シルバー&ガビー

猫町大五

第1話

「まだ着かないんですの」

「何度聞くんだ、もうすぐさ。そうすりゃ散々暴れられる」

 深夜の街道を、大型車が疾駆する。俗に『アメ車』と形容されるそれの中、前席に二つの影。

 運転席の男。白の混じる長髪を後方にまとめ、それが肩口まで伸びている。鷹のような目つきは嫌でも人に圧迫感を与えるが、それ以上に光の消えた――いや、妙に底光りするその眼が、只者でない雰囲気を感じさせる。

 助手席の少女。深窓の令嬢を思わせる、この世を知らないような風貌。アイオライトのような深い蒼の眼に、金細工のような髪。シンプルなワンピースに、陶器を思わせる整った顔立ちがそれに拍車をかける。

「・・・また呑んでるのか」

「・・・ライフワークですもの」

 が、眼前の光景を見れば、『百年の恋も冷める』とまでいかなくとも、温くなるくらいはなるだろう。彼女が右手に持つ流麗なガラス瓶。その風貌と相まって花瓶のようにも見えるが――紛う事無き酒瓶である。しかも、その中身は。

「またアドンコかよ・・・よくストレートでいけるな、そんなもん」

「良いではありませんか、別に酔う訳でもありませんし」

「・・・この前は?」

「アブサンでしたわ。でも大昔の規制時のもの。半分密造品で度数も低め、あれならパスティスの方が良かったですわ」

 眼をとろめかせる隣席に呆れながら、男は懐から煙草を取り出す。

「仕事前に飲むなんざ、お前じゃなかったら許可してねえぞ」

「あら・・・許可してくださる?」

「・・・妙な意味に取るんじゃねえ」

 不機嫌そうに紫煙を吐きながら。彼らは、埠頭に向かっていた。

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