第三十四話 「第二の巨悪」


 

「……ったく、遅えんだよ。一人でも逃げたらどうしてくれんだ?」


「……でも間に合ったでしょ? それで良いじゃない。あなたを見て動く人なんてここには居なかったみたいだしね?」


 ……誰かの話す声が聞こえる。


 俺は意識が覚醒した。

 どうやら寝転んでいる状態らしい。


 体を起こし、周りを見渡す。


 ソーマやアルフレッド達が横たわって寝ている。

 俺のホロウ・ナイトメアの力に似た状態で意識を失っているようだった。


「……これは、一体どういうーー」


「え? あら!?」


「……おい、これはどうなってやがる?」


 俺の独り言に反応し、二人がリアクションを見せてくれる。


 あ、やっべ!


 コイツらって襲撃者……だよな?

 あまりの事態に目の前にいるのに気づいてやれなかった。


 ……本当に襲撃者だよな?


 なんか、思ってた印象と違うな。


 一人は、オカマさんだ。

 顔と似合わない口調と格好をしている。

 

 もう一人は、黒髪の優しい雰囲気を纏う青年。

 こちらも顔立ちと口調が一致していない。


 って、やっと思い出した。

 この青年は、俺が入学式の時に迷子になった所を助けてくれた人だ。


 そんな人が何で?


「おい、コイツじゃねえのか? が言ってた奴はよぉ?」


「…ほんとだわ! この子よは!」


「は?再臨……なんだって?」


 こいつは今なんて言った?


 再臨者?

 も、もしかして、俺が転生者なのバレた!?


「ようやく見つけたわ、別世界から特殊な力を持って転移、再臨する者。私の魔法を簡単にレジストしたんだからそうに違いないわよね!」


 ……あれ?


 俺、転移者じゃなくて転生者ですよ?


「鑑定してみるわね! なんかすごそうな鍛治師の練度、三つ並ぶ本来ありえない数のユニークスキル! ……ってあら? ちょっとそうでもない、のかしら?」


 おい。

 褒めるならちゃんと褒めろよ。

 途中で何勘違いでした〜みたいに詰まって……、


「……やっぱり訂正していいかしら、この子人違いだったわ。もっと戦闘スキルが多い筈だもの」


 ……おい。


 なかなか心にくる事言ってくれるじゃねえか。


「じゃあ何で起きてんだよ?」


「さあ……? 多分この『真・モード』っていうのが関係してるのかもだけど、興味無いわね。臆病者の為の補助スキルなんて」


 あの、勝手に話進めないで貰えますかね?

 

「一応持ち帰ってみる? この子以外に対抗できた子なんていないし、このままじゃ襲撃損よ?」


「まあ、そうだな。悪いなガキ……?……お前、この前の迷子野郎か?」


 おっと。


 流石に覚えていたらしい。

 どうしよう、なんか攫うとかなんとか言ってる気がするんだが…?



「ーー逃がす訳ねえだろ、クソ野郎ども」


「…ああ?」


 突如、舞台の端で極光が生まれた。


 その光は二人を呑み込まんと接近してくる。


「まだ元気な奴がいやがるとは、『つるぎ』」


 また、風で剣を作った。


 そしてその剣で極光を防ぎ、薙ぎ払う。

 すると軽く捻るように消え去ってしまった。


「トウギ……!」


 光の放ち手はトウギだ。

 何故か俺と同じように起きている。


 あ、状態異常無効が何ちゃらって言ってたっけ。

 

「おい、ベイカー。こっちに来い」


「え? あ、ああ!」


 そうだ、いつまでも敵の前にいてはいけない。


 俺は慌てて起き上がり、トウギの前まで走っていく。


「おいおい、面倒事は嫌いなタチなんだよ。大人しく死ぬかついてくるか決めろエバン・ベイカー」


「ラウド、連れて行くのは確定事項でしょ。そうしないと私達がここに来た意味が無くなるわ」


 風男はラウドと言う名前らしい。

 それ以外の情報がわからないな。


「……なあ、聞いていいか?」


「ああ?」


「何が目的でここに乱入してきたんだ?」


 これは俺の純粋かつ単純な質問だ。

 どうして、こんな事してまで侵入を?


「まあ、教えてあげましょうか。これじゃあまりに一方的すぎるものねぇ?」


「そりゃ助かるな、えーっと…」


「ふふ、私はカクアよ。坊や…」


 ヤバい、鳥肌立ちそう。

 なんとか我慢しようと試みる。


「私達はね、『再臨者』を探しているのよ。オリジン様が食事として捕まえてこいって」


 はい? オリジン様?

 だから知らない奴を勝手に出してくんな!


「強靭な精神と強力なユニークスキルを持ってるそうなんだけど、探す手間がかかるのよね〜」


「オリジンの奴はこう言った。『四つの学園、そのいずれかに再臨者が必ずいる』、ってな。面倒だから適当にここを襲いにきてやった」


「そう、ただそれだけの話なのよ。単純でしょ?それに該当したのがエバン、あなたってわけ」


 な、なんて暴挙だ。


 何か目的があるんだと思ったのに、何?

 食事ってなんだよ。


「そこの不良の坊やは例外として、あなたは精神系耐性を持っていないにも関わらず弾いて見せた。これは本当に驚くべきことよ。だから……」


「おい、もう話は十分だ。今すぐテメェを殺さないとどうにかなっちまいそうだぜ。ーー世界共大悪」


 トウギがいつにもなく殺気を撒き散らしている。


 これは、戦闘が始まるな。

 他にも聞きたい事は沢山あるけど、これ以上は何も答えてくれなさそーー。



 トウギは今こいつらを何て言った?


 世界、共大悪……………???



「奇遇だな、こちとら一ヶ月は誰も殺してねぇんだ。さっさと殺し合うとしようぜ?」


「ちょっと、今日はやらないって……もう仕方ないわね全く」


 カクアは木の杖を取り出し、ラウドは周囲に風を吹かせ始める。


「な、なあトウギ? 世界共大悪って冗談だよな?」


「流石に俺でもこの状況で冗談は言えねえな。テメェもさっさと武器を構えろよノロマが」


「……ちなみにだけど、どっちが強い?」


「そんなの明確だろうが、『二の悪・ラウド』に決まってんだろ。…俺はあの決闘で負けたようなもんだ。ひとまずはお前と共闘してやるよ」



 冗談キツイぞおい。


 アイツが、世界共大悪?

 全人類が敵としている内の、一人?



「エバンの方は半殺しで勘弁してやるが……もう片方はもう殺しちまっても構わねえな?」

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