第34話 心通わせて4

 図書室の机の上に立ったヴァルきちは、ゆっくりとラディすけに振り向く。

「おいおい、何だってこんなところで。それにオレのこと睨み過ぎじゃねえか?」

 つい目つきが鋭くなってしまう。しかしここからは死地だ。もし、コイツに拒絶されたら……そう思うと恐ろしい。何もなくこのまま通り過ぎた方が、関係を維持できるのでは? なんて思ってしまう。思わず握っている剣に込める力が強くなる。

「どうした? 熱でもあるのか?」

 ラディすけはヴァルきちの額に手を当てる。オーバーヒートしそうになる体と心を、なんとか正気に保つ。

「大丈夫だ。熱はない」

 ヴァルきちは、「言いたいことがある」と、半分上擦った声でラディすけに話しかける。

「なんだよ? マフラーを返せ以外なら何でも聞いてやるよ」

「本当だな?」

「なんだよ」

「その言葉に二言はないな?」

「ああ、オレも男だからな」

「ならば私と付き合え」

「どこに行くんだ?」

「そうではない」

 ヴァルきちは一瞬黙る。そして……。

「私とつがいになれ。そう、言っているんだ……」

 気持ちを吐露した。

 言ってヴァルきちは、俯いてしまった。ラディすけの表情も見れない。怖い。反応が怖い。

 一方でラディすけは固まっている。

「ダメ……だよな」

「いや、なんというか、その……オレたちバトルアーツなんだぞ?」

「かまわん」

「モリトや、ミサのこともあるし」

「私は一向にかまわん。それとも何か? お前はミサのことがスキだったのか?」

 違う違うと、ラディすけは首と手を横に振って否定する。

「あのー、なんだ。勇気を出して言ってくれてありがとう」

 この流れだと断られるのかな?ヴァルきちは握る手に力が入る。

「でもさ、なんでオレなんだ?」

「分からない。いつの間にか、会っている内にスキになっていた。この気持ち、まさしく愛だ! としか言えないんだ」

 語尾は尻つぼみだった。でも伝えたいことは伝えた。

 目の前で盛大にため息をつかれる。

「いいのか? オレなんかで。お前きっと苦労するぞ?」

 ヴァルきちは「覚悟の上だ」と、ひまわりのような笑顔を浮かべる。それを見たラディすけは少しドキドキした。そして決意の元剣を抜く。剣の刃の切先を持って天に掲げた。

「何があっても一生お前を守る。この剣と名誉にかけて」

 それはラディすけの故郷、ザーム王国での宣誓の仕方だった。

「流せるならここで涙でもながすのだがな」

 ヴァルきちは笑顔でラディすけに向かい合う。ラディすけはこんな時これ以上どんなことを言えばいいのか分からない。

「まあ、なんだ。コレからも仲良くやっていこうゼ」

 剣をおさめながら、ヴァルきちに笑顔を見せる。

「ああ」

 そして二人は各々の教室へと帰ろうとした。だが、ラディすけはヴァルきちを止めた。

「差し当たって、最初の共同作業だ」

「な、なんだ? って、ああ。そういうことか」

 二人は同時に剣を抜く。

「逢瀬はもう終わりかいラディ」

「出てこい趣味悪いぞ。デバガメめ」

 ヴァルきちに煽られて現れたのはやはり竜騎士だった。そしてもう一人。

「ハウンドβ?」

 ラディすけも驚いた。それは鎌瀬のバトルアーツだった。しかし、なにか様子がおかしい。

「コイツにはアレを植えさせてもらった。そろそろ開花するんじゃないかな?」

「何を言って……まさかお前!」

 竜騎士はそのままその場を去った。

「ヴァルきち、いいか?」

「なんだ? 言ってみろ」

「二人でハウンドβを止めるぞ」

「もちろんだ」

 ヴァルきちとラディすけは息の荒いハウンドβに向け同時に駆ける!

 ヴァルきちの連続剣がヘビーマシンガンを放つハウンドβを斬り刻み、ラディすけ渾身の一撃がハウンドβに叩きつけられる。

 二人の波状攻撃を食らい、ハウンドβも大きなダメージを受ける。

「行くぞヴァルきち!」

「ああ」

「「必殺!」」

「ヴァリアントブレイク!」

「ニーベルンザンバー!」

 ハウンドβは体力値をゼロにし、その場に倒れた。

 愛の勝利だった。



 エピローグ



「まだ幼生だったから枯れてしまったか」

 竜騎士はため息をつく。

 ハウンドβは何もできずに終わった。相手が強過ぎたか、それとも元々が弱いのか。どちらにしろ竜騎士は次の一手を打つことにした。

「でも……あちらはそろそろ熟した頃かな」

 竜騎士の視線の先にいたのは赤い剣士だった。

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