シモツケー(トーチギ)

「え・・・これ、ほんとに大丈夫なんですか?」


 あまりに驚きの栽培方法。

 バイト先の農家で、ハウス栽培しているニラ畑を見せてもらった。


「んだ、ニラは一度枯らすんだ。その間に根っこが張って丈夫なニラになるんだ」


 今までの常識を覆す作物。

 ニラはここトチーギの名産だ。


「丈夫なニラはね、一度収穫してもまた伸びて来て何回も収穫できるんだ」

「ええ?すごい生命力ですね」


 年に何回も収穫できるとのこと。すごいなあ。


「やっぱり、ウツーノミヤは餃子で有名ですからね。その材料のニラが名産になったんですね」

「いや、逆だね。ニラをなんとか食べてもらおうと思って、餃子を宣伝したんだ。農家は作るだけじゃあだめだ。どうやって作った作物を食べてもらうかを考えないといかん」

「・・・なるほど」

 やっぱり農家は奥が深い。


 バイトの内容は、干瓢つくり。

 かんぴょう瓜を収穫して、細く削って干す作業。

 収穫した干瓢を、機械にセットするとくるくる回って削られていく。

 シュルシュルと帯状に削られていく。見ていると気持ちがいい。


「栃木の名産って、ニラと干瓢ですかね」

「あとは苺かな」

「ああ、とちおとめってやつですね。聞いたことあります」

「いやいや、今の流行はスカイベリーだべ。大きくておいしいんだ」

「ええ?食べてみたいですね」

「あと、農産物だったら牛乳だな」

「牛乳? あぁ、牧場ですね」

「んだ。北の方に行くと沢山の牧場があるんで行って見たらいい」

「へえ。どうやって行ったらいいですかね」

「レンタル自転車で行くのはどうだ?」

 へ?自転車?

「んだ。ここじゃあ、ロードバイクのレンタルがあるからなぁ」

「ロードバイクですか?」

「ロードバイクを知らんのか? そんなんじゃあ、ここいらでは潜りと呼ばれるぞ? ここには複数のプロチームがあるし、年に一回のクリテリウムは盛り上がるのなんのって・・・」

 何やら、熱い熱弁が始まった。

 ご主人も、ロードバイクなる自転車を持っているらしい。

 なんでも、30年くらい前に世界選手権が行われてから、このウツーノミヤではロードバイクレースが根付いたとか。

 よくわからないけど。


「ところで、ウツーノミヤの餃子のお店っていっぱいあるじゃないですか。おすすめの店とかありますか?やっぱりMA〇〇〇〇かMI〇〇〇〇のどちらかですか?」

 すると、ご主人…急に小さな声で話す。

「そうだなぁ。俺が好きなのは、イマミーヤ町にある一〇香なんだ。あの大きな餃子とラーメンがおいしくってね。本店はオヤーマなんだけど」

「え?オヤーマのお店なんですか?」

「あぁ、内緒だぞ?」

「は・・・はい・・・」


 昼にその店に行って見た。

 確かに、巨大な餃子である。

 餡がぎっしり詰まっていて・・・美味しかった。



 次の日。



「ふう・・・牧場って気持ちがいいですね」

 ナースシオバラの牧場にやって来た。


 広い牧草地。

 乳牛たちがくつろいでいる。


「栃木であとは、有名なキノコが食べたいですね」


 なんでも、乳茸というものがあるらしい。油で炒めて食べるそうだ。

 トチーギ以外では食べられないそうだが・・・

 トチーギの民は乳茸に対する情熱がすごいそうで、他の土地の森にも取りに行くそうだ。

 それにしても、乳茸か。


 グンマ―の温泉で見た、あのおっぱいを思い出していた。

 大きかったなぁ…


 向こうに見える売店で、新鮮な牛乳が飲めるようだ。

 せっかくだから、牛のおっぱいから出たお乳でもいただきましょうかね。


 そう考えながら、売店に向かった。

 すると売店から、集団が出てきたところだった。


「なんで、ウツーノミヤ名物の餃子を食べちゃダメなのよ」

「いや・・・聖女様がここで餃子を食べたら、ハママーツからクレームがきますので」

「せっかく苺を食べようと思ってたのに、それもダメって、ひどいんじゃない?」

「苺なんて・・国中からクレームが着ますよ。トチーギだけえこひいきするのかって」


 ぷりぷりと怒りながら、ソフトクリームを持って売店から出てきたのは、白い服を着たおっぱい・・・いや、聖女様とロリッ娘魔法使い。そして取り巻きたち。


 僕は、一瞬固まってしまった。


 向こうも、僕を見て固まっている。


「「ああ~~~~~~!!」」


 くるりと振り向き、全速力で逃げ出した。


『逃げ足スキルがMAXになりました』『上位スキル、ロードランナーを獲得しました』


 「待てー!!!」

 「待ちません!!!」

 今回はアドバンテージがほとんどない。ヤバい!!


 すると、魔法使いが呪文を唱えた。

 「身体強化!えい!」


『身体強化しますか?』

「お・・・お願い!!」

『身体強化しました。さらに重ね掛けも可能です』

「かけれるだけかけて!」

『身体強化×2をかけました』『身体強化×3をかけました』『身体強化×4をかけました』


「うそー!!身体強化を重ね掛けするなんて!こっちも負けずに重ね掛けするよ。身体強化×3!えい!!」


『ロードランナースキルがレベルアップしました』『魔術師レベルがMAXになりました』『上位スキル、大魔導士を獲得しました』


 少しづつではあるが、賢者と聖女たちの距離が離れていく。

 鹿の湯を走り過ぎ、高原の道を走り抜け左に曲がる。

 昔ながらの甲子温泉の横を走り抜ける。


 じりじりと距離が離れていく、賢者と聖女たち。


 やがて、峠を越え山道を下って・・・


 賢者が聖女たちの追走から逃れたのは、フクシーマのアイズシモゴーであった。


「はぁ・・はぁ・・・アイズ―ワカマツと、南アイズー。どっちに向かったのよ…」

 完全に賢者を見失った聖女。


 それにしても、あの身体能力と言い、魔力といい。もしも仲間になってくれたら、強力な同志となるだろう。


「絶対、賢者様には仲間になってもらうんだから!」


 賢者様。彼が、味方になってくれれば、あの勇者でさえ敵ではない。

 聖女は、絶対味方にすると心に誓ったのだ。

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