第27話 Reunite

 コンの素晴らしい操縦のお蔭で無事に、俺の厨房に着地出来た。

「コン、有難うな。尻尾大丈夫か~」

 先ずコンを労っていると、男2人が俺に抱き付いてきた。

「玄! 無事に帰ってこれて良かった!」

「玄だぁ~ お帰りぃ」

「あははは、2人共、只今」

 こうしてると、中高生の頃を思い出す。俺はいつも沢山の素敵な仲間に恵まれていると感謝した。

「で、耕三さん、どうだった?」

「開口一番それかいな?」

「うん、色んな所に連れて行って貰って、沢山勉強になった」

 手を繋いだ事は内緒にしておこう。

「スコーンとジャム送ってくれて有難う。すっごく旨かった。耕三さんも感心してたぞ」

「おお、それは良かった」

「僕等思っててんけど、耕三さんが造る道具って、なんや神業が掛かってるんちゃうかって」

「俺も義晴も、お菓子作りに関しては全くの素人なのにさ、あんなに完璧に出来るって、しかも簡単にだぜ。絶対に何か仕掛けがあるぜ」

「そう言えば、苗を育ててた時に、1つ1つに魂を吹き込むって言ってた。道具でもそうなのかもしれないな」

「やっぱりな。マジでそんな感じだ」

「そうそう、それから僕等に助っ人が増えたで。お菓子作りが得意やて」

「最強で、しかも美人の助っ人。鬼長に感謝、感謝だぜ」

「美人って事は、女の人? 2人とも?」

「そう、カフェの経営にはやっぱ花が必要だ」

「急に勇、張り切ってんねんで。あほやろ」

「そういう、義晴だって、下心丸見えの親切顔してるぞ」

「あははは、まぁ花があるのはいいじゃん。今どこに居るの?」

「その最強助っ人が、なんとキッシュが焼けるって言うから、パン生地練ってくれてる」

「あれ、重労働だよ。女の子だけでさせてるのかよ」

「いやいや、俺等もそう言ったんだぜ。でも、久し振りにパンを捏ねたいってさ」

「そうそう、僕等は卵の準備してた」

「もう、第1発酵ってやつは終わったから、今から生地を伸ばすのを手伝いに向かうとこだ」

「俺も行くよ」

「当り前やん。ギャルが四つん這いで生地伸ばしてんねんで。現世でも拝まれへん姿やで」

「おいおい、その発言、閻魔大王に聞こえてたらヤバイぞ」

「そうだよ、義晴。煩悩丸出し」

「ほんまや、気を付けるわ。でも死んでも男やしな、しゃーないやろ」

「だな~」

「あははは」

 久し振りに勇達と大笑いした気がした。

 窯の近くに行くと、鉄板の上でローラーを回している2人の姿が見えた。

「遅くなってごめん。俺達も手伝うよ」

「今、ホウレン草の粗熱取ってるねん」

「あ、もうそこまで、、、、出来たの。玄く、、、、ん?」

 ローラーでパン生地を伸ばしていた1人の女性がその手を止め、義晴達に応えようと身体を起こした時、玄の姿を捉え、驚き以上に再会を祝福するかのように、玄の名を呼んだ。

「茜せんぱ、、、、い? え? 茜先輩!」

 名前を呼ばれた、黒坂茜くろさかあかねは立ち上がると、急いで玄に駆け寄ろうとしたが、動揺を隠しきれず足が絡まり転がりそうになるのを、玄の腕に助けられた。

「茜先輩、どうして」

「やっぱり玄君だ。勇君達から、もう1人ここに居る男の子の話を聞かされて、もしかしてって思ったの。うわ~本物なのね。地獄でだけど、会えて本当に嬉しい」

 茜はそう言いながら、玄の顔をペタペタと触った。

 勇と義晴は暫く呆然と立ち尽くしていたが、もう1人パン生地の作業で取り残されている、理子の元へ、抱き合っている玄達を横目に足を進めた。

「何や、あの2人恋人同士かいな」

「玄から女の話なんて全く聞かされていないぞ」

「どう? 理子ちゃん。僕等も手伝うよ」

「あの様子じゃ、あの2人には暫く作業は無理ぽいな」

「あ、有難うございます。今、来た人が玄さん?」

 理子は再開を喜び会っている玄と茜の姿を無言で見つめた。

「お、もう半分も出来てるやん。早いな。後は勇とするから理子ちゃんは休んでていいで」

「義晴は、理子ちゃんには、ホント優しいよな」

「理子ちゃんだけちゃう。皆に優しい義晴君です」

「はいはい」

「あははは。でも私まだ大丈夫です」


「ごめん、玄君。思わず抱き付いちゃった」

「いや、こけそうだったし。それより、俺のせいで茜先輩も死んじゃったってこと? でも爆発の時、レジに居たんじゃ? キッチンからは離れてたよね」

