おチビちゃん応援団

たまには俺の方から迎えにでも行ってやるか。

そんな気まぐれを起こし、俺は帰りにおチビちゃんのクラスまで足をのばした。

もしかしたら、もう帰っているかもしれないな。

とも思ったが。

まぁ、それならそれで構わない。

別に、約束している訳でもないし。

・・・・つーか、いい加減、連絡先の交換をしておくべきか?

そんなことを思いながら、おチビちゃんの教室まであと一歩という所まで来た時だった。


『まさか行くとはねー!』

聞こえてきたのは、アヤカの声だった。

『うん。絶対断られると思ってた。』

次に聞こえてきたのは、ミチの声。

『実は、私も・・・・』

そして、おチビちゃんの声。

えっ?

なんだなんだ?

アヤカとミチが仲良いのは知ってるけど、おチビちゃんと一緒にいる所は見たことがない。

こいつら、どんな関係なんだ?

立ち聞きの趣味は無いが、どうにも気になり、廊下でスマホをいじる振りをして耳を傾ける。

『で、どうだった?』

『すごく、楽しかった!』

『大野じゃなくて、漣の話っ!』

『あ、そっか。うん、楽しんでたみたい。』

『じゃなくてっ!』

俺?

突然、話の中に自分が登場した。

余計に気になるじゃないか。

しかも、ミチでもアヤカでもおチビちゃんでもない、聞き覚えのある別の女子の声も聞こえる。

『・・・・実は、まだ・・・・』

『はぁ~っ?!何モタモタしてんのよ!』

『そうだよ、モタモタしてると、また他の女子に先越されるよ!』

『わ、私だって、頑張ってるわよっ!』

もしかして、これって・・・・

『あーもう、じれったいわね。あんなの、脚でも引っ掛けて倒せば、すぐできるでしょ。』

『階段で後ろからちょっと押して転ばせるとかさ。』

『いっそ、睡眠薬でも盛って、寝込みを襲うのもアリじゃん?』

無しっ!

無しだっ、絶対!

犯罪だろ、それ!捕まるやつ、ニュースに出るやつっ!

怖っ!女子、怖っ!

『高宮 漣に、そんなことできないよ・・・・』

いつになくか細い、おチビちゃんの声。

良かった、おチビちゃんに常識が備わっていて。

『大野は漣のこと、大好きだもんねー。』

『まぁ、そうだよね。大野には無理か。』

『でもっ!私、頑張るから!』

『わかったわかった。うちらみんな、応援してるから。』

『これからも、協力するよ。』

『・・・・みんな、ありがとう。』

なるほど。

ようやく俺は気づいた。

なんでいつもタイミングよく、おチビちゃんが俺が彼女と別れた後に告白してきたのか。

なんでいつもタイミングよく、おチビちゃんが俺を待ち伏せ出来ていたのか。

彼女たちが、おチビちゃんの情報網だったのだ。

言うなれば、『おチビちゃん応援団』だ。

どんな経緯でいつ頃結成されたのかは、分からないけど。

『でもさ、最近の漣、いい感じじゃない?』

『だよね。なんか、安心した。サッカーやめてからの漣、見てられなかったし。』

『大野のお陰だよ、ほんと。』

『頑張ったねー、おチビちゃん!』

『ちょっと!私の名前はおチビちゃんじゃないわよっ!』

あいつら・・・・

なんだか、柄にもなく胸が熱くなってくる。

知らなかった、あいつらがそんなに心配してくれてたなんて。

キャーキャーギャーギャー続く女子の会話を背に、俺はそっとその場を離れた。

思いがけず、宝箱を見つけたような気分だ。

でも、まだ宝箱は開けないでおこう。

開けるのは、おチビちゃんだ。

って、何を考えているんだ?俺は。

緩みそうになる頬を押さえながら、俺は1人、家路に着いた。

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