妃は大柄な躰同様、鷹揚にさらりと言う。

「それでは、その優れた姫君とやらをお世話して頂きましょうか。私はもうこれ以上のことはできませんから、公妃にお任せしますわ」

困らせたくて、つい言ったのだが、「本当によろしいのですね」と公妃は確かめた。

「どなたか心当たりがありますの?」王妃は少し不安になったが、いまさら引っ込めるわけにもいかない。ユリア公妃はクラード王の妹だ、当然、ライラ王妃に匹敵する勢力を誇り人脈も広い。しかし、たとえだれが王太子妃に選ばれようと、最高位に君臨する王妃の自分が脅かされるはずはない。だが、自分の娘サラ王女はまだ十二歳だし、国王である夫は以前の戦いで受けた古傷が痛んで、馬に乗るのもつらそうだ。最近は心臓の具合も悪いらしい。万一の場合を考えると心配になる。

 戦争を大きな狩りぐらいにしか感じていないグラント王子に、もしものことがあれば、公妃のおしゃれな息子に王位が渡ってしまう。それは絶対に許せない。この強大国の王位に即くのは、やはり勇壮な王子でなくては治まらないのだ。

 そう思うと王妃は将来に備えて、王子に自分の好意を伝えるためにあれこれと心配りを忘れない。時にそれがおせっかいになっても、自分の愛する娘サラ王女の強い味方であってほしいという願いが込められている。公妃がだれを推薦してくるか、いくつかの肖像画を思い浮かべながら、結局王妃は王子の花嫁探しを公妃に依頼した。

 ユリア公妃が入った部屋には、いろいろな条件を充たした、特に優秀と思われる花嫁候補の美しい肖像画が並んでいる。飾られた絵姿を、王子は何となく目を通しただけで、だれがいいとも言わず、そのままになっているのだが、公妃はもう一度ゆっくり眺め直した。

 南の国アガシアの王女レイラ、西の国アムランの王女ジュリア、王族の娘セーラ、  美女の誉れ高い貴族のカナ、そして公妃の推す北の国カザクラの王女アリサ。

 見比べてみてやはりアリサ王女だ、と公妃は確信を深めた。匂うような気品と美しい容姿は、王子の母エリザ前王妃にどこか似ている。現在のカザクラ王は前王妃の兄に当るから当然かもしれない。できることなら従兄妹は避けたいが、父クラード王そっくりの髪と容貌を持つ王子と違って、緑がかった茶色の髪で少し華奢なアリサ王女は、母系の血を多く引いているようだ。それほど濃い血の心配はいらないと、信頼するナルセ学長は肖像画を見て公妃を安心させたし、すでに占術師にも密かに占わせている。大国の妃にふさわしい恵まれた星を持ち、後継ぎも授かると保証され、公妃はクラード王に自分の意見を述べていた。

 再び王の居間で内密に会い、王妃に任されたと話すと、王は立派な髭をしごきながら公妃を見た。威厳のある顔が眉を寄せるといっそう恐く感じられるが兄妹仲はいたって良い。

「カザクラは長い伝統を誇り、名誉を重んじる国だ。王子がそれを弁えて会うならばよいが、会ってから断ることは難しいぞ」

「難しいことを申し上げれば、会わぬと仰言るでしょうから、何も申し上げず、とにかく狩りのあとで歓談のひとときを持たれるように取り計らいましょう。私はきっとグラント王子がお気に召す方だと信じておりますわ」

 うむ、と王はしばらく思案してから、任せよう、と承諾した。時折り踝の古傷が痛む。知らないうちに唸り声を発して側近たちをあわてさせるが、隠していても馬の乗り降りに困る。王者は強く美しくなければならない。情けない姿を見せて同情されるのはクラード王の美学に反する。王は最愛の息子にいつ王位を譲ろうかと、心密かに考えていた。若いとはいえ立派な後継者に育て上げ、今や勇猛なグラント王子の名は近隣に轟き渡っている。あとは同じように格式の高い大国から妃を迎えれば安心だ。早く母を無くした王子に温かい家庭と家族を持たせてやりたい。王の意思を受け、何やら密談を交わしてから、公妃はアリサ王女の肖像画を、王子付きの女官マヤに、王子の居間へ運ぶように言いつけた。

