第2話 現状把握と予期せぬ出来事

俺は、目覚めた場所に戻ってきた。50mは有ろう巨大樹の下、このあたりが森の中心らしい。相変わらず、ウサギもどきは寝ている。あれから18日たったはずなのに動いた気配がない。今の所、動物はこの個体しか見たことがないな。とりあえず森の中を探索しよう。



ほぼ瞬間移動のようなスピードで、森の中を移動する。北の端から南まで一通り見て回った。



 北西の山際の方に行くと湧き水の池があり森の中に川となって流れていた。北の端は、海につながっている。東の端は平原、南西には巨大な湖から森の中を通って川が流れ平原に抜けている。北西からの湧き水の川は、この川の支流となっていた。南の端も海だが、こちらは断崖になっていた。ほぼ南北を縦断する形で大森林は形成されていた。


 植生は、北の方はやはり針葉樹林、中央より南は、ジャングルのような樹海である。



しかし、ほとんど動物はいなかった。ウサギもどきが点在しているくらいで、昆虫も少ない。俺の身体のエナジーは、数種類の昆虫とウサギもどきで賄われているみたいだな。





俺は中央に戻り考察する。


今の現状で2000年したら分身が出来るくらいエナジーが溜まるって言ってたな。


時間解除して約20日って所か、このまま20日寝るか?いや、もう7日も寝てたしなぁ、少し頑張るか。


 とりあえず、顕現!!うっすらとしたシルエットが現れる。身長143.6cmの小さな光のシルエットだ。これ何とか成らないかなぁ、まあ分身が作れるようになったらデカくしとこう。




 そんな事を考えているとウサギもどきと巨大樹が反応した。


ウサギもどきは目を開けこちらを見ていた。巨大樹は、花が咲いた。椿のような花が、樹木全体に咲き誇っていた。俺の顕現を喜んでるのかな?

 そう言えば動物と話せるって言ってたか、ウサギもどきに近付き、話しかけてみよう!




「やあ!俺は、このケミカリーナ大森林の意思として生まれた。君は何という種類の動物なのかな?」




 「ああ、やっとお目覚めになられましたかケミカリーナ大精霊様、お待ちしておりました。我が種は、ロックラビットと申します。」




 そのまんまかい!!


まぁ転送情報に載ってたけど、毛並みが水草のウィローモスに似てるからそっちの名前を付けたら良かったのになぁ。などと思ってしまった。


しかも大精霊ってなんだ?




 「おお、お名前を頂けるのですか、ウィローモスですか、有難うございます。」




 その瞬間、ロックラビットの身体が光り出した。巨大な岩のウサギだった動物が、二足歩行に成っていた。緑色の長毛のウサギが、直立している。角は消えているが、身長は2mくらいあるな。実に羨ましい・・・


 これって獣人になったって事かな?名付けた心算じゃなかったんだけどなぁ。成っちゃったものは仕方ない。 えーと・・・おめでとう。


 てか、考えただけで通じるんだなぁ。




「有難うございます。我が種は皆獣人となりました。これも偏に大精霊様のおかげです。今後、森の発展のためこの身を賭して仕えてまいります。」




「ああ、そこまで畏まらなくて良いから!!じゃー仲間を集めて適当な所で暮らしてください。」




「了解しました。種族を集めて集落を作ります。定住場所が決まりましたら、ご報告いたします。それと、そこの巨大樹にもお名前をお願いします。きっと森の役に立つでしょう。」




一度、深々とお辞儀をし手を振りながら森の中に消えて行った。動けるのが相当嬉しかったようだ。最後は、スキップしてたからな。他の岩ウサギも喜んでるのだろうなぁ。踊ってたりとかしてるかな?










 次はこっちの木か、濃いピンク色の花びらをした椿が満開だよ。なんでこうなった?椿の花は嫌いじゃないけど花ごと落ちるんだよねぇ。ボトって。




なんか木が揺れてるな。落ちないって言いたいのか?


縦に揺れた。本当かよ!!


意思表示しやがる。


 まあ名前を考えるか、さっきは適当過ぎたからな。岩ウサギなのに水草だものなー、ちょっと可哀そうだと思ったわ。


ケミカリーナの象徴の巨大樹だから「ラヴォージェの木」にしよう。




言う前に巨大樹が光りはじめた。


まばゆい光の後、声が聞こえた。


「ラヴォージェですか、有難うございます。」




椿の花びらが一斉に散り、キラキラの光と共に木の周りを円を描くように風に舞ってどこかに飛んで行った。


花びらで踊ったのだろうか?嬉しさの表現かな?確かにボトって落ちなかったな。


 椿の実が出来ていく、あっという間に大きくなってパンっとはじけた!