「うん。私はあの爆発事故では死んでない。でも火傷はしちゃってね。感染症に悩まされたの。玄君とは一緒に死んでないのに、あの世で会えるなんて本当に信じられない」

「俺のせいで、苦しませちゃって、ごめんなさい。俺みたいにアッサリ死ねた方が、楽だったかもしれないのに」

「何言ってるの。地獄でも相変わらずの良い人ね、玄君は。それに玄君のせいじゃないわよ。あれは事故だったんだから」

「でも俺、被疑者だって、閻魔大王に告げられた」

「確かに、あの日のキッチンを任されたのは、玄君だったけど、警察の人がビルの管理業者が、ガスの点検を怠ってたって話してたと思う。ごめん、私も高熱で意識が朦朧としていたから、ちゃんと話を聞けてないの」

「そうだったんですか」

 俺は茜先輩との再会を喜ぶ自分と、懺悔の気持ちから、今どういう言葉が相応しいのか脳をフル回転させた。

「勇君と義君から聞いた。地獄でカフェ経営の夢を叶えようとしているんだって? 凄いじゃない。私もメンバーに加われるなんて、初めて地獄に来て良かったって思えた。あははは、なんてね」

「茜先輩」

「なんて顔してるのよ。確かに、この若さで死んじゃってすっごく悔しいし、両親にも悲しませて辛いけど、ほら、前に話してくれたじゃない? 地獄に行ってもちゃんと修行をして罪を償えば、また転生出来るって。ここで終わりじゃないんでしょ? その修行が、ここで玄君とパンとか焼きながらだなんて、私、少し幸せかも」

 未だ複雑な心境は晴れなかったが、茜とここでカフェオープンの夢を叶えられる事に、今は感謝すべきだと思った。

「茜先輩。そうですね。カフェ、一緒にオープンさせよう。よろしくお願いします」

「やだ~ 店長は玄君でしょ。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 茜はそう告げると、玄の左腕を叩いた。

「バシっ」

「相変わらず強いですね」

「あははは、ごめん」

「あははは」


「何や向こう、落ち着いたみたいやで」

「だな~」

 型にパン生地を敷き詰めていた勇と義晴が、顔を緩ませて呟いた。

「お~い、いつまでサボってんだぁ、早く手伝え」

「いつまでイチャ付いてんねん。2人でホウレン草を卵と合わして、こっちに持って来てや」

「ごめん。分かった!」

 俺は地獄での積もる話を語りながら、キッシュの具が入っているボールを目指し、歩き出した。

「おい、義晴。なんで玄を向こうに行かせるんだ。理子の事を紹介してないじゃないか」

「あ、ほんまや。ごめん理子ちゃん。玄が戻ってきたら、しっかり紹介するから」

「いえいえ、私なんていつでもいいですよ」

「理子ちゃんは、ほんま遠慮しいやな。出しゃばりより僕は好きやけどな」

「義晴、シレーっと告るな」

「え? しれっとや無いで、堂々とや。ははは」

「あのな、お前その内、獄卒の居る地獄に送られるぜ」

「それは、怖いな」

「獄卒って?」

「あ、めっちゃ怖い鬼。時々ここにも食べに来るねん。理子ちゃん可愛いから、狙われんように気を付けや」

「あのね~」

「あははは」

「あ、玄さん達が帰ってきました」

 玄と茜が、仲良くボールを抱え、皆の元に近づいて来た。

「おーい、玄。茜の事はもう知ってるみたいだから、理子を紹介しないとな」

「なんで、勇、先輩を呼び捨てにしてるんだ!」

「ははは、まぁいいじゃない。玄君も呼び捨てでいいよ」

「茜、、、、恥ずかしい、やっぱ先輩で」


「私、早乙女理子と言います。料理は少し出来ます。お片付けは得意です。宜しくお願いします」

 自身を紹介している理子を前に、玄は顔をまじまじと見ていた。

「おい、玄」

「あ、ごめん。でもどっかで会ったことある?」

「え?」

 理子は戸惑った様子を見せた。

「げーーーーーん、女は1人にしときや~」

「義晴怖いよ。ごめん、俺は武田玄信。こちらこそ宜しくお願いします」

 玄の言葉に少し違和感を感じながら、茜は2人を伺っていた。


「で、何で2人は知り合いなん?」

「あ、茜先輩の事?」

「そう、決まってるだろ」

「大学の先輩で、茜先輩もカフェルージュで働いてた」

「ほぉ~ それだけ?」

「なんだよ」

「別に。なぁ~ 義晴」

「元恋人ちゃうん?」

 俺と茜はお互いに目を合わせると、顔が赤くなる気がした。


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