 ライラ王妃はいくつかの肖像画を並べて、どれでも好きな姫を選びなさい、というやり方だったが、王子はそっぽを向いていた。公妃は違う。的を絞って一本の矢で確実に射落とそうとする。決まればエリザ前王妃も喜んでくれるだろう。戦場へ征く王を、少し悲しげな顔をしながら見送っていた王妃の優美な姿を思い出す。広間に飾られている前王妃の肖像画を見に、公妃がそっと階段を降りていくと、明るい灯のなかに浮かび上がる姿は、いつもながらため息が洩れるほどに美しい。が、公妃ははっとした。絵の前に佇んでいる白い人影。王子だ。両側にはいつも付き従う獰猛な黒犬が行儀よく座っている。微かに首を回した一頭が、公妃を見とめてそ知らぬふりでまた前を向いた。清麗な空気が夜の広間を包み込み、静寂を守ろうとしている。何を思いながら母の絵を見ているのだろう。立ち止まった公妃はやがてゆったりと踵を返し、衣擦れの音を残してその場を去った。

 王子は腕を組んだまま、じっと母の肖像画に見入っていたが、わずかな灯のゆらめきと音で背後に人の気配を感じ取った。しかし犬たちが警戒せずにおとなしくしているので、公妃だと察した。王妃ならすぐうるさく話しかけてくるだろう。この静かなひとときをだれにも乱されたくない。足音が消えると王子は大きく息を吐いた。

(母上のように気品があって誇り高く優美な人がいたら、迷わずすぐにでも決めるだろうに、なかなかいないものだ。いや、いるはずがない)

 それは誇りと失望の入り混じった妙な感覚。記憶はないのに母への思慕は年とともになおさら募る。美しい絵は王子の心のあこがれ、幻の恋人でもあった。黙っている母に向かって、どれだけ話をしてきたかしれない。しかし、幻を追い求めても得られないのは承知している。もう誰かに決めなくては……口には出さないものの、王妃からは急かされ、心惹かれる女性にもめぐりあえず、結局自分の思うようにいかないなら、周りが気に入って勧める人のほうが、嫁いでくる花嫁にとっても幸せなのだと思い、最近では成り行きに任せようかという気持ちにもなりはじめている。しばらく経ってから王子は自分の思いを振り払うように顔を引き締め、勢いよく階段を駆け上がっていった。


 居間に入ると、美しい肖像画がたったひとつ飾られていた。ぱっと目を惹く明るさだ。

昔、養育係をしていたアヤ夫人の娘で、王子の身の回りの世話をしている女官マヤが、ライアン公妃がお目にかかりたいと申されておりますが、と伝えた。

「カザクラ王国のアリサ王女について、お話申し上げたいと仰言っておられます」

「通してくれ」仕方がない。今夜断れば明日になるだけだ。舞踏会を抜け出し、夕食会もすっぽかしたという後ろめたさが多少ある。待っている間に何となく肖像画を眺めた。見つめていると、思いがけず気品があって美しいし、どこか母の持つ雰囲気が感じられる。こんな絵があったかな、と王子は関心を抱いた。一枚の絵は多くの絵姿を見比べるより、はるかに強い印象と好ましさを与える。見ていると公妃が悠然と現れた。

「アリサ王女はこの肖像画よりずっと素晴らしい姫君だと思いますわ、グラント王子。一度お会いになってみて頂けませんか」

 物柔らかだが単刀直入に公妃が勧めた。

「もう会うことに決まっているのですか」と王子は絵のほうを向いたまま尋ねる、

「いいえ。王子のお気持ちを伺ってからのことですけれど、私はアリサ王女より優れた方はほかに見当たらないと思いますのよ。この肖像のどこかにお気に召さないところがございまして?」

 そう訊かれると何も反論できない。豊かな髪を巻き上げ、ほっそりとした首筋が白くて華奢だ。精巧な刺繍に彩られた薄紅色の華麗な衣裳に包まれ、微笑を湛えた顔は気品にあふれている。優雅ななかに誇り高い瞳は灰色がかって青くきらめき、形のよい鼻もなだらかな曲線を見せる花びらのような唇も王子の好みだが。

「少し細く感じるが、健康に不安はないだろうか」と訊いたのは母のことを思ってだろう。

「ご健康と伺っておりますわ」「乗馬は?」

「あまりお乗りにならないそうです。あちらでは上流の婦人はほとんど馬車ですから」と答えて、でも練習なさればすぐ上達されますわよ、と言い添えた。公妃は躰に似合わず乗馬は得意だ。王子は黙り込んだが、絵を見ているところを見ると嫌ではなさそうに思える。

