第3話

「さて、今日の作戦もうまく行くといいんだが」


 俺は昨日と同じ時間、同じ場所でシルヴァを待っていた。そもそも昨日あれだけ振り回しといて、果たして今日待ち合わせに来るのだろうかという疑問もある。ただ、律儀なあいつのことだ、十中八九来るだろう。


 それから待つこと十分、やはりシルヴァは現れた。相変わらず綺麗すぎるその容姿で周囲の目を引いているため、わかりやすい。青い眼こそ、この地区では珍しくないが白銀の髪なんて滅多にいないしな。


「おはよう、シルヴァ。それにしても昨日も思ったがめちゃめちゃ目立ってるな」


「あ、あはは、私の髪色は珍しいですからね」


「そうだな、あとはシルヴァが綺麗すぎるってのもありそうだが」


「いえいえ、それにそれで言ったらキョウヤさんもすごく目立ってましたよ。珍しい黒髪の人、それもすごくかっこいい人がいるって騒がれてました」


「はは、確かにこの辺だと黒髪は珍しいかもな。かっこいいに関しては、シルヴァに見劣りしてないようで何よりだ」


「うわぁ、気障なセリフですね……」


「おいおい、その反応はないだろ!」


「あはは、冗談ですよ。昨日の仕返しです」


 笑いながらそういうシルヴァ。流石に賛辞は言われなれているのか、軽くあしらわれてしまった。ちょっとからかってやろうと思ってたんだがな。


「ったく、こりゃ一本取られたな。いや、実際昨日は悪かったな。どうしても外せない急ぎの用事でな」


「いえ、急用なら仕方ないですし。それで今日は——」


「あぁ、昨日思ったより長く付き合わせてしまった詫びがしたくてな。せっかくだし昨日断念したご馳走でもしようかと」


「え、ご馳走ですか!?」


「あぁ、期待しといてくれ」


「……まさか市販のサプリメントを出してご馳走とか言わないですよね?」


 疑うような瞳ででこちらをみるシルヴァ。


「おいおい、そんなに俺は信用ないのか!?」


「昨日の振る舞いについて胸に手を当てて考えてみてください。全く最初は親切な人だと思っていたのに」


「昨日のことは悪かったって。楽しくてつい、な。ご馳走についても安心してくれ。少しつてがあって丁度、現物の食材を手に入れたんだ」


「現物の食材を入手するつて……。まさかキョウヤさん特権階級の出身だったりします?」


「いやいや、たまたま入手しただけだよ。それで調理も含めて俺の家でご馳走しようと思ってたんだが、問題ないか?」


「そうですね。落ち着いて話すのにも良さそうですし、お邪魔させていただきます」


 一昔前なら、女性が一人で男の部屋にというのは少し危ないことだったが、今は徹底的な監視社会、少しでも怪しいそぶりを見せれば携帯デバイスから通報、家に常備されてる警備ロボが作動して速攻捕まる。だから家に誘うのもそこまでおかしいことではない。今日の作戦は家じゃないと厳しいからな。今回だけは息苦しい監視社会にも感謝しておこう。


「了解、じゃあ案内するからついてきてくれ」


ーーーーー


「そういえば、昨日話そうとしてたことはもういいのか?」


「あなたがそれをいうんですか?無理に話そうとしても遮られるのがわかったので、然るべきタイミングで話すことにもう決めました」


「ははは、悪いな。そういえば昨日見て気づいたんだが、シルヴァのデバイスって最新版だよな。俺のは旧型だからちょっと興味があるんだ見せてもらってもいいか?あ、中身まではみないからロックは解除しないでいいぞ」


「中身を見ないなら、全然いいですよ。それにしてもその歳で旧型とは、趣味でしょうか?」


 基本的にオルディネ統合後だいぶ経った後に生まれたやつは、旧型のデバイスを入手することなんてないからな。ましてそれを使ってるやつなんて、俺くらいのものだろう。まぁそれにも事情があるんだが。


「そんな感じ。お〜最新型はフォルムからして違うな。かっこいいわ」


 さて、俺の家に招く以上シルヴァ以外に万が一でも追跡されるの困る。世間話ついでにデバイスを渡してもらい、その隙に追跡に関わる部分を停止させる。本来こんなことをしたら即警報がなるのだが、俺のを使えばそれも回避できる。


