第13話 大剣使いのマリー(1)

 マリーを求めてユウトがやって来たのは、第七シェルターの玄関に程近いハンター連盟の集会所だった。ハンターという職業は、職業柄不安定な収入になりやすい。であるならば、ハンターに安定した職を与えてやるべきである――というのがハンター連盟の考えだった。

 元々ハンターはシェルターの管理者側からすると、疎ましい立場でもあった。何故なら彼らは数が多い。そして、自分で良くしようという努力もしないくせにそれを要求する――というのが管理者の考えだ。

 しかしながら、ハンターに自ら望んで就職した人間は少なく、大半が元々の仕事では稼げなくなってしまったからハンターにならざるを得なくなった、という感じだった。要するに、仕方なしに始めざるを得なかったのだ。

 ともなれば管理者側の理屈は多少間違っていて、彼らが死に物狂いで努力しようとも、ハンターから上に上り詰めることは不可能に近い。余程管理者にコネがあって、上手く立ち回ったとしても、管理者側に回ることはほぼ不可能と言って差し支えない。

 しかし、それが罷り通るならば、ハンターにしてみれば面白くないのは確かだ。そうして、ハンターの中でも特に優秀なハンターが決起して、ハンター連盟が立ち上がったのは、もう随分昔のことになる。

 ハンター連盟と管理者側の交渉は、最初こそスムーズに行くことはなく衝突も起きていたが、ここ数年はそれも減少していき、設立当初から比べればハンターの社会的地位は飛躍的に向上していった。

 シェルター玄関に程近い木造の建物――それがハンター連盟の集会所だった。ハンターはここでクエストを受注し、無事成功したらここに戻って来て報告をする。基本的には、失敗した場合も報告せねばならないのだが、報告したところで何かペナルティがある訳でもなく(強いて言うなら、昇格が多少遅くなる程度)、しかしながらそれを恥と思うハンターも少なからず居るのだ。だから、ハンターが報告に来るイコールクエストが成功した、という認識で概ね間違っていない。

 集会所に入ると、多くの人間がワイワイガヤガヤと話をしているのが目に入った。集会所は文字通りハンターが集まる場所だ。よって様々な情報を収集するには打って付けの場所にもなっている。


「相変わらずここは人が多いな……」


 とはいえ、ユウトがここにやって来たのは、他のハンター同様にクエストを受注しに来たからではない。ルサルカに関する情報を得るため、マリーに会いに来たためであった。


「……しかし、アイツもなかなか見つからないからなぁ。雲隠れしやすいというか、なんというか。まぁ、ハンターとしては間違っていないんだろうけれど」


 マリーは大剣を持っている。それも自らの身体ぐらいの大きさの剣で、いつも彼女は背中にそれを背負ってハンターの仕事に勤しむのだ。

 非力であれば当然使えないはずの武器を、彼女は常に使っている。それには憧憬とか拘りとか、そういう感情が入り混じっているのかもしれないが、しかしてそれを聞いたことは誰一人として居ない。

 それは彼女が孤高で、孤独だったからかもしれない。

 とはいえ、実際には独りぼっちでやって来た訳ではなく、仲間や戦友と呼べるような存在だって少なからず居る。別にそれを美談にしていないだけの話だ。


「……おっ、見つけた」


 掲示板の前で、一人そのクエストを吟味する少女が立っていた。背中には、その小柄な身体で操るには到底思えない大きさの――一回りは大きいユウトでさえそれは難しいだろう――剣を背負っている。

 そして、その格好も奇抜だ。ドレスのようなスカートのついた赤い鎧を身に纏っている。軽装で、防御力が高くて、尚且つ見た目が良い――のかもしれない。女性のハンターは多く居ても、彼女のように見た目まで拘るハンターは珍しい。


「よっ、マリー。……久しぶりだな」

「うわっ。……誰かと思ったら、ユウトかよ。どうしてここに?」


 いきなり声をかけられて驚いたようだったが、振り返ってその声の主がユウトだと分かると即座に砕けたような態度に変えた。ユウトじゃなければ、その剣で一刀両断されていたかもしれない。それぐらいに、彼女の扱いには繊細にならねばならないのだが――。


「別に良いだろ、俺がここに居たって。俺だってハンターなんだからさ。……とはいえ、相変わらずその大きい剣使っているんだな。それ、目立たねーのか?」

「武器のことはどうだって良いだろ。アタシにはアタシなりの拘りがある訳。それはユウトにゃー未だオコチャマだから分からないかもしれないけれど」


 軽口を叩き合える仲、というのはなかなか見つからない。

 それも男女、となると過去に何があったのかは何となく察することが出来る。


「……で、何の用事かな、ユウト。或いは昔みたいにユーくんと呼んであげた方が良かったかにゃー?」

「……それが嫌だって言っても、どうせマリーは言うんだろ。だったらこっちだって昔のニックネームで呼ばせてもらうぜ、マーちゃん」

「にゃはは! 久しぶりにその名前で呼び合ったもんだね。昔のこと過ぎて、忘れちゃうこともあったけれど。……それじゃ、どっか場所でも作ろっか? 二階のカフェテリアなら、今空いていると思うけれど」

「ああ、そうしてもらえると助かるな。……こっちだって、色々話したいこともある」


 苦手なようで、苦手ではなく――やはり苦手な相手。

 それは、昔の恋人という存在でもあった。

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