「伝統のある格式の高い国ですから、互いに釣り合いの取れた良い縁組だと思いますわ」

「母の故国か」王子は独り言のように言う。

「断ってばかりではだれもいなくなってしまうと王妃が言った。誰でもいいというわけではないが、みんなが勧めるなら会うだけ会ってみてもいい」

「きっとお気に召しますわ。気品があって美しい。その上、聡明な方ですから」

「公妃はずいぶん気に入っておられるようだが、王妃も同じ意見ですか」

「まだ伺っておりませんけれど、私に任せると仰せでしたから、喜ばれると存じますわ」

 公妃はもう決まったかのようにうれしそうだ。早く決めて肩の荷を下ろしたいとも思う。恋人がいないダリウスはともかく、婚約者がいるモリスは喜ぶだろう。王子の婚礼が済むまではと、かたくなに待っているモリスは、無言のうちに早く妃を迎えるようにと促しているのかもしれない。アリサ王女は本当にこの絵より素晴らしい人だろうかと、少し興味が湧いてきた。 夜鶯の啼く声がする。

「それでは公妃に任せよう」王子はまだ絵姿を見ながら淡々とした言い方で公妃に委ねた。


ダリウスの父ジリウス・アサド公はこの国の出身ではないが、宰相として国王の信頼厚くイクマ・アキノ国政大臣とともに重要な地位を占めている。政治手腕はもちろんのこと、高潔な人格者としての評価が高く、国民から尊敬されているのはダリウスにとっても誇らしいことだ。父も自分も焦茶に近い髪だが、ダイゼンでは茶や栗色が多いから少々異質である。弟と妹は母に似たのか栗色だ。いつの頃からかダリウスは自分が母と信じていたアサド夫人の本当の子ではないと知ったが、詳しいことは何も聞かされず、小さい頃から父と一緒の王宮暮らしに慣れ、物心ついたときにはいつも王子と行動を共にしてきた。

 幼いながらも王子を立て、護るのが自分の使命だと心得ている。そして、国王が王子を八歳の頃から戦場に連れ出すのに伴って行ったが、少年ながらなぜまだ小さい王子を連れて行くのかと疑問に思ったものだ。王子が十一歳になったころ、ダリウスは急に背丈が伸びだして、考え方も大人びてきたせいか、一歳年下の王子が幼く感じられた。或る勝ち戦の帰途のこと、荒野をゆっくり進んでいたとき王子の躰が揺れているのに気づいた。単調な蹄の音と暖かい陽気に眠気がさして、うとうととしているらしい。落馬したら大変だ。ダリウスは隣のモリスに自分の手綱を渡して王子の後ろに飛び移った。王子はびくっとして目を見開いたが、ダリウスと知って笑顔を見せ、胸に頭を預けて眠り込んでしまった。王子の躰を支えながら馬を駛らせ、寄り掛かった王子の栗色の髪が鼻や口の辺りでなびくのをむずがゆく思いながら、王子の髪は太陽の匂いがする、とダリウスは感じた。しかし、この少年が将来この国の王となって君臨していくのだという実感が起きてこない。生まれながらに王位を継ぐ栄光の運命と任務を担っているとはいえ、ただの少年ではないか。自分とどんな違いがあるのか? そんなことを考えながら黙々と進む。王子に対する愛情や責任感はあっても、まだ畏れや尊敬の念はなかったといっていい。が、それから一、二年の間に急激な変化が起きた。

 王子は、ある時期さなぎが美しい蝶へ生まれ変わるように、めざましい変化を遂げたのだ。背丈はいつの間にかダリウスを追い越していた。柔らかな唇が引き締まり、薔薇色の頬が鋭い線に変わり、落ち着いた目許には迫力が漲ってきた。若さにあふれた伸びやかな雄姿は威風堂々と辺りを払う。その成長をダリウスは畏れながら見守った。王子は知らないうちに仰ぎ見る存在になっていたのだ。

