5-8


 ここから特筆すべきことがあるだろうか。


(ええええぇ  ぇぇえぇえぇええぇえぇぇえぇ)


 一人の少女は一から百五十までの死を組み合わせに応じて背負い込み、千年の旅路へ誘われるだけだ。


(やめてぇえ あぁああぁ やめてええ あぁああ 


 その値はランダムに決められ、一人の時もあれば、その次が百三十五人の時もあった。


(あぁあぁああ I’ve working on the railroad

 All the livelong day ぇぇぇえぃ)


 しかし、どんな場合であれ、結末が変わることはない。


(死は最も遠くにあるべき言葉なのに、最も近くにある言葉だ)


 そこに真新しい事実も、奇跡も起きはしない。


(アアアあ I've been working on the railroad

Just to pass the time away ええええぇえい)


 一滴の酌量も恩赦もありはしない。


(だって死にたいって言ったら「生きろ」って言われるのに)


 ただ、少女の叫びとともに人類が滅亡するだけである。


(いぃい いざ頑張って生きても、何も言ってくれないじゃん ん)


 は正確に、残酷に時を刻んでいく。


(ひぃ 一人の命が世界の定めすら変えてしまう うううううう)


 ああ、ただ一度だけ例外があっただろうか。


(死にたい人に生きろってのは、生きたい人に死ねっと言ってるのと同じくらい残酷)


 それは44553282回目の時だった。


(あなたはその先にある無限大の可能性を根こそぎ奪ったのよ)


 百四十二人の死を背負った少女は何もしなくなった。


(「死ね」とか「死にたい」という言葉が流行ってしまった世界)


 そこで、なんとしてもまつりごとを行わせるために人々は彼女の体を解体し、増殖させた。


(どどぉぉぉ Don't you hear the despair blowing  Rise up so early in the morn おおおんん)


 生殖器を複数増殖させて子孫をいくらでも産めるようにし、脳髄に電極を刺して強制的に執政させた。


(——なんで涙が溢れると心にヒビができたように感じるの?)


 その絶望と悲嘆はたとえ百万の文字を使おうとも完璧に言い表すことはできないだろう。


(自分が一番「生」を感じるのが、誰かが死んだ時なんだよね)


 しかし、はその痛みも苦しみも全て正面から受け取った。


(キキキぃぃぃ Kyrie eleison ぅんぅんんぅんぅんんん)


 それがのするべき行為だと感じていたから。


(しぃしし 死にたいんじゃなくて 生きたくないんだよ ぉお)


 彼女は絶望と滅亡の奔流にもまれる少女を見つめながら、ただひたすらに祈った。


(死って本来重い言葉のはずなのに最も軽く使われている言葉だ)


 がんばれ、宇宙誕生から現在までの十倍の年月を経過しようともあなたがあなたでいることを忘れないで。


(世界で比べたら幸せだと分かっている 分かっているけど——)


 がんばれ、たとえどんな悲劇が待っていようとも、生きることをやめないで。


(ええ et dimitte nobis debita nostra ああぁぁぁあ)


 これはあなたが己の欲望を満たした末にたどり着く結末。


(この日常から逃げ出したい時がある 幸せなはずなのに死にたくなる時がある)


 この歌はあなたが自身を見失わないために紡がれる曲。


(どどぉどぉ Don't you hear the fear footsteps Kumiko, blow your horn おぉん)


 それを私たちは痛みとして聞き続けるわ。


(——ごめんなさい)


 何年も、何億年も。


(ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい          


 だから……、




                

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