第43話 バレンタイン企画 チョコレートを作ろう



今日は、珍しくお嫁さん達全員が、キッチンに集合している。


ラヴォージェは何時ものように見張りに立たされている。こんな姿を見るともうキュリアの召使の様だ。




キュリアが、何時ものように仕切る。


「バ・バレンタインデーに向けてチョコレートを作るわよ!」


何故か顔が真っ赤になっている。


「あはは。カカオ豆の出番がやっと来たね」


ベルが、笑いながら言った。


「もっと早くチョコレートを作ろうとは思ってたけど、時間が掛かるから後回しにしてたのよ」


「でもバレンタインデーが近いからお尻に火がついた訳だね」


ベルが揶揄うように言ったが、珍しくキュリアは怒らなかった。


「まぁ・そうね!其れも有るけどチョコレートさえできてしまえば、スイーツの幅が広がるもの」


尤もらしいことを言っているが、内心は切羽詰まっている。




キュリアとベル以外の嫁達は首傾げている。


「バレンタインデーってなんですの?」


クララがキュリアに聞く。


「生前の習慣で女子が、愛する人にチョコレートを贈って愛の告白をする日なの」


「「「「「愛の告白!」」」」」


全員シンクロで言った。お嫁さん達は、俄然乗り気になった。




材料は、カカオ豆、ココアバター、粉砂糖、脱脂粉乳スキムミルクを準備、ココアバターは細かくして粉砂糖と脱脂粉乳は、篩に掛けておく。




まず、カカオ豆をローストする。オーブンを使ってじっくりロースト、120℃で30分程度、オーブンに入るだけの分を何度も繰り返しすべてのカカオ豆をローストした。




人数分の乳鉢を魔法で作る。擂鉢すりばちでは、如何しても荒くなってしまうのでチョコレートの様な繊細な舌触りの物には、乳鉢の方が良いのだ。




ローストされた豆の殻を剥き胚芽も取り除く。


大量のカカオ豆、殻を胡桃割り機のような道具で割、中身を取り出していく。その一つ一つの胚芽を取り除くのだ。




かなりのチマ・チマ・チマ・チマの作業・・・このような作業には、適さない人物が一人・・・


「あああーーもう!なんでこう面倒なのよ!イライラしてくるわ!」


大量にあるカカオ豆を目の前にしてキレるキュリア。


「キュリア、キレるのが早すぎだよ!まだ1時間も経ってないよ・・・」


キュリアの短気に呆れるベルであった。




そんな中でも一人気を吐くものが居た。フリーゼである。


彼女は手際よく胚芽をどんどん取っていく。それに気付いたのは、一緒に作業しているちびっこ二人組だ。


「ミラ上手くいかない。フリーゼ、如何してそんなに上手なの?」


「ん・なんでにゃ?」


手先が器用なはずのドワーフのミラでもフリーゼの早さには驚き、ラーニャは、何時もの様に最短言葉で聞いた。


フリーゼは緊張しながら答える。


「カ・カカオ豆の胚芽取りは、コボルドの女性の仕事でしゅ・っう、だ・だからなれてるでしゅぅ」


盛大に噛んだ。この娘はあがり症の様だ・・・


それでも何とか大量のカカオ豆の処理が終わる。ほとんど処理したのは、フリーゼであったが。


その日は此処で夕方になり、夕食の準備のためお開きになった。




次の日も朝食が食べ終わり、ケミンが書斎に入るとお嫁達はキッチンに集合した。


「さあ、続きを始めるわよ。ここからが大事な工程だからみんなお願いね!」


キュリアが気合を入れた。




次の工程は、カカオ豆を潰しパウダーにしていく。乳鉢に少量のカカオ豆を入れて叩き潰しながら粉にしていく。ダマになったカカオの塊を解くずし乍ながら更に細かくしていく。