 そして今、伴侶を選ぶ時期が来ている。しかし王子を観察していると、真剣に姫君たちを見ていないし、どこか投げやりというか表情も醒めている。ダリウスには王子が記憶にない母を恋い慕っているのがよく判るのだ。広間から二階へ上がる階段の近くにある肖像画は確かに素晴らしい。澄んだ誇らしげな瞳は少し宙を見上げ、くっきりと整った目鼻立ちはだれも文句の付けようがないだろう。絵であっても優雅さと高貴な香りがただよってくるようだ。ダリウスは王子がこの前でじっと佇んで物思いに耽っている姿を見るたびに胸がせつなくなった。自分も母の記憶はない。肖像画ひとつ残されていないのだ。アサド夫人は穏やかで優しくても、どこかになじめないものがある。なぜなのか、そのわけを父に尋ねるのは憚られる。母への思いは心の底に秘めておくだけで、どんな母だったのか知るすべはなかった。


 一方、宰相とともに重要な地位にあるイクマ・アキノ国務大臣の息子タクマは、小さい頃から周囲の注目を浴びていた。母アベラは若い頃、絶世の美女と謳われてお妃候補にも挙がったが、今もその美貌は衰えていない。タクマは自分がどこか普通の子どもと違う存在であるとおぼろげに察していたものの、厳しい母の教育に素直に従う無口で聞き分けのいい子どもだった。いずれ父の後を継いで、この国を背負う高位へ昇るのだという自負もあっただろう。父は温顔でタクマに優しく、父がいると安心できたしタクマの目標でもあった。そして。よく遊びに来る一歳年上の従兄ユウマと一緒に馬を駛らせたり、剣の稽古に励んだり、腕を競って取っ組み合いをしたりするのが楽しかった。互いに投げたり投げられたり、転げ回って敏捷性を養ったとも言える。負けん気の強いタクマも従兄にはよくやられたが、悔しがっているタクマを従姉アンはいつも慰め励ました。四歳上だからずっと大人っぽく感じられる。自分の弟より可愛がって優しく抱きしめてくれるのが、タクマは平静さを装いながらもうれしかった。母は少しもタクマを甘やかせてくれなかったのだ。二つ年上の姉には優しいのになぜだろう。自分には〈腕を磨け〉〈剣の稽古をしろ〉といつも恐い顔をしている。自分に向けられた母の笑顔を見たことがない。

十二歳になると、将来を嘱望された少年たちは普通の学校から王立の特別な学校へ移り、寄宿舎生活に入る。タクマはすらりと背が伸びて、いっそう華やいだ端麗な容姿が人目を惹くようになっていた。母は息子にいろいろと注意を与え、天体の星の位置を示した出生図と、現在の位置が記された星図を見ながら言った。

「あなたは木星の強い力に護られ、太陽の恵みを受けて進んでいくのです。自分の信念を曲げず、勇気と忍耐を持って立派に生きていくのですよ。決してひるんではなりません」

 よく理解できなくても素直に「はい」と返事をした。母に叱られるのは大嫌いだ。母は結婚前に習い始めたという占星術をまだ信じているらしいが、自分は信じないとタクマは思った。星の定め通りに生きるなら、人間は神が創った操り人形に過ぎないではないか。自分は自分の力で道を切り開いてやる。どんな運命であれ宿命などに負けるものか  。

 アキノ夫人は厳しい表情をゆるめない。稀な美貌を持って生まれてきた息子の身が案じられる。金星をめぐる火星や土星の影響を受ける時期が近づいてくるのだ。しかし、あれこれ言えばかえって暗示にかけるかもしれないと思い直し、天命に任せて息子を送り出した。親の許を離れ、自由に自分の力を発揮したいと思っても、今はその自由を得るために規律や秩序を重んじ、上の命令に従わねばならない。強さを求めて剣の腕を磨き、教養を身に付けて自分に自信を得るのだ。タクマには勉強することがたくさんあった。

 選ばれた少年たちは初めの一年をひとつ年上の上級生と、後の一年を下級生と暮らす。未来の精鋭たちを養成する場だから、学問も武術の鍛錬も厳しい。その上、少年たちは遠慮なく自分の腕力を誇示し、能力を競い、優劣を確かめようとする。群れを嫌い無口なタクマはすぐ目を付けられて喧嘩をふっかけられた。

