オカルトの使い方

めぐりも物好きだよね。わざわざ心霊スポットに来るとかさ。」


 放課後、空が茜色から昏い藍色へと染まってゆく時間。霊音たまねは友人の廻に付き合って、県境のトンネルを歩いていた。いわく、夕陽を背にしながらトンネルに入り、月が昇ってから出てきた者は死者に呪われるとか、はたまた祝福されるとか。噂はずいぶん適当で、心霊スポットかパワースポットか分かったものではない。


「うん。なんか世界の裏側っていうか、誰も知らない世界を自分だけが知ってるって特別感がたまらないの。霊音たまねはオカルトとか信じないタイプ?」

「うーん。自分に都合のいいオカルトだけ信じるかな。」

「あはは。なにそれ、虫が良すぎ。じゃあここを通り抜けたら私たちは祝福されるってこと?」

「どうだろうね。これだけ雰囲気のあるトンネルだと本当に呪われちゃいそう。」


 そろそろ月も出てきたかな、なんていいながら二人はトンネルを出る。辺りはすっかり暗くなっていた。夜道を歩く二人の頭上では喧しい鳴き声をあげながらカラスが飛び回っている。少し歩けばクロネコが前を横切り、道端には割れた手鏡が落ちていた。


「うぅ。廻ぃ~私たち、もしかして呪われちゃった?」

「そんなに怯えないでよ霊音。偶然よ偶然。」


 すっかり怯えた様子の霊音はいちいち敏感に凶兆を指摘する。


「でもあんなところにヒトの顔みたいな染みがあるし、なんか肩も重い気がする。」

「も~。自分に都合のいいオカルトしか信じないんじゃなかったの? そんなに怖いなら手繋いであげるから。ほら。」

「うん。ありがと……。」


 しおらしい様子で廻に手を引かれながら、しかし霊音は気付かれないようにこっそり微笑んだ。

 彼女は自分に都合のいいオカルトだけ信じるのだ。

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