第一章「幼馴染は同棲する」

第1話「幼馴染のまさかの行動」


☆霧島和人☆


「よぉ、和人ぉ~~、元気してたかぁ!?」


「おお、俊介。いつぶりだ?」


「昨日ぶり~~、忘れちゃったの?」


「いやぁ、まさかな。ついつい見たくない顔が目の前に現れたから揶揄ってあげただけだよ」


「あっはははは……これまた失礼だな!」


 1年3組のクラスに入ると開口一番に声を掛けてきたのは中学からの腐れ縁である木戸俊介きどしゅんすけだった。陰キャ面というか、どっちかというと強キャラ感がある。加えて俺とは真逆の男らしくツーブロックの短髪に、スポーツ系の爽やかな顔立ち。たまに頼りになる以外は特にウザいだけの陽キャである。


「おはよ、どうした? 変な顔してよ?」


「変な顔はもともとだよ、気にするな」


「ははっ、ごもっともだな! ……って、そうじゃなくてよ。どうなんだよ、あれはよ?」


「あれ?」


「ああ、あれだよ、あれっ。昨日から一緒に住み始めたんだよな、高嶺さんと」


 そう、俺はなんだかんだ一番付き合いも長く信頼できる友達である俊介には今回の同棲について話している。教えた時はめちゃくちゃ笑われてぶん殴りたくてたまらなかったが……女子の話にも精通していて、俺と学園のアイドル的な存在である四葉の関係を知っている俊介は何かあった時にかなり役に立つのだ。歯を食いしばっても我慢するしかない。


 俺が俯いてうやむやにすると、肩を大きく揺さぶられる。三半規管の弱い俺には少々辛い。


「——お、おいなんだ!」


「教えてくれよぉ~~、じゃなきゃここで言っちゃうぞ~~」


 徐々に声のボリュームを上げていく俊介。クラスにはまだ半分程度の人数しかいなかったが、当の本人も同じクラスにいるため俺はすぐにそのうるさい口を掴み塞いだ。


「おい、やめろ! 皆こっち見てる!」


「んん~~、ん!!」


 苦しそうに喚くものだからさすがの俺も口から手を離すと、彼はニコリと笑ってこちらを見る。


「——へぇ、そっか、そうなんだな、色々積もることがあったんだなぁ?」


「ね、ねぇから、まじでやめろ!」


「ははっ、分かった分かった。俺は何も言わんから~~」


「っち、マジで頼むぞ……」


 しかし、こういう大事な時にしっかり秘密を言わない事が彼の信頼の厚さでもある。ほんと、スケベで変態で可愛い女子に目のない男だというのに多くの女子からの人気が高いのが余計に腹が立つ。


 数分間適当な話をして、朝のHRを終えて授業が始まった。


 現代文に世界史、そして数学Ⅰと物理基礎。少々めんどくさい授業もあったが適当に時間を潰して、とうとう昼休みに差し掛かった。


「あ、そう言えば」


 そう言えば朝からもってきた四葉のお弁当まだ渡してなかった気がする。おかげで、前の方にある彼女の席では女子たちが笑いながらその中心で四葉は顔を赤くしていた。


 そんな姿を凝視する周りを囲う男子たちは徐に財布を取り出していてさすがに気持ち悪い。こいつらに奢られるのも俺的にも嫌だし、なんなら断られることなどすでに決まっている。彼らの保身も考えると自分の身を投げるのが先決だろう。


 俺は席を立って彼女の方に歩く。すると、途端に視線が集まって心臓がギュッとしまったが最近はこの視線にも慣れてきた。そんなことしてるから変な噂が広がるのだがな。


「————な、なにぃ?」


「ほら、持ってきたやったぞ」


 席の前まで来ると苦しい作り笑いで俺の目を見つめる四葉。まったく、弁当を親切にもってきてやったのにその顔は癪に障る。もう少しニコッとしてくれれば俺も嬉しいんだが……周りに座る女子たちは目の前で恋愛ドラマが起きたかのような目で見つめているし俺も笑みを浮かべるしかない。


「弁当、忘れてただろ?」


「あ、あぁ~~そう言えば、そうねっ」


 にっこり。にしても目が笑ってないぞ。もっと作り笑いを上手くできないのかよ、こいつは。そろそろ勘付かれてもおかしくはないんだし、もっと慎重になってほしいものだ。


「あ、あ……」


 ゴクリと生唾を飲むと彼女は頬を少し赤く染める。周りに人がいて辛いのか、どうやら黙りこけてしまった。さすがアイドル的な存在でもあって、周りの女子たちが「言いなよぉ」とか「早く!」とか急かしていたが本人は俯いてしまっていた。


「……」


「うぅ……そ、その……」


 なんでそこまで顔を赤くするんだ、照れるのもやめろ。恥ずかしがるな、こっちが恥ずかしくなってくるだろうが。どんどんと赤らめる彼女にさすがの俺も気が狂いそうだ。見渡せば、今はクラス中から視線を集めていて、男子共の泣かせるな——という圧力が半端ない。


 仕方ない、ここは俺が手を引くしかない。そう思い口を開けようとした時。


「——あ、ありがとぉ……かずくんっ!」


 彼女は唐突に立ち上がって、何時しか呼ばれていた懐かしきあだ名で叫んでいた。驚きのあまりビクッと震えてしまった俺の肩を掴んだと思えば次の瞬間——。


「——っちゅ」


 あからさまな音が耳元で鳴り、同時にねちょっとした暖かく柔らかい触感が右の頬を襲う。呆気にとられた俺に赤くなりながらもニヤリと笑みを浮かべる四葉。


 その姿に俺は終始、何もできず。

 午後の授業にも身が入らなかった。

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