第15話 大剣使いのマリー(3)

「それはその通り……だな。実際、ハンターの中にも廃業を余儀なくされた人間が居るというのを聞いたことがある。それって今考えると、遺物がいつまでもある訳じゃないことを理解した上での、苦渋の決断だったのかもしれないな……」

「ハンターだって、得意不得意があるからね。そこに関しては、『向いていなかった』の一言で片付けられるんじゃない? とはいえ、本人がそれを自覚出来るなら未だ良い方だと思うけれど。酷かったらそれすらも出来ないかもしれないんだし」


 それについては、概ね同意するハンターも多いだろう。しかしながら、それを簡単に同意したところで、それは仕方ないと投げ捨てることは出来ない。何故なら、その事象はどのハンターにだって起こり得ることで、避けきれない事実だからだ。


「……だとしても、だ。ハンターが飯を食えなくなるぐらいに遺物がなくなる時がやってくるとしても、それは大分未来の話になるとは思わないか? それに、ハンターという職業が不安定だっていうことは、重々承知の上じゃないか」

「そりゃあ分かっているけれどね……。ただ、ハンターが未だに一攫千金を狙える職業に位置付けられる時があるのもまた事実だったりする訳で……」

「一攫千金が狙えるのは、どの職業でも似たようなもんじゃないの? 実際、ハンターだって働き方でそれが決まる訳だし。アタシなんか、普通に飯が食えるぐらい働ければそれで良いと思っているからね。アリとキリギリスで言えば……ギリギリキリギリスって感じかな?」


 ギリギリキリギリスという、何ともややこしい言い回しをしたマリーはパフェを食べるフェーズに入る。それを見たユウトも、溶けかけのアイスクリームを口に入れるのだった。



 ◇◇◇



 パフェを食べ終えて、ジュースをストローで啜るマリーを見ながら、おかわりしたコーヒーを飲むユウトがぽつりと呟く。


「……甘い物を食べてから、また甘いジュースを飲むのもどうかと思うがね……。案外、そうでもないのか?」

「うーん、甘いよ。パフェもジュースも。……でもさぁ、動くからね、アタシは。頭も使うし身体も動かす、ハンターって、そういう仕事だったりしない? あ、でもユウトはあんまり甘いの食べたりしないよね。もしかしてダイエットしているのかな?」

「……それ、普通逆の台詞じゃねーの? 俺が言って、マーちゃんが受け取るんだろ。思えば、付き合っている時もこんな感じだったような気がするけれど」

「にゃははっ、その通りかもねー。でもまぁ、案外悪くないもんだね。別れてからどれぐらいになるっけ?」

「どれぐらいだったかな――」


 ユウトとマリーが恋人関係として続いたのは、それなりに長い期間だった。とはいえ、そらを茶化すこともあまりない。本人がするならまだしも、既に壊れてしまった関係を、他人が穿り返すのはなかなかやらないし、出来ないことだ。


「……一年じゃあ短い、二年じゃあ長い……それぐらいの期間だったと覚えているけれど? とはいえ、懐かしい時代だったし、楽しい時代だった。それだけは否定したくないものね」

「そうだな――でも、もうあの時に戻ろうとは、思いもしないだろう?」


 ユウトの問いに、マリーは頷く。


「そうね、残念ながら。……もう関係性は、破綻しているのだから。これ以上悪くなることはあっても、これ以上良くなることはないわ、決して」

「……だろうな。それは、俺だって分かるよ。あの関係性が一年も……いや、それ以上も続いたのは、はっきり言って奇跡と言っても、何ら差し支えはない」

「でも、ユーくんは逃げていたでしょう?」


 マリーの言葉に、ユウトは否定出来なかった。

 正確には、直ぐにその言葉を――その答えを、導き出すことが出来なかった。


「逃げていた……か」

「否定しないのね。……まあ、仕方ないか。少なくとも、それはアタシにも言えることではあるのだし。アタシだって、逃げていたよ。そして、それに救いを求めていた。……ユーくんが、アタシに会いに来る前には何処に居たかっていうのも、何となく想像がつく」


 一息。


「……シスターに、会いに行っていたんでしょう?」

「それくらい、分かっていたか。いや、分かって当然とも言えるだろうか。いずれにせよ、俺がマーちゃんに会うには、何かしらの理由付けが必要な訳だからな。それについては、何も否定しないし、言い訳もしない。だって、事実だから」

「シスターは、何と言っていたのかな?」

「別に。ただ、マーちゃんには感謝していると思うよ。そりゃあ、そうだろうな。神様を信じる暇があるなら生きる術を探さなきゃいけないこんな時代に、他人のことを慮って支援をしているんだから。出来ねーよ普通、そんなことは」

「褒めている――そう受け取って良いのかな? まあ、ユーくんに褒められるのも、悪くないね。ちょっとは、会って嬉しいと思えたかもしれない」

「そう思ってくれるなら何よりだよ。……で、そろそろ本題に入らせてもらおうか」


 ユウトは、少し冷めたコーヒーを飲み干すと、一つの単語を呟いた。


「マツダイラ都市群」

「……それなら、この第七シェルターのご近所さんじゃない。アタシも良くそこに通っているよ。最近も上質な金属が含まれる鏡が見つかってね、良い儲けになったよ。……その話をしたいんじゃないんだろ? 良いからさっさと結論というか本質を言え。アタシとユーくんの仲だろうが」

「今それを言われるとそれはそれで困るんだが……まあ、良い。じゃあ、話すよ。それは――」


 そうして、ユウトはルサルカのことについて、詳らかに語り出した。

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