「堪能させてもらったわ、サンキュー」


 機能停止を手早くすませたところで、不自然に思われない程度にデバイスを観察し返却する。


「あれ、今……」


「ん?どうかしたか?もしかして俺の旧型デバイスも見たくなったか?」


「あ、いえそういうわけでは。……気のせいですかね?」


「なんだ、結構古いのも味があっていいもんだぞ」


 あぶねえ……。昨日のことで少し油断してたが、やはり最高戦力の名前は伊達じゃないな。俺が能力を使ったことを察知されかけた。細心の注意を払ったつもりだったんだけどな。ここからはもう少し用心していくとしよう。


「それにしても、相変わらず活気がないなこの国は」


「そう、ですね。確かに活気はないかもしれません」


「生きるのに不自由しないという面では平等でも、他の部分でここまで差があるとな」


「特権階級ですか」


「あぁ、多少の見返りを求めるのはわかるが、今はちょっと度が過ぎている気がするな」


「確かにそうですね……」


「で、それを止めない政府も政府と。ま、俺自身は楽しめてるからいいんだけどよ。ゲームとかも楽しめてるしな。ただ、これだけ辛気臭いとこっちも気が滅入ってくるぜ」


「キョウヤさん!あまり公の場で話していると、どこで誰が聞いているかわかりませんよ!」


「悪い悪い」


 いやいやそれをお前がいうのか。本当にお人好しだな。この分だと軽い違反については今までも結構見逃してそうだな。いい機会だと思って少し探りを入れてみたが、やはり個人的な理由を抜きにしてもこの国の在り方に思うところはあるらしいな。昨日思った通りきっかけ次第でどうとでもなりそうだ。


 そんなふうにシルヴァと世間話をしているうちに、俺の家に着いた。


「ついたぞ、ここが俺の家だ。見た目はちょっとボロいけど中は綺麗にしてるから安心してくれ」


 俺の家は色々調査が入るとまずいもんがあるからな。セキュリティシステムなどが非常に古い訳ありの物件を使っている。


「また、雰囲気のあるお家ですね。旧型のデバイスといい、本当に古いものがお好きなんですね」


「ははは、趣があっていいだろ。さ、掃除は済ませといたから入ってくれ」


 古いものが好きなのは事実だが、それより監視から逃れやすいのがありがたい。最近のモデルは全て監視のためのソフトが入っていてしかも削除できない。


「はい。ではお邪魔します」


「あぁ、あんまり広くなくて悪いが、適当に座ってくれ。あぁ、俺は東の方出身だから所謂和室なんだが大丈夫か?」

 畳に座布団は慣れない人だと面食らうかもしれないから一応声をかけておく。


「あ、一度親の付き合いで大和のお屋敷にお邪魔したことがあるので大丈夫です。むしろ気に入ってるくらいです」


「そうか、ならよかった。じゃあ俺は料理の準備をしてくる。——あ、シルヴァは何か好きなものとかあるか?」


「そうですね、トマト料理とかは好きですね」


「了解、じゃ適当に作ってくるわ」


 そう言って俺はキッチンに向かった。


「はい、あれ、普通聞くのって苦手なものじゃ……私好みの料理に使う食材があると限らないのでは?それともそんなにたくさん食材があるんでしょうか?」


ーーーー


 さて、トマト料理か。あらかじめ用意していた食材の中には——ないな。仕方ない新しく創るか。俺は元々あった野菜の一つを手に取ると能力を使う。すると次の瞬間、その野菜がトマトに姿を変える。


 全く便利な能力様様だな。そう思いながら他に必要な食材も準備していき俺は調理を始める。食事に関してはこの国では全く期待できないため、自分で作るしかなかった。そのおかげで今じゃ特権階級の食べてる飯にも劣らない自信がある。


 これが作戦その2、『胃袋を掴んで引き込もう作戦』だ。シルヴァ自身も現物の食材を入手することが可能だろうが、あいつの性格上自分だけ美味しいものを食べ続けるというのも考えにくい。そこで俺の絶品料理。ふっふっふ、これは大きなきっかけになること間違いなしだ。楽観的な想像をしながら、俺はウキウキで料理に取り掛かるのであった。

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