第6話「幼馴染は攻めまくる」


☆高嶺四葉☆


「っはぁ、私ったら何してんだか……」


 翌朝、夏休みの初日でもある8月1日。 


 普段通り6時に起きた私は普段通りの朝食の準備をしていた。水色の縞々エプロンを前に掛けて、赤毛のボブを後ろで小っちゃくまとめてフライパンを振るう。


 夏休み初日に料理とは中々おかしいけど、ルーティン化した今では普通かもしれない。


 ——それに、ここだけ切り取られたら少し、お嫁さんっぽいかしら。なんか新婚さん的な、夫を待つお嫁さん? あははぁ……可愛い? のかな……。


「——って、何考えてるのっ!!」


 バチンっと両手で頬を叩き、正気を取り戻す。

 

 危ない危ないっ、何をよその人の家で乙女になろうとしているんだ私はっ! だ、大体っ……お嫁さんになんてなるつもりさらさらないし、だらしないあいつの奥さんになるのなんて言語道断っ! 死んでもなりたくないわね、ならないならない、絶対ならないんだからっ!


「……はぁ、もうっ。変なの考えるよりも前にさっさと作ってお風呂でも入ろっ」



 それから数分後。


 私はシーザーサラダと目玉焼き、バジルソーセージをお皿に盛りつけて冷蔵庫に入れる。


 ——ん、ここでそのまま冷蔵庫に入れるのは良くないだとか、直ぐにフライパンを洗うのは良くないだとかそういうどうでもいいことをガチャガチャ言ってくる男は死んでも嫌いだわ。だから何か文句あるなら、適当に吐き捨てるといいわねっ。


 そんな男どもの言葉を無視しながら適当に料理をしまい、私は背を伸ばした。


「っふぅ……ようやく終わったわねっ。ちょっと汗もかいちゃったし、朝一風呂浴びてきましょうか——ね」


 そして、二階にある私の部屋に向かう。


 ガチャガチャとクローゼットを開けて、下着と短パンにキャミソール、バスタオルを手に持った。朝風呂は少しだけ好きだし、すごく楽しみだ。思わず鼻歌が漏れてしまうがあいつも寝ているようだし別にいい、かしらね。


 廊下に出ると、隣の部屋から和人のだらしない寝言と寝相の悪さを思わず笑ってしまった。無論、鼻でだけど。


「っ。何よ、とんかつ食えないって……馬鹿じゃないのっ」


 思わずツボにハマってしまいそうになったがこの程度で笑ってしまうのも恥ずかしいためなんとか理性で抑えつけた。本当に不意を狙ってくるのよね、こいつは。だから嫌なのよ。



 私は脱衣所の扉を閉じて、ゆっくりと服を脱ぎ始めた。


 それにしても中々貧相な身体だ。華奢だし、小さい。高校に入ってから多少胸のサイズも変わったのだが見た目はあんまり変わってないみたいだ。


 悔しいけど、事実だからしょうがない。最近はよくお腹当たりも細くなってきて友達から羨ましいなんて言われるけれど……。


「——私、お腹結構……ぷっくりしてるんだよなぁ」


 そう、所謂着やせってやつだ。これでも学校ではそれなりの人気もあるから健康や体型に気を使うのは当然、私はあまり化粧をしたくない人だから余計に気を使わなくてはならない。


 そのはずなのだが——最近は美味しいお菓子を見つけてしまってよく食べていたからか、少しぷにっとしている。


「お尻のラインはいいんだけど……」


 振り向いて、鏡にお尻を向けてなんとか補完したがやっぱりダイエットも視野に入れるべきだろうか。それに、こんな体あいつに見られたら恥ずかしいとかそういうのの前に不名誉だし、絶対痩せてやるんだからっ。


 そう意気込んで私は小一時間のリラックスタイムを楽しんだ。




☆霧島和人☆


 夏休み初日、10時24分。

 俺は突き上げるパトカーのサイレンの音で目を覚ました。


「——ぁ、あぁ……っ……うるせぇ」


 まったく、札幌も物騒だな。ススキノとかそっちの方は物騒だと聞いていたが中央区も案外、だな。ははっ。ん、あ、そう言えば済んでる場所とか言ってなかったっけ? 俺も四葉も札幌生まれ札幌育ちの所謂、道産子どさんこってやつだ。


