貧困と階層社会と闘争に彩られた歴史

 貧困層の少年ゾッタが、ふとしたきっかけからギャングの幹部に拾われ、暴力によって成り上がってゆくお話。
 現実のここではないどこか別の世界を描いた、いわゆるハイファンタジー作品です。
 少年主人公がどん底から這い上がる姿を描いた物語ですが、成長物語というよりはピカレスクロマンの趣があります。本作中で描かれる成功は、少なくとも(物語の外にいる私たちの視点からは)手放しに祝福できるものではなく、といって最下層のままの方がよかったということは決してない。彼にありえた幸福の形はこれだけだった、という意味では、悲劇のような側面もあるかもしれません。
 お話そのものはあくまでゾッタ少年の物語でありながら、世界そのものを描いているところが好きです。より詳細にいうなら、彼ら一族の歴史が詳らかになる中盤の一幕で、一気に物語の奥行きが増すところ。
 もともと主人公の置かれていた貧困層という立場の、その思っていた以上の根の深さ。単に「成り上がってハッピー」では済まないというか、この先も延々と闘争を繰り返す以外にどうしようもないのだと、そうわからされてしまう感じが最高でした。だってもう、これは……安易な希望的観測は軽く吹き飛んでしまう根の深さがある……。
 あくまでファンタジー作品であり、空想らしい設定も登場はするものの、しかし描かれているもの自体はどこまでもシリアスな現実。我々の世界にも普通に存在する「都合の悪い闇」のようなものを描いた、悲しくも硬派な物語でした。