第10話 訓練

スラスラと普通に教えてくれたけど、隠された精霊界で別空間とか、前人未到なんですが・・・私、どうなっているのかしら・・・ここ最近、混乱しかしていない気がする。

でも、時間の感覚を取り戻せるのは嬉しい。というか、窓作るのね・・・簡単に言うけど、どうやって?すぐに疑問は解決した。

「ほっ!と、ねぇ~」

のんきな掛け声とともに、壁がくり抜かれて繊細な装飾の枠と共に窓が現れた。

「魔法?!」

「まぁ、そうだね。もしかして、とんかんとんかん穴をあけると思った?この僕が・・・」

いや、思えませんでした。肉体労働とか、精霊には似つかわしくないですよね、はい。すみませんでした。含み笑いで、小さな意地悪を言われる。

「それで?どう?こんな感じで良かったかな?気に入った?」

まるで褒めて欲しいと言わんばかりに顔を近づけて尋ねられた。

「素晴らしいと思います。」

思わず、勢いに負けて答えてしまった。

実際、新たに作られた窓はとても美しかった。

左右対称で枠には、たわわに実をつけた蔦植物が巻き付いているように見え、真っ白な中に持ち手部分の真鍮色との対比が見事だった。

「ありがとう。本当に素敵ね。許されるなら、窓辺に腰かけてお茶でも頂きたくなわね。」

ちゃんと見て感想を言ったことに気をよくしたのか、見事に希望が叶えられた。

ほっと一息つくにはもってこいの憩いの場所ができたのだった。

「セイラン、私もそんなに素敵な魔法が使えるかしら?」

やってみたかったのと、学校で魔法を中心に学んでいたこともあり聞いてみた。

答えは、随分とばっさりと切り捨てられた。精霊の魔法は人間には難しいとの事。

それでも、人間用の魔法なら体力づくりの合間に教えてくれることになったので、万々歳だ。


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*


「とりあえずは、体力づくりね?君、すぐにへたり込んじゃうから。」

そういって、筋力を付けるために走り込みを日課にされた。

集中する何かがあるのは、有難いことだった。

シルビア様にお会いしてから、ふと気づくと王都のことを考えている自分がいる。

皆の弔いをしたいこともまだ言えていないし、あの時もっと力があればとも思った。誰かが無事に逃げてくれていることを願うしかできないのは、やはり辛かった。前向きに考えなければいけないことも、わかっている。できることをしなければとも思っている。

ただ、思うのと実行するのは別物。だから、強制的にやらなければらないことがあるのは、有難い。その第一歩が走り込みだ。

本当は、魔法も早く教えてもらいたい。それでも、シルビア様ですら情報が少ない今はまだ、力をつけることをやっていこうと思う。


「あと3周ね。」

へばりだした私にサラッとえげつないことを笑顔で言ってお茶を啜るセイランが恨めしい。

運動のための場所を作ってくれたのは、嬉しい。でも、そこに作られた休憩用の机と椅子を使わせてもらった事は無い。

無理矢理に体を動かして3周を走り切った。

「お・・・お水・・・」

手を伸ばして茶器を受け取ると、淑女らしからぬ姿で喉を鳴らして一気に飲み干した。


「セイラン、まだ走るの?いつまで走り込みだけなの?」

「ん?まだもう少し、だめだね。」

うっかり走り込みに飽きてきた私の愚痴にセイランがにっこりと言う。

「君は、まだ体力と魔力が釣り合ってないんだよ。ここで食べるものには魔力が宿ってるけど、その体力のない体で魔力を使うと体がついていけずに倒れるんだよ。だから、今はひたすらに体力をつけてもらうんだよ。」

「なるほど。それは、頑張らないといけないですね。ごめんなさい。」

わかればよろしい。というように、頭を撫でられる。

久しぶりに撫でられた事に、お父様を思い出して切なくなった。

お父様の様な大きくてかたい手ではないけれど、温かかった。

少し気持ちが浮上して、頑張ろうと思えた。何か魔法を使ったのかしら。


そんな感じで何日かが過ぎた頃、セイランからシルビア様が呼んでいるからと部屋に迎えに来た。

「こんばんは、シルビア様。」

「アナ、こんばんわ。頑張っているみたいね。セイランから聞いているわ。」

にっこりと褒められて、照れてしまう。

「ありがとうございます。今日は、何かあったのですか?」

「うん、まぁね。貴女にも言っておいたほうがいいと思って。」

いつも笑顔のシルビア様の妙に真剣な面持ちに緊張する。

「なんでしょうか。」

「貴女の住んでいた国、マルレイ国?の王子様が見つかったわ。王都に戻っている。魔物を引き連れてね。」

え・・・?王太子殿下が魔物を?意味が分からない。

顔に出ていたのか、心配そうに見られてしまった。

「ごめんなさい。続きを聞かせてもらえますか?」

「えぇ。王太子は、ランドルフ・ドゥ・マルレイでいいかしら?」

こくりと頷く。

「彼は、魔物の軍の司令官として旧マルレイ国王都に魔物を引き連れて帰国し、城を再建すると同時に周辺国へ自らが王となり国を新たに建国しその国を魔物の住まうものにすると宣言。そして、周辺国へ自分の国に隷属することと難民たちを引き渡す事を了承するように通達したの。周辺国は、急な建国と隷属の通達におかんむりで戦争も辞さないと返信しているわ。」

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