第19話 魔王の世界1

 その日、世界は一変した。

 サイバーダイン社からの緊急アップデートを信じた人々は、バトルアーツのアップデートを行った。

 ある者はバトルアーツが急に言うことを聞かなくなったことに動揺し、ある者は友であったバトルアーツに攻撃を食らっていた。

 それは世界中で起こっていた。

 守人の住む町でもそんな事象は起こっていて、ミサや鎌瀬も同様に事件に巻き込まれていたのであった。



      その1



 公園には子どもの姿がなかった。無理もない。バトルアーツが暴れているのに、バトルアーツで遊べるわけがないのだから。

 なので守人たちの相手をできる者は当然ながら居なかった。

「誰も来ないな」

「みんなこのラディすけ様の復活にビビってんじゃねえのか?」

 守人はそんなバトルアーツのやりとりを見守っていた。

「それにしても本当に誰も来ないね」

 待つこと十分やはり誰も来なかった。最初に痺れを切らせたのは守人だった。立ち上がった守人をヒロ太は見上げる。

「そろそろ帰るのか?」

「そうだね」

 不服そうなラディすけと、それを見て見ぬふりしているヒロ太を肩に乗せ、守人は公園を出た。

 サイレンの音が辺りに響く。また救急車が通るらしい。

「また救急車だ。今日何台目だよ?」

 音の方を見るラディすけだったが、ヒロ太はそれに肩をすくめて答える。

「いちいち数えてられないな。多すぎだ」

「何か事故かな?」

「違うよ天野くん」

 声の方を見ると、そこにはミサがいた。

「坂下さん!」

「おい! ミサ、大丈夫か? どうしたそのケガは?」

 三人はミサの姿に驚いた。身体中にすり傷、切り傷、打撲、アザといった具合の傷だらけなのだ。笑ってはいるが、本当は話すのも億劫という様子だった。

「ああ、天野くんはアップデートしなかったんだ。正解だね」

「アップデート?」

 ミサはスマホの画面を見せる。そこには、ニュース記事が出ていた。

「何? 『アップデートしないでください』だって?」

 記事の内容を見ると、「サイバーダイン社からのアップデートを実行するな。するとバトルアーツが異常をきたす」その旨が書かれていた。

「コレ、本当なの?」

 ミサの様子からすると、聞くまでもなかった。

「ヴァルきちをアップデートしたら大暴れでね。なんとか止められたけど、治るかどうか……わたしもこれから病院だよ……」

「坂下さん……」

 その様子を見てヒロ太は確信した。

「魔王の仕業じゃないのか?」

「ああ、遂に動きやがったな」

 二人は頷き合う。

「守人、俺たちはサイバーダイン社へ向かう」

 と、ヒロ太は肩から降りる。続いてラディすけも守人の肩から降りる。

「行くぞ! ヒロ太」

「こっちのセリフだ。ラディすけ」

 二人は歩き出していた。守人はどうしたらいいのかわからなかった。

「天野くんも行くといいよ。ここからサイバーダイン社はちょっとあるし」

「坂下さん」

「やることがあるなら行動しないと。天野くんも選んだ道でしょ?」

 守人は後ろを振り返らず、ラディすけとヒロ太を拾い上げ、サイバーダイン社へと向かった。

 守人の心には勇気があふれていた。勇者と共に行動し、ミサにも後押しされたのだから。

 三人はサイバーダイン社へと向かった。そこではどんな罠が仕掛けてあるかわからない。しかし彼ら三人は勇気を胸に立ち上がり、いざ魔王へと挑むのだった。

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