条件クリア その後

「ていうかさ、もう途中からあんたたち、付き合ってるようにしか見えなかったんですけど。」

アキラが気持ち良さそうに歌っている中、向かい側に座っているミチが、ニヤニヤ笑いながら俺たちに言った。

晴れて付き合うことになったことだし、2人でカラオケくらい行ってもいいだろうと、おチビちゃんを誘ったのだが。

【二人きりで個室】というシチュエーションに尻込みするおチビちゃんが、いつの間にかミチとアヤカも誘っていたのだ。

・・・・ほんとに、どこまで奥手なんだよ、大野 沙希。

しかも、ミチとアヤカはともかくとして、なぜかアキラまで付いてきやがった。

ミチとアヤカが付いてきた時点で、俺としてはもう、あと何人来たって変わらないんだけど。

「ほんと、何にこだわってたんだかねぇ?」

アヤカまで、ニヤニヤしながら俺たちを見ている。

知っているくせに、意地が悪いな、まったく。

「べっ、別にこだわってた訳じゃないわよっ!漣が変な条件なんて、出すから悪いのよっ!」

おチビちゃんはおチビちゃんで、イチイチ反応して、顔真っ赤だし。

そうそう。

付き合い始めてからすぐ、俺はおチビちゃんに呼び方を変えるようお願いした。

さすがに、いつまでもフルネーム呼び捨てじゃあ、な。

色気もなにもあったもんじゃない。

俺の方は。

特に要望は無かったけど、沙希、が多いかな。

ああでも、おチビちゃんとも呼ぶし、イラついた時はチビすけとも呼ぶ。

別に、沙希の背の低さをバカにしてる訳じゃない。

逆だ。

いわゆる、『愛称』だ。

だから、俺以外が沙希をおチビちゃん呼ばわりするのは、許せない。

まして、チビすけ呼ばわりなんて、言語道断だ!

「はいはい、そうだよねー、おチビちゃん。」

あ、『おチビちゃん応援団』の女子たちは別だ。

なんせ、こいつらのお陰で付き合えたようなもんだからな、俺たち。

「でも、あんたもよく待てたよねー、漣。大野がキス」

「あーっ!次、大野、歌いますっ!」

ちょうどアキラが歌い終わり、沙希が慌てて曲を予約してマイクを持つ。

そういや、アキラのやつ、何歌ってたっけ?

そんなことを思ったとたん。

爆音が個室に響き渡り、俺は飛び上がりそうになった。

見れば、沙希はノリノリで、男性ボーカルのロックを気持ち良さそうに歌っている。

マジか!

これ、俺の大好きなヤツっ!

しかし、まさか沙希がコレを歌うとは。

嬉しすぎる誤算じゃないか!


・・・・今度こそ、絶対2人だけでカラオケ来てやる。覚悟しとけよ、沙希。


曲に合わせて口ずさみながら、俺はどうやって沙希を丸め込もうかと、そればかり考えていた。

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