「んあぁ……だるいなぁあああ」


 欠伸あくびも漏れる。


 さすが夏休みだ。ミンミンとなく蝉の声とじめじめとした暑さが夏の雰囲気を醸し出していて、体がずっしりと重くなる。これがまた、風物詩で味もある——なんていうどこぞの俊介っていう男がいるのだが俺にはその気持ちが一切合切分からない。


「こんなの地獄だぞったく……」


 ふぅ……と小さな部屋で響いた溜息を聞いて、俺もベットから出ることにした。適当に服を着て、リビングへ向かう。電気がついていることから確実に四葉は起きていることが分かったが、あいつのことだ。どうせこんな日でも女子と電話しながら適当に遊びの約束でもしているのだろう。俺とは違う次元で生きる彼女の事だ。俺には理解はできないし、考える必要もない。


「ふぅ……開けるか」


 そうして、ガチャリ。

 俺はリビングの扉をゆっくりと開けた。


「——っ⁉」


 すると、俺の右脚は空中で静止した。まるでカンフーか何かのポーズみたいになったがそんなことなど気にならないほどに凄い光景が今、目の前で広がっている。


「なっ——」


 思わず言葉が詰まる。

 喉元から漏れ出てしまった「な」が閑散とした真夏のリビングに響く。


「ん……むにゃ……ぁ、あぁ……」


「ど、っな……な、ん……でっ……」


 一体全体、可愛すぎる……じゃなくて! 久々に見た……じゃなくて‼

 なんで四葉がこんなのところで眠っているんだ⁉


「四葉っ……」


 思わず名前まで呼んでしまって起きるかと思ったがむにゃむにゃと幸せそうに寝る彼女の顔は変わらないようで、少し安堵した。


 いやしかし、どうしてこんなところで寝てるんだ。俺の家だし、俺と四葉の二人だけの家で、さらには誰もが使うリビングで無防備に寝ていることが……すごい。きっと、寝顔なんて見られようものなら、鬼のような形相で殴り込んでくるはずなのに……そんな四葉が気持ちよさそうに、心なしか笑顔を浮かべながら眠っている。


 短パンからはみ出た水色のパンツに、ぷっくりと飛び出たもも裏のぷにっとしたお肉。そして、キャミソールからはブラジャーの紐がはみ出ていて、真夏で噴き出た汗でおへそが透けて見えていた。


「ん……」


 ゴクリと生唾を飲み込んで、おへそを覗こうと顔を近づけたが途端に寝返りした四葉に驚いて、数歩下がってしまう。


 こわ、マジであぶねぇ。


「すぅ……すぅ……ぅ……」


 鼻息がここまで大きく聞こえると胸がドキドキしてしまいそうだ。数年前までは一緒に寝たり、お風呂に入ったことまであるのに、月日の流れは偉大だ。少しでも離さない期間が続くだけでここまで感じ方が変わるのだから、凄いものだ。


 ……っ、触りたい。


 だめだ、それにしても我慢ができない。


 その透けたおへそを拝めたい。別にフェチでも何でもないのだが、なんか見たい。見たくてたまらない。というか見る義務すら感じてくる。


 神が——見ろと言っている気がするのだ。


「っふぅ……」


 そして、溜息を挟み。俺は覚悟を決める。

 恐る恐る、彼女を起こさないように手をお腹当たりに向けて進行させていく途中のことだった。


「——なに、してるわけ?」


 ドスの効いた低い声が聞こえた。その圧から、確実に幻想ではない。それは明白だった。


「——もう一回、何しているの?」


 瞬間。

 すべてが終わったチャイムが俺の耳元で鳴った気がした。



<あとがき>

 めちゃめちゃフォロワーさんが増えてきて嬉しい歩直でございます。

 皆様からのコメントや星評価で元気をもらってます。本当にありがとうございます。昨日も言いましたが投稿頻度が少し下がるかもですが大目に見てください。また、僕は他にもたくさんラブコメ小説を書いているので僕の事をフォローしていただけると嬉しいです。過去作も豊富なので、その間は過去作でも漁ってくれると尚嬉しいです!


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