ゴーワン・サイカ①『夜の目を追う』 バディ/爽快活劇 ~SW2.5リプレイノベル~

一塚 保

Scene0:下ごしらえは丁寧に。

 TRPG。

 この奇妙で珍妙で愉快な遊びは、人と人が繋がるだけで、最高の楽しみを産み出す遊びです。ルールブックに書かれた世界を皆で覗き、世界を想像し、どのような世界か意見を交わして構築していく。コミュニケーションの遊び。

 ただし、それは片手を差し出し合い、トランプタワーを組み上げるような。そんな繊細さが必要とされます。だからこそ、完成した際、他では得られない大変な喜びが待っている遊びです。


 当小説はリプレイ小説と呼ばれる小説です。TRPGを実際に遊んだ様子を整理し、文章化したもの。今回は私がゲームマスター(以下GM)として仕切り、TRPGを通して知り合った10年来の友人と遊んだ物語です。

 色々な遊び方、やり方があるので、初心者の方でもプレイの雰囲気が分かりやすいようなシナリオとプレイになった日をリプレイ化しております。準備もそこそこに、気軽に、自由に遊んだ様が伝われば幸いです。


 使用ルールブックはソードワールド2.5。剣と魔法の王道ファンタジーとして、ソードワールド初版より改訂され、シリーズとしては三十年以上親しまれた日本産のTRPGです。人族と呼ばれるいくつかの種族と、蛮族と呼ばれる有象無象が対立している世界で、参加者は人族の冒険者になって様々な経験をします。

 戦闘が花形となりますが、剣と魔法のファンタジー世界で、様々な想像を膨らませるのが楽しい世界でもあります。


***


――このセッションはオンライン上で行われた。時間となり、通話が始まる。


GM:今日はよろしくお願いします。

PL1(以後1号):はーい。

PL2(以後2号):よろしくお願いします!

GM:二人にはいまさらだけど、『TRPGは対話して物語を共有していくところ』が、楽しみの大きな部分だと私は考えています。思いついたネタは名案、妙案に限らず、どんどん共有していってもらいたいと思います。

1号:いつものだね。

GM:はい。そのいつも通り、飲み物・お手洗い。他、急な現実問題は優先していく形で、快適なプレイを心掛けていきましょう。

1号&2号:リアル大事!

GM:本日はキャラクターメイクに1時間、そのままオープニングをしてから休憩。休憩開けから本番で、二時間ほどを目安に進行状況を確認して、終わりの時間を逆算しましょう。

2号:時間調整すみません。ありがとうございます。


――TRPGは念入りなコミュニケーションが必要で、長くなりがちな遊びでもある。時間の区切りを先に共有しておくのも大事にしています。


GM:ではさっそく、キャラクターメイキングから行きましょうか。本日は、経験点5000点、6000ガメル、成長ダイス4回、剣の欠片15個を各人にお渡しております。平均的には冒険者レベル5相当のキャラクターになるかな。ここまで大丈夫ですか?

1号&2号:はい。早く作りましょう。

GM:それは良かった。では早速と言いたい所ですが、先に今日やりたいキャラクターの方向性とかあれば、共有して頂きたいのですが。

1号:やりたいキャラクター?

GM:そうです。『今日どんな感じのことがしたいか』ってことですね。

2号:どんな感じ……TRPGをしにきたのでは?

GM:はい。ただTRPGは幅が広いので、例えばゲーム的に「ダメージを出したい」とか、「この魔法を活躍させたい」とかあるじゃないですか。逆にゲームじゃない所で、「渋いおっさんキャラがやりたい」とか、或いはもっと抽象的に「冒険者の街で偉くなりたい」とか。あまり例を言うと、潰れちゃう時もあるのでこのくらいにするんですけど。こんな感じで、『今日こんなことやりたいな』ってことを、共有したいんですね。よろしいでしょうか。それを聞いて置けば、私の方も皆さんが楽しめる場面を用意しやすいので。

1号:そっか。ぶっちゃけ私、行き当たりばったりで決めようかなって。オールダイス任せが今日の目標!

GM:なるほど。それも良きかと思います。

1号:(ダイスを転がす)という事で、種族をダイスに任せたらナイトメアになりましたよ。生まれの親もダイスで決めなきゃ!

