ちょっとそこのキミ。web神絵師のJKと身体が入れ替わる冴えないおっさんの話でも読んでみないか?

雪の谷

第1話 空から女の子が

 金曜の夜。

 仕事帰りの駅の改札口はいつもと何ら変わり無い。


 疲れた顔した奴らが無言で歩いていく様は、さながらゾンビの群れみたいだ。


 なあ。お前達、社畜だろ?

 社畜ゾンビだろ?


 イケメンだけど安物スーツのお前も、ブサメンなのに高級ブランドスーツのお前も。


 そこのメガネのOLさんも。

 タイトスカートのスレンダーなお姉さんも。


 俺にはわかる。一目でわかる。


 目が死んでるからな。


 かく言う俺もそうなんだが。


 駅を出て空を見上げる。

 外灯とビルの窓明かりで星なんて見えやしない。



 人はいつか死ぬ。


 誰だって、必ず死ぬ。


 生きた証しを残したい、というワケでもないだろうが、皆、必死に生きている。


 訂正する。

 せっかくの脳なのに、思考停止してただ漫然とダラダラ生きてるヤツだっている。


 意識しようがいまいが、多くは何かにすがって生きている。



 知を追い求める者。

 美を追い求める者。


 食を追い求める者。

 地位や名誉を追い求める者。


 己の探求心を追い求める者。


 金を追い求める者。


 若くして成功する者。

 雑魚のまま老い朽ちていく者。


 自ら命を絶つ者。


 多種多様な生き様が、この世には有り余るほどにあふれている。


 俺もその内の一人だ。


 俺は本が好きだ。

 だが嫌いだ。


 自分の文章の稚拙さを思い知らされるから。

 自分の語彙の乏しさに打ちのめされるから。


 俺は小説を書くのが好きだ。


 物語が面白ければそれでいいんだろ。

 そう思ってweb小説のコンテストに応募した。


 結果が出た。

 また落選だ。一次すら通過出来ない。


 これで何回目だ?


 いったい何が悪いんだ?

 俺の作品はそんなに面白くないってのか?

 読み手に何も伝わってないのか?

 そもそも選考者に読まれているのか?


 いつ映像化されてもおかしくない史上最高傑作と思ってるのは俺だけか……


「はあ……」


 そりゃあ、ため息も出るってものだ。


 ついたため息の数だけ幸せが逃げていくらしいが、そもそも逃げる『幸せ』ってのが何なのかわからない。

 幸せってなんだ?


 大金持ちになるコトか?


 美味い食い物にめぐりあうコトか?


 美しい女と燃え上がるような恋愛の末に結婚して家庭を持つコトか?


 子供が安定するまでの間、週末に愛人とイチャイチャするコトか?


 俺にとってはどれも違う。


 俺にとっての『幸せ』とは。



 俺の創作物が認められる事。

 承認欲求ってヤツだ。



 それだけが俺の『生きる糧』と言ってもいい。


 何度も落選しているのに創作を続けるのは『それ』を追い求めるモチベーションがまだあるからだ。


 金欲、食欲、性欲。

 それらを抑制して創作に励んだ。

 だがまた落選した。


 その度に絶望の縁に立たされる。


 ん? 何処だ、ここは。

 ぼんやりしながら歩いてたら、いつもとは違う路地に入ってしまったみたいだ。


「はあ。空からカワイイ女の子でも落ちてこないかな……」


 そんな事があってたまるか。


 なんて思いながらふと夜空を見上げると。

 来た。

 落ちて来たよ女の子。


 人通りの少ない裏路地。

 マンションの上層から落ちてきて俺に直撃しやがった。


 ごずっ!という鈍い音とあり得ないくらいの衝撃。

 痛みは無かった。


 あまりにも衝撃が強いとその瞬間の痛みは感じないと言うが、まさか身をもって体験する事になるとはな。


 どうやら自殺のとばっちりだ。

 なんで俺まで死ななきゃいけない?

 死ぬなら勝手に独りで死んでくれ。


 俺にはまだやらなきゃいけない事が――あったかな?


 死人に口無し。


 ちょっと意味合いが違うか。


『この後、映画のような胸踊る展開が!』


 なんてのは、どうやら俺には無縁らしいな。

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