第5話『ラスボス召喚士爆誕』



「来てくれ――ルゼルス・オルフィカーナァァ!!」


 その名を叫んだ瞬間――視界に文字が現れた。


『イメージクリア。召喚対象――ルゼルス・オルフィカーナ。

 永続召喚を実行――――――失敗。MPが不足しています。

 続いて通常召喚を実行――――――成功。

 MPを1000消費し、災厄の魔女、ルゼルス・オルフィカーナを24時間召喚します』


 そうして……彼女は現れた。


「な……んだとぉ……」


 現れた彼女はライルが振るった斧をその二本指で受け止めていた。斧の方を見てもいないのにだ。


 まぁ、当然だろう。


 なにせ、彼女――ルゼルス・オルフィカーナはゲーム『レッドアイズ・ヴァンパイア』において最強のラスボス。

 千年の時を生きた魔女なのだから。


 腰まで伸びた血よりも濃い赤の長髪。

 見る者を恐怖させる金と銀のまなこ

 恐ろしいほどに美しい、その幼くも妖艶さを感じさせる顔。


 そして、数千年を生きたからこそ出せる圧倒的支配者然とした態度。


 その矮躯わいくから想像出来ないほどのプレッシャーを彼女は放っていた。


「ルゼ……ルス――」


 思い出した。

 何もかも思い出した。


 俺は……ラスボスという意味を知っていたんだ。


 おそらくあれは……前世。


 そこでの俺はラスボスをこよなく愛するいわゆる厨二病だった。


 ルゼルス・オルフィカーナは、俺が当時プレイしたゲームに登場していたラスボスだ。


 そんな彼女が……今、目の前に居る。

 そんな彼女が……俺と目を合わせてくれている。


 俺は、歓喜に打ち震えていた。


「くそっ、離しやがれオンナァ。てめえ、どこから出てきやがったぁっ」


 そんな中、彼女の事など知る由もないライルが吠える。

 ルゼルスはライルの方を一瞥すると、


「うるさい」


 そう言って、その小さすぎる体で斧ごとライルの巨大な体を闘技場の壁へと叩きつけた。


「う……げぇっ――」


 為すすべもなく闘技場に壁にその身を埋めるライル。

 だけど、俺の興味はもう奴にはなかった。


「ルゼルス……なのか? あの、『レッドアイズ・ヴァンパイア』に登場する――あ、いや、この言い方じゃ分からないか。えーっと――」


 ゲームの登場人物にゲームのタイトルを言っても伝わらないだろうと思って言葉を選ぶ俺。

 だけど、ルゼルスは薄く微笑み、


「いいえ。分かるわよ。大丈夫よラース。なにも言わなくても大丈夫。私はあなたの盾であり、剣であり、理解者でもある。この二年の間、ずっとあなたを見てきた。あなたの前世だって知ってるわ。だから、何も言わなくてもいい」


 そう言ってルゼルスは、



「さぁ、まずは傷を癒しましょう。ん――」



 俺に口づけをしてきた――



「んんん!?!?!?」

 


 え、なぜ? なんで? ホワイ?



 訳も分からず、為すがままの俺。



 やがて――








「ぷ……はぁ――。ふふ、ごちそうさま」


「えと……おそまつ……さま?」



 ドギマギしながらそう答える事しかできない俺。


 そんな俺を見てルゼルスは笑う。そして俺の左腕にそっと触れ――



「もう痛くないわね?」


「え? あ――」


 キスの事やルゼルスの事で頭が一杯になっていて気づかなかったが、俺の体に変化が起きていた。

 先ほど斬り飛ばされた左腕が――再生している。


 動かしてみる――――――問題なく動く。痛くもなんともなくなっていた。


「何を驚いているの? もう前世の事は全部思い出せたのでしょう? 私のキャラ設定の中に治癒魔術があった事だってあなたは知っているでしょうに」

「いや、それはもちろんしっているんだが――」


 キスする必要なんてなかったような?


 そんな疑問を抱いたのを察したのか、ルゼルスは下なめずりして、


「私と……あなたへのご褒美よ。私の事――大好きでしょう? あなたは私を召喚した。召喚された私にはあなたの心の内が手に取るように分かる。だから、もっと素直に喜んでもいいのよ?」


「喜べるわけないだろ!?」


「あらあら、素直でないこと」


 くすくすと笑うルゼルス。

 その姿は無邪気に笑う子供のようで――ああ、もう。確かに可愛いなぁくそ!! ギャップがたまらん!



