裏サークル『麻雀同好会』中編

 『麻雀同好会』。彼らは悪しき寮則『麻雀の禁止』を打ち倒すべく、裏サークルとして暗躍する。彼らは一般学生の協力も得て、ついに部室を手に入れたのだった。


 ◇


 同好会の部室は常に係の人間が見張りに付き、外から施錠される。こうすれば見張りが隠れさえすれば、その部屋は使われていないように見えるからだ。


 一人の入会志望者がやってくる。裏サークルという怪しい響きに興味本位で釣られた麻雀初心者だ。彼は見張りに合言葉を告げる


 「海底撈月ハイテイラオユエ。」


 その言葉に込められた意味は、最後まで勝負を降りないという決意だ。


 新人を迎えるのは3人の手練てだれ。空いた席に新人を座らせ、互いに自己紹介を済ませる。雑談に興じながら、和やかな雰囲気で麻雀を打つ事になる。麻雀同好会ここがどんな場所か知りたいなら、それが一番手っ取り早いからだ。


 新人はすっかり緊張の解けた様子だ。裏サークルというからどんな怖いところかと不安だったが、実際は談笑しながら麻雀を打つだけじゃないかと安心する。


 麻雀初心者なら仕方のないことだが、新人は手牌てはいかわをみるのがで、他の参加者の顔を見る余裕などない。だから彼は気付かなかった。手練れ達の顔つきが変わっていることに……。


 勝負は進む。手練れ達は息つく暇もなく流麗りゅうれいに牌を打つ。圧倒的なスピード感の中、新人はいっぱいいっぱいになって、


「何を切ればいいかわからない。」


 などと助けを求めるように漏らす。下家右隣の手練れが答える。


「河に筒子ピンズが多いし、適当にその辺ピンズのどれかを切っとけばいいよ。」


 優しい声で教えてくれる。親切に指導してくれるんだなと安心する―――。


 ところで、麻雀同好会には鉄の掟がある。それは『金は賭けない』だ。これはかつて存在した麻雀が賭け事をしていたために、廃部になったからだ。故に、麻雀同好会は別のものを賭ける。『強さ』だ。


 ―――新人は、言われた通りに筒子を切る。


 「それ、ロン直撃。」


 助けをくれたはずの下家右隣からの宣言。容赦なく点棒てんぼうむしり取る。新人は茫然ぼうぜんとする。


 彼の指導は麻雀を上達させるためのものではなかった。麻雀同好会ここがどんな場所かを教えるためのものだった。


 新人は勝負を開始して初めて、他の参加者たちの顔を見る。皆、捕食者の顔をしていた。彼らは新人カモを食いちぎる。そして自らの強さのかてにする。


 ◇


 実にあっけなく、新人がハコシタ持ち点マイナスになって勝負が終わる。これが彼らの新人教育だ。徹底的に、麻雀が真剣勝負であることを叩きこむ。勝負は雀卓の上だけで行われているのではない。言葉に惑わされるな、敵を信じるなと教えるのだ。


 恐怖に駆られた新人は逃げ出そうとする。だが、ドアは開かない。何故なら、この部屋の鍵はかけられているのだから。恐怖、後悔、怒り……様々な感情が彼の中に芽生える。歯を食いしばって俯く。


 手練れの一人が彼から怒りの匂いを感じ取り、言葉をかける。


 「負けたままで、恥ずかしくないのか?」


 安い挑発。だが、極限状態の彼に効果覿面てきめんだった。怒りが彼を突き動かす。だまし討ちのような真似で負かされたのだ。許せない。どうにかして鼻を明かしてやりたい。勝ちたい! 


 だから彼は戦うしかないのだ。強さを手に入れなければここでずっと狩の標的にされるだけだ。新人は覚悟を決める。


 手練れ達は獰猛どうもうな笑みを浮かべ、新たな会員を歓迎する。


 ―――翌日、部屋から出てきた彼は、戦士の顔になっていた。


 ◇


 会員たちは死闘を経て、成長していく。それは彼らの目的のために強さが必要だったからだ――。


 後編に続く

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