がんばれおチビちゃん!

平 遊

条件提示

「俺にキスできたら、付き合ってやる。」

まだ肩で息をしているおチビちゃんが、あんぐりと口を開ける。

「そう簡単にできると思うなよ?」

固まったままのおチビちゃんの肩を、激励がてらポンと軽くたたき、俺はそのままおチビちゃんを置いて教室を出る。

昇降口で靴を履き替えていると、聞き覚えのある足音が、すごい勢いで近づいてきて。

「待ちなさいっ、高宮 漣!」

振り返った場所には、おチビちゃんが肩で息をしながら、仁王立ちで俺を見ていた。

「さっきの言葉、信じていいのね?」

「もちろん。」

「男の二言は、許さないわよっ!」

怒った顔で俺を睨み付けながらも、どこか不安げな目。

「ああ。」

頷くと、とたんに挑戦的な笑顔を向けてくる。

「待ってなさい、高宮 漣。キスくらい、すぐにしてやるから。」

「言っとくけど。」

言いながらおチビちゃんに背を向けて下駄箱に上履きを入れ、再度向き直る。

身長差、約30センチ。

「どこでもいいわけじゃ、ないからな?」

「えっ。」

警戒するように眉根を寄せるおチビちゃんに、俺は言った。

「決まってるだろ。マウス トゥ マウス、だ。」

「なっ・・・・!」

絶句するおチビちゃんをその場に放置して、俺は家路に着いた。

どういう訳か、遠足前夜の小学生のように、心が浮き足立っている。

こんなことは、久々だった。

(俺、もしかしてあいつのこと好きなのか?)

ふとそんなことも考えたが。

(いやいや、無い。無いだろ、絶対。)

すぐさま全否定する俺もいて。

(あいつ、どう出てくるかな。)

それでもやはり、これからおチビちゃんが取るであろう行動を想像すると、楽しみで仕方がなかった。

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