 そのなかにはカムラ将軍の次男セキトもいた。兄のハヤトは護衛隊長に昇格し、腕力には自信がある勇猛な一族だから、女と見まがう美少年を少し痛めつけてやれと思ったのだろう。或る日、飛びかかっていったセキトがタクマを床に押さえつけた。と思った瞬間、反対にセキトは投げ飛ばされていた。軽く見ていたのは確かだが、思っていたよりも腕力がある。周りにいた少年たちは呆気にとられて見守っていたが、顔に似合わぬタクマの烈しい気性と剛腕を認めて一目置くようになり、剣の練習が始まるとみんなの目は素直にタクマの剣に心を奪われた。アキノ夫人が息子を案じて厳しく躾てきた成果だろう。教官も、正確で美しい剣の遣い方を誉め、天才剣士タクマ・アキノの名はたちまち評判になり、喧嘩を仕掛ける少年はだれもいなくなった。いつの間にかセキトと仲良くなり、馬術競技で華麗な手綱捌きを披露するジョウとも親しくなった。だんだん厳しい生活にも慣れた。

学校には王宮でモリスやダリウスとともに勉学に勤しむ王子がたまに姿を現す時がある。この国の歴史や戦争の話が語られる時間だ。そのとき少年たちはいつか仕える王者の姿を目の当たりにして自分たちの使命を再確認する。起立して礼儀正しく迎えると、王子は無人の部屋へ入ったようにそっけなく、前方の特別な椅子に腰かけて黙っている。その王子よりも、左右を固めて王子一筋に仕えているモリスとダリウスの精悍な顔と大人びた動作に少年たちは惹かれた。大人同様の背丈と厳しい表情に恐れと敬意を抱いたのだ。ふたりのように選ばれた者になりたいという羨望と憧憬の目が注がれるなか、ふたりはまじめな顔を崩さず、授業が終わるとみんなの礼を受けても少年たちに一瞥もくれずに、王子を護って足速やに出て行ってしまう。王子は特別な存在だが、彼らも高い銀嶺を眺めるがごとく、はるか遠い存在に感じられる。

 そのなかでタクマは無関心さを保ちながらも、いつかふたりと肩を並べてやるぞと心に誓っていた。二年が過ぎ、タクマはひとつ上のセキト同様、護衛隊に配属されてまた一年間の研修を受けた。その間に戦場へ征くこともあり、武術を競う様々な試合も盛んに行われる。特に春と秋に催される馬術競技や剣の試合は国王や王子をはじめ大勢の観客が見守るなかで、正々堂々と腕を競って真剣に繰り広げられるのだ。少年の大会で優勝していたタクマは十五歳になったとき初めて大人の資格を得て、十五歳から十九歳までの青年たちが競う剣の試合に臨み、順調に勝ち進んだ。密かな自信はある。決勝で前回優勝したモリスと戦うことになり、タクマの胸は弾んだ。


王者は強者であるという国王の意に沿って育てられたグラント王子は、幼い頃こそ連戦連勝をつづける剛勇クラザ将軍を頼もしく思い、敬意を払ってきたのだが、成長するにつれて疑問が湧き、醒めた瞳で見るようになっている。もうこれ以上国を広げるより国力を充実させて、文化や芸術に力を入れたほうが良い。三人の息子を持つ将軍の力が肥大するのは危険だ。王都ダイランに落ち着いて、これからの方針を考えなければなるまい。

そう思う一方で、幾度かの戦いを思い起こすと若い血が騒ぎ立つ。戦場を思いきり駆け回った日々の高揚感は忘れ難い。軍馬の嘶きや、剣や軍靴の響く音が耳に蘇ってくる。

今やダイゼンの青い軍隊と、先頭にはためく紺地に金で刺繍された大鳥の軍旗は周囲の国からすっかり恐れられてしまったが、それまでは戦地に向かうとき勇敢な騎士たちを従えて疾風のように駆け抜けていく王子を、沿道の人々は誇りをもって見送ったし、太陽もその力を背後から明るく照らして勝利を約束した。戦場では甲冑も着けずこれ見よがしに高く羽飾りのついた帽子をかぶり、朱い軍服に黄金を豪華にあしらった王子の勇姿はとりわけ光彩を放つ。その上、強さを誇示して猛然と駿馬を飛ばしていく。やれるものならやってみろと言わんばかりに敵を挑発し嘲るふるまいは敵の標的になって当然だが、軍神に愛された青年は恐れを知らず自信に満ちていた。たまに敵が放って飛んでくる矢が傍らを掠めることはあっても王子は余裕で打ち払う。そして、そんな王子に万一の事態があってはならぬと、騎士たちは互いに鼓舞し合い勇猛果敢に敵陣へとなだれ込んでいくのだ。