「いちゃつきやがってぇ……」



 壁に埋もれていたライルが立ち上がり、斧を構えてこちらに向き直る。



「それがお前の召喚だとぉ……。ようやく召喚士様が召喚できるようになったって訳か。ったく、女に戦わせて後ろに引っ込むなんて……さすがは元剣聖様だなぁっ!」


 俺を罵るライル。

 女に戦わせて後ろに引っ込む……かぁ。

 確かにその通りなのだが、ルゼルスの事を知らないからこそ言えるセリフだよなぁ。


「ハッ、まぁいい。さっきは少し油断したが……今度はそうはいかねぇ。その女ごとぶった斬ってやる」


 そう言ってライルは斧を構える。

 ただ、先ほどのような緊張感は俺にはない。

 というより、そんなもの抱ける訳がない。


「ねぇ、あなた」


 ルゼルスがライルへと呼びかける。


「死にたくないなら……逃げなさい」


 それは、降伏勧告だった。


「あぁ? そいつはどういう――」


「私の可愛いラースを虐めたあなたを恨む気持ちはあるわ。だけど、同時に感謝してもいるのよ。あなたがラースを追い込んでくれたからこそ、私の声は彼に届いた。だから、大人しく逃げるというのなら追わないであげるわ。正直言うとね。殺さないように加減しようと思っても殺しちゃいそうで少し怖いのよ」


 くすくすと頬に手をあて、困ったように笑うルゼルス。

 その態度が勘に触ったのか、ライルが怒る。


「てめぇ――召喚された物の分際で俺を馬鹿にしやがるのか!? ざけんな。ぶっ殺す、ぜってぇにぶっ殺す」


 ライルは怒りに身を染め、ルゼルスへと斬りかかっていった。


「交渉決裂ね」


 それを冷静に見ていたルゼルスは――自身の爪を伸ばし、構えた。


 魔術。


 この世界における魔法とは違う。ゲーム『レッドアイズ・ヴァンパイア』の世界で使われていた法則。それが魔術だ。


 ルゼルスは近接戦闘をする場合、ああやって自身の爪を伸ばし、硬質化させて戦う。

 そしてその強度と言えば――


「ふっ――」 

「らぁぁぁっ……あ――?」



 ライルの斧をバターのように切り裂けるくらいには鋭く、固い。

 人体など撫でるだけでミンチとなる。


「さて……どうする?」

「ひ――」


 可愛らしく小首をかしげて尋ねるルゼルスに対して逃げ腰になるライル。

 とても理知的な行動だろう。

 もっとも、もう少し早くそうしていればだが――


「ず、ずりぃ。ずりぃぞ! なんなんだよそいつはよぉ!! 召喚者より強い召喚物なんておかしいだろうがっ。おい元剣聖様よぉ、恥ずかしいとおもわねぇのか!?」


「はぁ?」


 一体何をいうのかと思えば……命乞いですらなく、ただ俺を責めるだなんてこいつ正気か?

 そもそも、召喚士が召喚した者で戦うのは普通だろう。ファイナルファン〇ジーとかでも召喚士は召喚した魔物的なもので戦ってたし。

 この世界でもそれは同じはずだが……


 馬鹿馬鹿しすぎて耳を貸すにも値しないライルの戯言。

 なのだが、耳を貸す人物が居た。


「そう――――――いいわよ。ここからはラースの出番ね」


 あっさりと身を翻し、ライルの戯言に付き合うルゼルス。


「え? なんで!?」


 ルゼルスの事は分かっているつもりだったのだけど、急に分からなくなってきた。


「私の力だけがラースの力だと想われるのもしゃくだもの。それに、あなたも自分の力をきちんと理解するべきよ」

「だが――」


 反論しようとする俺の口を、ルゼルスは優しくその指で押さえる。

 ただ、それだけなのに少しドキドキしてしまう。


「大丈夫。私があなたに力の使い方を教えてあげる」


 耳元でそっと囁くルゼルス。


 ああ。


 俺が最も好きなラスボスのルゼルスにそうまで言われちゃぁ――――――やるしかないってもんだ!!



 そうして、自身の力の使い方をルゼルスから教えてもらった俺は改めてライルと相対するのだった――



★ ★ ★


 ラース 13歳 男 レベル:12


 職業クラス:ラスボス召喚士


 種族:人間種


 HP:68/68


 MP:1223/上限なし→223/上限なし


 筋力:36


 耐性:43


 敏捷:41


 魔力:175


 魔耐:162


 技能:ラスボス召喚[詳細は別途記載]・MP上限撤廃・MP自然回復不可・MP吸収


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