アルバムにはしまえない

 写真を見つけた。めったに写真なんて撮らない私が、机の奥にしまっていたものだ。それには協会を背景に、高校生の私と外国人の家族が写っている。皆、満面の笑顔だった。思い出す。これは、オーストラリアへ短期留学へ行ったときの写真だ。


 高校生の私は2週間オーストラリアへ短期留学することになった。現地で受け入れてくれたのはフィリピン人の家族。恰幅のいいお父さんに綺麗なお母さん。私は彼らをダッドマムと呼んだ。彼らには小学生の息子と娘さんが一人ずつ。人懐っこい子たちで、すぐに打ち解けた。

 刺激的な2週間だった。平日は学校に通い、帰ったら子供たちと遊ぶ。休日は近所の家で派手なBGMをかけながら近所の子供たちの誕生日パーティ。驚いたことにパーティピーポーは実在した。

 学校ではアンドリューという友人ができた。彼は日本ギークオタクで毎日忍者について語り合った。海外では日本と言えば忍者と侍っていうのは本当らしい。

 楽しい日々はあっという間に過ぎ去って、留学の最終日、無事帰国できるようにと教会でお祈りした。このとき、私は妙に感傷的な気分になって、どうせ使わないと思っていたインスタントカメラを取り出して、「みんなで写真を撮ろう。」と言ったんだった。


 写真を眺めながら、懐かしい気分に浸る。が、ふと思い出す。


 別れが近くなった頃、ダッドに呼ばれて紙とペンを渡された。帰った後も連絡を取りたいからメアドを教えてくれないかとお願いされる。私はもちろん応えた。ただ、留学にケータイを持ってきていなかったから、記憶を頼りにメモした。

 だけど、日本に帰ってから、ダッドのメールが届くことはなかった。きっと教えたメアドが間違ってたんだろうな。カトリックの彼は、悪魔から返信が来て驚いたに違いない。


 この写真には、楽しかった思い出と申し訳ない記憶が同居していた。気持ちの片付け方が分からなかった私は、写真を再び机の奥にしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る