「グラントがいると皆は三倍もの力を発揮する」と王は満足げにその様子を見守った。

 戦い終えて、軍馬たちの起こす地響きが春雷のごとく唸りを上げて凱旋したときの晴れやかな雄姿は、歓呼の嵐のなか、誇りを持って迎えられたものだ。民衆の歓声に応えるとき、騎士たちの雄々しい胸は歓喜に震え、すべての苦しみは天空のかなたへと吸い込まれていく。

 その頂点に立つグラント王子の誇らしげな姿は軍神のごとく人心を掌握し、命を捧げても悔いないと思わせる強烈な魔力を持っていた。仰ぎ見られる王者は常に偉大で美しくなければならない。安定と平和へ時代が移ろうと、国王や王子はもちろん青い軍隊と騎士たちが尊敬されていることに変わりはないのだ。

 王子を護る隊士のうち、王子の又従兄でありライアン公子に次ぐ順位のモリスと、ダリウスは幼い頃から王子と共に帝王学を学び、いつか自然に王子の周囲を固める立場となり、やがてセキトが加わった。どこか醒めた凄みを感じさせるのはカムラ将軍家特有の血なのか、これほど軍服の似合う男も稀だ。そして、馬術で天才的な妙技を披露し、どんな荒馬でも乗りこなすジョウにも声がかかった。駛らせながら射る矢の正確さは群を抜いている。

 その後、槍の騎乗試合で優勝したロベールの少し野性的な雄姿が国王の目に留まり抜擢された。貴族出身ではないが、この国では武術に優れて忠誠心が厚ければ出世の道が開かれていた。そんななかでひとりだけ王子が自ら望んだ青年がいた。


 粒よりの剣士たちが腕を競う剣術の試合は春と秋に催され、狂気を伴うほどの熱気を帯びた大歓声のなかで行われる。沸き立つ声援の渦巻く異様な雰囲気に呑まれず、落ち着いて試合を進めるのは容易なことではない、前回勝利を収めた沈着冷静なモリスが最終まで勝ち残り、長い勝負にてこずったものの揺さぶりをかけて、わずかなきわどい差で再び優勝杯を手中にした。そのとき惜しくも敗れたのが初めて出場した天才剣士の噂高いタクマだった。モリスとは二歳の年齢差があり、長身のモリスが繰り出す剣を懸命に受け、攻め、躱し、激しく競い合った。いくら攻め込まれても崩れない美しい姿勢と華麗な剣技に、観客は息を呑んで見守っていたが、試合が終わると万雷の拍手がふたりを包み、死力を尽くした健闘を誉め称えた。わずかな差で敗れたとはいえ、どんなときにも崩れない端正な姿と正確な剣は、グラント王子の心を強く捉えた。

「タクマ・アキノを隊士の一員に加える」とダリウスに伝え、公見の間へ入ると、着替えを済ませたタクマはほどなく王子の前に現れた。何度か剣の試合で見た覚えはあるが、直接近くで顔を合わせたのは初めてだ。何という凄い瞳をしているのだ、と王子はタクマの瞳の奥に燃え上がる碧い炎に魅了された。魂の深層に眠る何かを強烈にゆさぶられ、不思議な感動が呼び覚まされて広がっていく感じだ。

 一見、優しく落ち着いた碧い瞳は王子の凝視に臆することなく、しっかり受け止めているかに見えるけれど、どこか遠くを見ているような醒めた静けさも秘めている。そして、敗れた悔しさをぐっと押し隠して無表情を装っているものの、烈しい瞳は抑えようもなくきらめいて見える。親衛隊士に加えると告げられ感謝の言葉を述べたが、さほど喜んでいる様子でもない。負けたのが悔しくてどうにも納得できない思いらしい。

「なぜモリスに勝てなかったか判るか?」

 王子の質問にタクマは一瞬鋭い視線を向けたが、その目を宙に移し黙って考え込んだ。王子はしばらくタクマを見つめてから、

「そうか、タクマはそのままで良い。次の試合では必ず勝てる。いっそうの努力で腕を磨け」と励ました。

「私の技量が及ばなかったのです。次回は必ず優勝することを誓い精進を重ねます」

 タクマの瞳が燃え、頬が紅潮した。形の良い高い鼻も、くっきりした眉も男らしいが、長い睫毛に縁どられた情熱的な瞳と、ぐっと結んだ唇はどこか柔らかな曲線を描き、稀に見る美剣士と噂されているのも頷ける。

