二枚 お見合いの章

第5話 お菊さんのお洒落

 封印寺の夜、お菊さんは門将とお見合いをするためにお洒落を開始した。

「お岩さん! この白装束どう?」

「いいんじゃね、この血がべっとりな感じが」

 お菊さんは血みどろ白装束を着て、唐傘を呼んだ。

「おい! 唐傘! お前日傘になれや。門将様が来た時に庭(納骨堂周辺)をまわるんだからよ」


 唐傘は目を輝かせた。唐傘は興奮気味でカランコロンしている。そして、当日の天気を調べるために新聞を盗み見しようと考えた。


 だが、お岩さんが「お菊、唐傘の事を少しは考えてやれよ」と言うのでお菊さんも「そうよね、その日は唐傘に休みでも与えるか」と考え直した。


 唐傘は衝撃を受けた。なんとか当日使ってもらおうとお菊さんの前をカランコロンするが、逆効果だった。お菊さんは「お前、休みがそんなに嬉しいのか。そっか、良かったな」と優しく話しかける。唐傘は体全体で否定したが、変化は無かった。


 一つ目小僧が「良かったね! その日は皆で一緒に幽怨血ゆうえんちへ行こうよ。後、テレビドラマ、『三つ子の魂百までもたねぇよも』見学しようね」と誘ってくる。溶けこっこも「さあ、遊ぶぜ!」とのりのり。唐傘は休みをとらされた……。


 お菊さんはメイクを始めた。口と頬には血を塗って、目の下には隈をしっかり描いた。お菊さんは髪飾りに天冠てんかんを被り髪をボサボサにした。


 爪には血のネイル、歯にはお歯黒、土踏まずで大地を踏みしめて。


 お岩さんは「……これでいいのかな……」と思案顔であるが、お菊さんは有頂天だ。死ねば身体も保てない。生きている時の感性を死んでからも保とうと思う方がおかしい。


 その日は雨がパラパラと降り出した。

「最高じゃねぇか! お岩さん!」

「幽霊日和だねぇ」


 それからお岩さんは封印寺の幽霊と一緒にお見合いの準備を始めた。唐傘以外は楽しそうに準備をしている。


 お菊さんはあることを思い出した。

「ねえ、お岩さん。今世間で流行っている結婚指輪とかいうのどう思う?」

「ん? 袖でいいんじゃね?」

「いいや、袖をもらうより指輪がいい」

「んー、どうしてもそうしたいってんならちょっと考えるか」


 お岩さんは考えた。

「キーホルダーの取り付けのリングでどうだ?」

「お岩さん……それよ!」

「じゃあ早速、金属加工工場跡地で職人幽霊に造ってもらいにいくか」

「お岩さん、血が滾るわ!」

「あたしも、血が騒ぐわ!」


 唐傘は何とか当日使ってもらおうと呪殺夫人のまえで逆立ちして回転しながら訴えた。呪殺夫人は見向きもしない。唐傘はあきらめた……。


 封印寺の和尚が寺から出てきた。

「悪霊退散!」と叫んで塩を撒くと幽霊達は消えて行った。


 次回、対面

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る