第3話 カエル? 蜘蛛? クマ?

 今ぼくは彼女の中にいる。

『変な意味じゃないよ、召喚獣だからね』

 いい加減自分の主人の名前くらい知りたい。

 ちなみに、彼女の中に居る間は外の声、音はそんなに聞こえない。

 そんなにというのは微かにかすかには聞こえるのだが何を言っているのかは分からない感じ。

 でも、この中すんごい快適なのよ、なんかねベッドに寝てる感じ。

『これは良いわ』

 召喚獣ってこんな感じなんだね。


『……うん? うひぁ〜! 目が、目が回る〜!』


 何の前触れもなく急に周りが変形しグルグル回転し始め、酔った様な感じになる。


『うぅ〜、気持ち悪い〜、なんだよ』


 閉じていた目を開け周りを見渡すと、一面の草原地帯だった!


『あれ? さっき森に居た様な……。それにもう一人の女の人は?』


「え? 何で? 仕方ない、お願い!!」


『あの人の声だ。それにしてもうん? 仕方ない? お願い? 何の話しだ? 周りを見ると、ぼくと彼女ともう一人……。いや、正確にはもう一匹だけどね……』


 ぼくの目の前には、カエルがいた。

 それはそれは可愛らしいカエルが………


《カエル?》

《何? カエルですって? どこですの?》

《え? どこって目の前ですよ?》

《目の前ってどこよ!?》

《いや、だから目の前ですって………》

《目の前?》

 ぼくは目の前のカエルに向かって指を指す。


〈〈???〉〉


 ぼくとカエルは同時に顔を横に倒した。

 目の前のカエルは自分に指を差し『私?』という表情でジェスチャーをしてきたので『うん』とジェスチャーで返した。


《……失礼ね、私はカエルじゃないわ! エルダーフラッグよ!!》


《いや、それカエルじゃん!! てか、話せるの?》 

《何言ってるのよ! 話せるに決まってるじゃない》

《決まってるんだ……。》


「何してるのよ!? 早く倒してよ!」


『え!? 倒すの? この可愛いカエルを!?』

 ぼくの目の前にいるのは確かにカエルだ。

 カエルなのだがめっちゃ可愛いカエルなのだ、流石にこの子を倒せって言われても……。

《ねぇ、あなたさっきから何をぶつぶつ言ってるの? それにそこにいる人間は何なの?》

《ああ〜、ぼくは召喚獣でこの人はぼくを召喚した召喚主何だ》

《召喚獣? あなたって強いの?》

《ぼくはクマだよ、だからまぁ強いほうだと思うけど……》

《……クマ??》

《うん? そう、ぼくはクマだよ!》

《あはははは、あなたがクマ!? そんな見た目でクマは無いでしょう》

『……え? どういう事? さっきこの女の人がぼくの事をクマって言ってたのに……』

《ちなみに君にはぼくが何に見えるの?》

《え? 君はね……。蜘蛛くもだね》


《蜘蛛!!》


『……蜘蛛ってどういう事? え? クマじゃなくて?』

「早くしてよぉ〜、私カエル嫌いなんだから! てか、何で出てきた召喚獣が蜘蛛なのよ、もう、ヤダ〜!」

『本当にぼく蜘蛛なの……』

《何だか分からないけど、私もう行くわよ……》

 そう言うとカエルは、草むらの中へ消えていった。

「あ〜あ、逃げられちゃったじゃない、使えない蜘蛛ね!」

 彼女のそんな声が聞こえた後、ぼくはあの快適空間にいた。

 まぁ、空間は快適でも頭の中は混乱と不安と寂しさでぐちゃぐちゃだった。


『はぁ〜、もう何がどうなってるんだよ』


 そんな時またあれがやってきた……。

 召喚の時だ『気持ち悪い……』

『気持ち悪いわ、蜘蛛だわ、彼女には嫌がられるわで、良い事ないじゃないか。何が最強の召喚獣だよ』


 次はどんな奴と相対するのかと考えながら目を開けると、そこは………


『ベッド……じゃないな……わらの上だ!』


 しかもあの女性に抱かれていた。


『なんで?』

「一緒に水浴びしに行こうか」

『水浴び!? 何で? てか、水浴びって……いきなりかい!!』

 まぁ、拒否する権利もなく連れて行かれた……というか抱っこされてだけど、着いた先には月に照らされた綺麗なため池があった。

 彼女は迷う事なく服を脱ぎそのため池の中に入って行った。


『綺麗だ! そしてエロい!!』


 しばらく水浴びをした後、彼女が戻ってきた。

 そしてぼくを抱き、ため池の方へ。


『え? ぼくも入るの? 確かぼく蜘蛛だよね?』


 しかし、ため池に映ったぼくは蜘蛛ではなかった。


『蜘蛛じゃない……』


 そう、水面みなもに映ったぼくはクモではなく、だったのだ。

 そしてその奥には………


「ねぇ〜、〝アグー〟あなたお話が出来るの?」

 彼女はぼくを抱きかかえたまま話してくる。

「無理だよねやっぱり、あの時あなたから声が聞こえた様な気がしたんだ……」

『どうしよう、話しても良いのだろうか…。とりあえずいきなり話すのもビックリすると思うからな』

 ぼくは彼女の頬に手を当て『うん』と頷こうとした。

 すると、彼女の頬から一筋の光が流れた。

 その光は次第に増えていき、大粒の涙へと変わったのだ。

 ぼくは彼女の頬に手をやり、さっき出来なかった『うん』と頷いた。

 それを見た彼女は再度大粒の涙を流し、ぼくをぎゅっと抱きしめていた。


「私の名前はアリス、こんな…こんなダメな私でごめんね」


 その日初めて、ぼくはご主人様の名前を知った。

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