 タクマが退がってからも、王子は独り胸の奥にうごめく奇妙な想いが何なのか判然としないまま、黙ってさわやかな風が通り過ぎたあとに似た快い余韻に浸っていた。そして、ふと王子はここ数年禁じられている危険な「剣の舞」をやってみようと思い立った。美貌の剣士を思うままに動かし美技を揮う。豪快で美しい舞いを披露したら、観客は驚きと称賛のまなざしを向けるだろう。想像しているうちに王子の顔はうれしさに輝いてきた。空色の瞳はどんな姫君にも見せなかった情熱に満ち、歓喜にあふれて見えた。

 昔は年に一度の大祭と大きな戦いの前に、勝利の女神に捧げる「剣の舞」が披露されたのだ。二人の容姿端麗な剣士が選ばれて金と銀の衣裳を身に着け、勇壮かつ華麗に行われたのだが、数年前、厳かな雰囲気に緊張したのか、誤って相手を傷つけた若者が自分の胸を刺すという不祥事があり、その後の戦いでクラード王が負傷してから取りやめになっている。真剣を扱うために、一瞬の迷いも気のゆるみも許されない危険を孕んでいるのだが、王子は記憶にある剣舞の見事さが頭の奥に焼き付いていて、いつか復活させたいと密かに時期を待っていた。自分だけではできない。正確な腕を持ち、容姿の美しい剣士が必要だ。今、目の前に現れたタクマなら大観衆を唸らせてやれる。想像すればするほど、ぞくぞくと胸が高鳴ってくる。

 王子は剣舞の復活を決意した。練習を始めて瞳を合わすと、タクマの深く澄んだ湖のような碧眼に吸い込まれそうになった。しかし負けてはならない。この瞳にたじろいだなら、自分は王者ではなくなる。頂上に立つ者は常に気迫に満ちた瞳を保ちつづけるのだ。自信をもって自分に引き寄せ、思うままに動かさなくては……。気負いがあったのは確かだが、だんだん練習が進むにつれて王子は落ち着いてきた。タクマは全身全霊をあげてしっかり従いてくる。純粋な魂をぶつけて王子の指示を受け止め、調和し、美しい旋律を奏でるように清麗な動きを見せる。機敏さと容姿の美しさは思っていた以上で、王子の胸に満足感が広がっていった。基本に忠実で無駄がない。強くなりたいと思っていても、巧くなりたいとは思っていない、欲や邪心のない澄んだ瞳をしている。

 あの試合で一瞬モリスが崩れそうになったのを、王子はしっかり見ていた。左右に揺さぶれば勝てたと思う。タクマにも判っていたはずだ。それでもタクマは飽くまでも正統な勝負に徹しようとした。勝敗はともかく、自分が求めていたのはそのような剣を遣う男ではなかったか? 王子にとっては真剣ななかに心躍る楽しいひとときでもある。心のなかにはタクマしか存在せず、タクマもまた王子だけを見つめて危険な練習に打ち込んだ。

 そして初めて舞台に立った日の、王子の姿をタクマは鮮明に覚えている。

  金で飾られた豪華な衣装よりも輝いた王子の顔は、威厳と喜びにあふれ、緊張している自分とは反対に、実にうれしそうに周囲を見渡し、勇壮に舞い終わると、観客の拍手喝采に誇らしげな顔で応えていた。が、自分は王子の躰も名誉も傷つけずに済んで、心底ほっとしたものだ……。

それでも自分以外のだれが王子と一緒に踊れるだろうかと考えると誇らしい。タクマは心身が震えるほどの感動を味わいながら、この日を生涯忘れないだろうと思った。

 グラント王子を王者として認め、心身をなげうち、常に身辺を警護して従う。任務というより喜びであり、モリスやダリウスに追いつき並んだといううれしさもあった。

 しかし剣舞の後、周囲の目が微妙に変わり、羨望や嫉妬に似た視線を浴びせられるようになるとは思いがけなかった。タクマ・アキノはグラント王子に特別扱いされている。えこひいきの原因は何か? そんな声が聞こえてきた。稀な美貌が人々の想像を掻き立てるらしい。知らぬふりで無視していたが、やがてアゼラの戦いが始まり、終わって凱旋した頃から、いっそう王子との仲を妬み中傷する噂が流れ出て、タクマを困惑させることとなった。それはここ半年ほど変わらない。

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