第5話 おっさん、JKになる

 JKが自殺ではないと主張する。

 

 だが俺はそれを鵜呑みにしない。 

 俗社会で積み重ねた経験がそうさせる。

 ひと言で言えば『ひねくれた』んだろうかな。

 

 でも。JKの眼差しに嘘は無いように見える。


 澄んだ真っ直ぐな瞳だ。

 確かに、こんな目の人間が自殺をするようには思えない。


「それなら、どうして……」


 そう話しかけた時。


 突然のことだった。


 光。

 爆光。閃光。音も無く、俺達は未知の輝きに包まれた。



「きゃあっ!?」


「うわっ?」



 なんの前触れもなく二人を、この場合は霊体だから二幽体を、世界が真っ白になるほどのまばゆい光が包み込んだ。


 光に溶けてしまいそうになりながら、光の中をゆらりと漂う。



 これが天に召される、もしくは成仏するってヤツなのかな……?


 やがて白光は母の腕の中に戻ったような、安らぎに満ちた柔らかく温かな色に変化した。


 俺はおとなしくその光に身を委ねる。


 微睡みと春眠を足したような心地よさだ。

 

 次に目を開けた時には。


 違う人生になっていたりするんだろうか?


 それとも、同じような人生を繰り返したりするんだろうか……?



          ◆◇◆



 ピーピッ、ピーピッ、ピーピッ、ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、ピリリリリー♪


 ウルサイなあ……

 俺は目覚まし時計の音で目が覚めた。

 ……目覚まし時計なんて持ってたっけ?


 ん……?


 身体が軽い?

 なんだこの違和感は。


 むくりと身体を起こしてみる。

 

 ん? 生身の身体だな……ずいぶんと軽い身体だ。

 

 視線を下げると。


 視界に入るのは長い黒髪と黒のセーラー服。

 そして、胸の膨らみ。

 めくれたスカートから覗くフトモモは白くて細い。


 ……良い。


 イヤ、それどころではあるがそれどころではない!


「なっ……? なにコレ!?」


 声が違う!?

 女の声だ。

 ナゼだっ? どういうコトだ? 


「おはようございますっ、トモミさん。大きな声なんか出しちゃって、どうしたんですか?」


 軽くパニクる俺に声をかけてきたのは二十歳くらいの女性。

 小顔で小柄。

 上下グレーのスウェットにポニーテール。


 え。どちら様ですか?


 俺を『トモミさん』と呼んだよな……

 どうやら俺は『トモミ』らしい。


 トモミ……?

 珍しくもなんともない名前だが、何か引っ掛かる。


「寝落ちしちゃったんですねー。ダイジョブですか?

 締め切り、間に合わなくなっちゃいますよー?

 とりあえず起きて朝ごはん食べましょうか♪」

 

 明るい声の娘だな……こんな娘を彼女に欲しかった。

 ……おっぱいでかそうだし。

 イヤ、それどころではあるがそれどころではない。


 締め切り? なんの事だ?


 とにかく起きるか……

 

 ベッドから降りると大きな姿見鏡が目に入った。


 そこに映っている姿を見て俺は思わず二度見した。

 

 この娘はっ!


 俺にブチ当たって死んだJKじゃないか!


 トモミって!


 ふにぷにおもち!?


 愕然とは、まさしくこの事だ。

 


「あ、そうそう、手紙届いてますよトモミさん。ファンレターですかね?」


 手紙? ファンレター?

 そうか……トモミは『ふにぷにおもち』という名前のイラストレーターだったな。

 人気絵師ならファンレターが届くのも不思議ではないのか……


 俺は手紙を受け取り、それを見て奇妙な違和感を覚えた。


 まず、差出人の名前が無い。


 さらに、つるつるの紙がこの世のモノでは無いような感じがする。


 さて、手紙の内容は……?

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