GM:あっはっは勢いがよろしい(笑)。じゃあすぐ完成しますね。ダイスにお任せしましょう。2号さんはどうします?

2号:せっかくなので新種族を使おうと決めていたのですが。1号さんの行く末を見守ってからの方がいいですかね(笑)。

GM&1号:いやいやいや。使いたいものを使いましょ。

1号:足りない部分はフェローが登場してくれるって聞いているから大丈夫ですよ。

GM:そうそう。

2号:そうですか? なら、メリアにしようと思っていました。

GM&1号:メリアー! 良いですね!

1号:あ。自分で選ぶ時、メリア入れてなかった!

GM&2号:あれー?!

GM:ちゃんと2.5のルルブを開いてくださいね。

2号:入れてあげてくださいよ!

1号:振り直さなきゃ(笑)。

GM:え、振り直すの?!(とツッコム間に転がる音)

1号:ナイトメアは無しで、人間になりました(笑)。

GM&2号:早い!そして結局人間!

GM:かしこまりました。人間とメリアのコンビになるのですね。ゲーム的な部分はここから詰めていく、と。

1号:そうですね。……あ、生まれが一般人だった!

2号:全部ダイス任せにしろというお告げですね!(笑)。……さて、私はメリアの……あ、フェンサーになります。

GM:なるほど2号さんは軽戦士は決まってたんですね。

 うん。お2人は作れる部分を作りながら、ポロっと決まったことを「あ、フェンサー」のように、呟いて頂ければお互いに拾えるかなと思います。もちろん、集中したい時は無心でルールブックを読んでくだされば結構ですからね。思い出した頃に呟いて下さい。沈黙の間は、不肖GMが喋りで繋がせて頂きます。

 最後に、今回コンビで遊んでいくことなので、レベル5相当まである程度一緒に仕事をしてきたと言う前提です。どういう経緯でコンビを組んでいたのかなど、ある程度キャラクターが完成したら、適当に捏造してくださればと思います。

1号&2号:はーい捏造します(笑)。

1号:あ。これキャラクターメイクのステータスって振り直していいんですか?

GM:それは公式に書いてある通りにします。3回ダイスセットを作って選んで良いって書いてありますよ。2.5は本当に細かい所まで記述してありますよね。

 では、キャラクター制作して頂きながら、今回の舞台についておさらいしておきます。


――そう言いながら、時空を超えて、読者様へと語り掛ける。

 今回の舞台はアルフレイム大陸と呼ばれる大陸。ソードワールド2.0にあったテラスティア大陸から別の大陸だ。現実で言えば北アメリカ大陸ほどの大きさとのこと。ただそれでは広すぎるので、西側と言われるブルライト地方に限り、今回はその中央に位置する『グランゼール』と言う国を舞台に選んだ。残念ながら、当セッションではこの街から出ることは無い。

 グランゼールは『迷宮王国グランゼール』と言う二つ名を冠しており、魔剣の迷宮が複数個絡み合う特殊なダンジョンの上に存在する国だった。王政を敷いているが、魔剣を持ち帰った者がその資格を有していると言う、まさしく『ソードワールド』の名にふさわしい王国だった。

 そんな風に無言で進める二人に案内をしつつ、時間はあっという間に過ぎていく。ダイスに任せたり、行き当たりばったりにルールブックを開きながら、「この職業面白いな」「この武器面白いな」「この特技面白いな」と相談していく。このやり取りで、メンバーの雰囲気が推し量れる。終始和やかなムードの中、1号が唸り声をあげた。


1号:とりあえず冒険に出た理由を振ろう。――え。『最高の冒険者になる為』?!

2号:私なんて「成り行き」です。

1号:器用が高めで、ファイターにしようかと思っていたけど、あんまり力が無いな。器用貧乏すぎる。フェンサーも良いんだけど……。

2号:2人してフェンサーも良いですね。でも、それだと出来ることが少なくなってしまいますね。

1号:足りない所はフェロー出してくれるって聞いてるから、大丈夫だとは思うけど。

GM:人数が少ないと、パーティの役割を考えるのも悩んでしまいますよね。遊び慣れているからこそ、選択肢が多くて悩んでしまうのかも。……経験点足りないようでしたら、少し足すのもやぶさかではないですよ。

1号&2号:いえいえいえ!