鳳仙花かよ!!


 一斉に種が飛び散って行った。



「種も仕掛けもございません。」


ラヴォージェ!種は、有るだろ!!イリュージョンかよ!!


お茶目だな。ラヴォージェ。



 「あはは、喜んでいただけましたか?今散らばった種は、果樹の種です。林檎、梨、桃、蜜柑、栗、胡桃など、適当に飛ばしました。数日後には芽を出し、数週間後には木に育ち、実を付けますよ。たくさんの種類の果樹の種を蒔きました。これで、昆虫も動物も集まってくるでしょう。」






数週間後には食べられるのか、早いな!!俺も食べたいよ!肉体が無いから食べられないけど・・・


 因みに俺は、林檎と蜜柑が大好きだったのだ。冬の炬燵の上には、必ずどちらかの果物が有った。でも最近は食べてなかったなぁ。仕事が忙しくて・・・




「大精霊様も分身が出来たら食べられますよ。少し時間がかかりますが、大精霊様の寿命なら微々たるものですよ。」




分身か、早く欲しいなー、デカいのがいいな!


 そう言えば、俺がなんで大精霊なんだ?そんな事、転送情報にも載ってなかったし、キュリアも言ってなかったぞ?




 「それは、大精霊の皆様が自覚してないだけです。我々は、人族から見ると精霊と呼ばれます。木の精霊と。森全体の精霊様が、ケミカリーナ様なのです。ですから大精霊、又は、精霊王などと人族から呼ばれるようになります。まあでも今までの通りでよろしいのではないですか?」




はぁ、そうだったのか。そうだな、今まで通りでいいか!気にしないで行こう!!




 そんな話をしているうちに夜の帳が降りてきた。空に昇ってみると満天の星のきらめきが天を覆いつくしていた。


 この世界には、月が無い様で、無数の星たちが瞬いている。天の川もはっきり映っていた。


 「知っている星座はやっぱりないなぁ。異世界なんだなぁ。」


珍しく声に出ていた。




 「そうね、異世界よね。」




 後ろから声がかかった。顕現体のキュリアが来ていたようだ。身長170cmは有ろうかと見える、女性にしては長身でスレンダーなボディだ。髪はセミロングのようで前髪は綺麗にそろっている。顔立ちは日本人なのか?切れ長のすっきりした目のようであるが、はっきりは解らない。持っている雰囲気は、キャリアウーマンの様であるが。




 「何こんな所で独り言を言ってるのよ。今日は何してたの?お姉さんに話してごらんなさい。」




「お姉さんって、俺よりどう見ても若いよね!俺38だよ!アラフォーだよ!」




 「えっ、私てっきり中学生かなって・・・ごめんなさい。」




がぁぁぁでた!!はっきり言いやがった!!きょうび中学生でも俺よりデカいわ!!ガクン




 「私、小さくても気にしないから、むしろ小さい方がすき・・」




何言ってるんだ此奴、小さい連呼しやがって!!




 「あわわ、本当にごめんなさい怒らないで・・・」




本当に悪気が無かった様で、かなりあわあわしている。その仕草はちょっと可愛かった。


半分潤んだ目で必死に謝っていた。


少し気分を落ちつけよう。ヒッヒッフー




「ふー、分かりましたから。もう謝らなくていいですよ。それよりどうしてここに来たの?」




 「貴方が昇って行くのが見えたのよ。それで何してるのか気になって・・・」




「あぁ、俺は何となく昇ってただけだよ。でもこの星空を見てて思ったんだよ。ここでは、『月が奇麗ですね。』とは言えないなぁと。それで異世界なんだなって」




 「えぇっ! その言葉を誰に言おうとしたの?」


びっくりした後、なぜかもじもじしながら聞いてきた。




「いや誰にって別に居ないけど・・・って、もしかしたら日本人なの?」




 「うん!あれ?言って無かったかしら?私は、水埜みずの 涼すずって名前だったわ年齢は、ヒ・ミ・ツ♡」




「何がヒミツだよ。俺よりは若いだろー。」




 「いいのー!女性に年齢は聞くものじゃないの!」




「まあ、知らなくても良いけど・・・でぇ?すずちゃんはオジサンに何を聞きたいのかな?」




 「すずちゃん・・・今日は何してたのかなぁ?って」


真っ赤になって俯きながら話している。こちらを上目つがいで見ながら。




「ああ、今日はね、岩ウサギが獣人になったよ。それから・・・」


俺は今日の出来事を詳しく話した。すずちゃんは楽しそうに聞いている。時折、相槌を入れながら・・・


今日も夜は更けていった。


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