物理学者転生

ザード@

第1話 科学〜その形式〜

 言ってることがよく分からないという言う顔をしているハントに向けて、ディアは再度説明を試みる。

「じゃあこの王宮の美しい庭園の噴水の水は一度上空に向かった後、地面に向けて落ちてくる。それは一体何故だと言うことだよ」

 ハントは額の汗を手で拭い、それから一歩噴水に向かい、跪いて両手で水を掬った。

「言っている意味は分かってきましたがそれは当たり前のことではないですか。ウリユ派の哲学者がそんな議論をしていた記憶はあります」

 ディアはハントの右側に立つと噴水の水に手をかざした。すると、一度落ちて来た水は再度天に向かって飛び出し、そしてそのまま消失した。

「おかしな事が起きているとは思わないか?」

「何処がですか? ディアさんが魔法を使ったというだけですよね」

「何故一度落ちてきた水が自然に逆らい再度上へ向かう? しかもその水はどこかに消えてしまった。水は一体どこへ行った?」

 ハントはやれやれと言いたげな表情を浮かべ、それから答えた。

「噴水だって水に自然に逆らう意志を与えているでしょう。それにほら」

 ハントは魔法で氷の槍を生み出してディアの方を向くと突き刺そうとした。しかしその槍は直前で光となって消え去った。

「ディアさんはまだこの世界に慣れていないんじゃあないですか。前の世界の記憶があっては混乱して当然だと思いますが。以前もこんぴゅーたが欲しいとか理解できない言葉を言いながら街に出て行きましたよね」

 ディアはそうだな、と言うと噴水の水を掬い飲んだ。庭園に風が吹き込み、木漏れ日を揺らした。


「で、頼んであることはやってくれているか? ハント」

 王宮の小会議室を借りてディアとハントはまだ話を続けていた。

「あの数字が描かれたカードゲームですか? ルールが幾つかあって面白いと評判で思ったよりも早く世間に広がっているようですよ」

「ならよかった」

 ハントは顔を上げディアの方を見た。

「しかし、あんなものを庶民に広げて何の意味があるんです? おまけに学校の入学資格を撤廃せよとか働きかけてきたりディアさんの言うことは時々全く分からない」

 突然、誰かが駆け込んできた。

「ハント様! ヒース様がお呼びです。すぐお戻りを」

「父上が? 分かった。屋敷にすぐに戻る」

 ハントが出て行った後、ディアは天井を見上げてから、やっと一人で小会議室を出た。

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