2号:妖精魔法がわりとなんでも出来るので、それで補います――あれ、ウィンドカッターの消費MPが1増えてるのか。宝石も揃えないと……。

GM:経験点ではなく、ガメル足しますか?!

2号:いえいえいえいえ!(笑)。


――各自のキャラクターの来歴は完成したのか、ページをめくる音が変わる。装備を考えるページに動いたのだなと思い、グランゼールの街案内を始めた。


GM:画面お渡ししたように、迷宮王国グランゼールの地図がございます。用途ごとに街が区画で分けられており、各区画に施設が集まっています。迷宮の入り口、および冒険者ギルドや王城のある『中央迷宮街区』。そして手前が『冒険道具街区』として神殿や鍛冶屋のある区画ですね。さらに外側が『入門街区』とされ、色んな人の住む場所です。ここに日用品売り場などがあるはずですね。東西に大通りが走り、迷宮を中心にしているのが特徴ですね。

 大通りを折れ、北に行くと『成功者街区』カジノがあったりして華やかな土地です。反対側に南に行くと歓楽街なんて書いてあるでしょうが、一気に粗暴で荒々しい方たちのいらっしゃる下町が広がっております。

2号:粗暴な方がいらっしゃる(笑)。

GM:はい(笑)。と言うのもですね、先ほど言った通り迷宮の上に立っている街と言うことで、踏破された迷宮をそのまま使ったりした街なので、かなり入り組んだ町です。だからこそ楽しく、活発に迷宮に潜るルートがあったりして、冒険者たちが武器防具など活発に売買して商業も賑わっている。そんな街になっているんですね。

 お二人が装備を揃えているのも、まさしくそういう街なのです。装備を改めて整えていると言うことで、鍛冶屋、武器屋、防具屋、道具や、闇市――。

1号&2号:闇市!

 ――と、2人が闇市に興味をもってくれたので、GMが寸劇を挟む。


商人(GM):この青い鳥のペンダントを手にすれば、君たちには幸運が訪れることだろう! たった2万ガメルでいいよ!(笑)。

1号:怪しい奴だー!!

商人:たった2万ガメルだよ!(笑)。おやおや、これを手に入れられないとは、先見の明が無いお嬢さん方だ。

1号:怪しい奴だぞ! 殴っていいか!?

2号:おまわりさんこっちですー!

衛士(GM):なんだなんだ?

商人:お、お、おいやめろ。こっちはちゃんと商売の権利をもらってやってんだ。

2号:これは全員連行されますね。街中で騒動起こしたなってこってり絞られて、夕方過ぎてようやく解放される未来が見えるようです(笑)。

GM:おお、まさしくここの衛士隊『ことなかれ主義』なんですよ。だから厳重注意しに来るとは思うんですけど、問題解決はしないんですよね。皆捕まえて、皆処罰して、細かいことはやらない。

1号:なあなあで終わらせる悪い警察だ!

GM:そうそう、面倒くさくなったら死刑みたいな。

1号:ひどい!

2号:こわ、近寄らんとこ。

1号:そうしましょ。


***


 このように、長年一緒に遊んできた関係のお蔭で、様々な想像を気軽に共有していきます。この『対話して物語を共有していくところ』が面白さの核だと信じ、雑談が弾むように心がけてゲームマスターをして参ります。

 1号がダイスの日を思い出してグラップラーになったり、2号と精霊魔法についてサモンフェアリーの協議、すり合わせをしている間に、気付けば一時間が経とうかと言う時間になっておりました。


GM:さて、素敵な二人が完成したのかな。

1号:今日も脳筋完成だ! グラップラーで名前はトリッシュ。ぼんやり女の子です。殴ることしかできませんよー。

2号:はい。こちらも両手に魔晶石を抱えて誕生! 名前はプリムラ。メリアの男性です。トリッシュに一目ぼれして付いていきます。

GM:かしこまりました。それでは、馴れ初めを捏造して頂きましょうか――。

1号&2号:はーい!




『前日譚:豪腕・開花』へ続く。

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