口下手が生む謎と、推理が生む愛

推理小説の守るべきルールとしてよく言及されるヴァン・ダインの二十則というのがありますが、その中に「不必要なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない」なんて項目があります。現代のミステリでは、この二十則(やノックスの十戒)は守られるべき教義としてではなく、むしろ積極的に破るべきものとして共有されていると思います。

本作は、タイトルに表現されている主人公(葉山くん)とヒロイン(塚瀬さん)の関係性を利用することで謎の提示に利用するという手法をとっていて、上述の二十則の項目をうまいしかたで破っているなと思いました。ラブコメとミステリをこうやって融合させる方法があったのか、と思って超感心してしまいました。

そういう御託的な話を抜いても恋愛ものとしてとても面白いです。過度に甘々展開みたいな感じではなく、2人の感情が丁寧に描かれていて、穏やかな気持ちで読める作品です。まだ物語の序盤なので、葉山くんと塚瀬さんの関係がぎこちない感じがしているのですが、この先2人がどう歩んでいくのか、楽しみです。