「出来るだけ細かくしてね、此処で手を抜くとザラザラのチョコレートになっちゃうのよ」




ケミンに食べさせるため、皆は真剣だ。


「愛するケミン様のため」などと口々に言いながらカカオを砕いていった。


此処でも無双したのは、フリーゼだった。




細かくなった所でそれぞれが適量のカカオをボールに取り、ふるった粉砂糖と脱脂粉乳を少しずつ加えてよく混ぜていく。


均一に混ざったら湯煎をしながらココアバターを少しずつ加えて溶かしていく。


「これ硬いですね。きちんと混ざるのでしょうか・・・」


お団子状態のカカオにパフィオが焦る・・・




「ココアバターが全部入れば滑らかになると思うよ。其れまでは我慢だね。」


ベルが答えた。


「ヘディのパワーが羨ましいわ」


簡単そうに混ぜているヘディを見てキュリアは呟く




「そうか?私は普通にやってるつもりだ」


ヘディの男らしい発言


「パワーでは、負けない!」


何故かコモドドラゴンのカトレアが張り切り出した。




「やっと滑らかになり始めましたわ」


4本の手を使い器用にボールとへらを使うハニーが、安心した様に言った。


全てのココアバターが溶けるとかなり滑らかになる。




次は、細かい網を使って濾こしては潰すを何度も何度も繰り返していく。ダマになっているカカオを細かくしていく。ダマが確認できなくなった所で、今度は舌触りが滑らかになるまで練り込んで行くのだ。


「味見しすぎてチョコレートが無くならないようにしてね!」


みんな口々に「あまーーい♡」と言ってる。


へらを使ってじっくり練り込む。




舌触りが良くなってきたら、一度50℃迄温度上げ、室温まで下げる。下がったら又湯煎を行い溶かしていく。


溶けたチョコレートを型に流し込み水魔法で冷やしていく。


「此で固まったら完成よ!」


皆で一斉に拍手した。


ここで夕方になりこの日の作業は終了した。






そしてその日がやってきた。


朝食が終わり、リビングで寛いでいるとキュリアから声が掛けられる。


「ケミン今日は如何するの?」


「いつもと一緒、書斎で小説読んでるかな。」


「そうなの、行ってらっしゃい!」




追いたてられる様にリビングを出た。


「なにあれ?リビングに居たら拙いのかな?」


「よく分かりませんな」


「ラヴォージェも追い出されたの?」


「はい、ケミン様に御付きしろと言われまして」


「それで専属メイド姉妹が居ないのか・・・まあ良いか、書斎に行こう」




俺達は自室の書斎に移動し小説を読み始める。


今日の小説のあらすじは、異世界に転生して世界各地を回り、美味しい食べ物を探したり、モフモフ動物達と戯れたりする内容だな。この世界にも異世界転生ものが有ったのか・・・






ケミンが出て行ったらお嫁達はキッチンに行きチョコレートを型から外す。皆お揃いのハートの形をしている。


其れを箱詰めし綺麗に包装紙を巻いてリボンをトッピングする。


「さあ行きましょうか」


キュリアが皆に言った。








俺が小説を読み始めて暫くすると扉がノックされる。ラヴォージェが扉を開けるとキュリアを先頭にお嫁さん達が一列になって入ってきた。


なんで行進してるんだよ・・・




キュリアが1歩前に出て他の嫁達は横一列に並ぶ。ヒュパさんもメリトさんも今は、エルフの女性服だな。


キュリアが机の前に来て一言


「ケミン、愛してるわ!」


そう言うと机の上にラッピングされた箱を置いた。


其れに続いて他の嫁達が一斉に「ケミン様、お慕いしています!」と言いながら同じくラッピングされた箱を置いた。


「え?なに?急に如何したの?」


「今日はね、バレンタインデーなのよ!」


「バレンタインデーなんてこの世界にあったの?此れってチョコが入ってるの?」


「読者の世界でバレンタインデーなのよ!愛のチョコレートが入ってるに決まってるじゃない!貴方が要らないならみんなで読者にあげちゃうからね!」




お嫁達が一斉に言った。


「読者の皆様、いつも此の小説を読んでくれてありがとう。私達のささやかな気持ちです。受け取ってね!」


皆一斉にウインクし投げキッスをした。




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