第9話 服を買おう
食堂を出て階段を上ると、本店の入り口に出た。
入り口では多数の職員が出入りをしており、その中の何名かが入り口の側に店舗を構えている服屋に入っていた。
「ここにあったのね! 最初に入った時は気が付かなかったわ」
「人が多いし、最初に入った時は見る余裕なかったのかもね」
「確かにそうかも。入った時は周りを見る余裕がなかったわ。でも、今は結構落ち着いたのよ? 本店の中や働いている人を見る余裕があるわ!」
胸を強調させながら凄いでしょと言っている美桜。
出雲はそれだけで凄いとは言えないけどと思うも、今はおだてておくかと考えることにしていた。
「慣れたんだね! 凄いよ!」
「でしょう? もっと褒めてもいいのよ?」
目を瞑って早くと言っている美桜の頭部を軽く叩く。
「痛いわ! 何をするのよ!」
「調子に乗っていないで早く店に行くよ」
「もっと褒めてもいいじゃないのー!」
頬を膨らませている美桜の右手を掴んで、はぐれないように2人で足並みを揃えて服屋に向かう。
目指している服屋には迷うことなく到着するとそこには多数の配達士が詰めかけており、着ている服は所々破けているようである。
「本当に破けたまま帰ってくるのね……それほどに戦闘は激しいの?」
「激しいといえば激しいね。魔物との戦闘や、騎士の攻撃に巻き込まれることもあるから、服には結構お金がかかるんだよね」
「お金か……あ、そう言えばさっき昼食の時にはお金を払ってなかったけど?」
「ああ、そのことか。昼食は無料なんだよ。配達士やそれに関係する人はお金を払わなくていいの」
払うことはない。
そう聞いた美桜は食べ放題じゃないのと声を上げたので、美桜をなだめつつ早く店に入ろうと背中を押した。
「きゅ、急に押さないでよ! あ、ごめんなさい!」
美桜は押された際に目の前にいた女性と衝突してしまい、頭を下げて謝っている。
「私こそごめんなさい! 前を見てなか……」
言葉の途中で止まってしまった女性は、受付カウンターで仕事をしている加耶であった。加耶は目の前にいる美桜をみると抱きしめてしまう。
「ちょっ、ちょっと!? 何をするんですか!?」
「初めて見た時から抱きしめたかったの! この髪色とか綺麗だし顔も可愛いし! 最高じゃない!」
加耶が美桜を抱きしめ続けていると、苦しいという呻き声が出雲の耳に入る。
「そろそろ話してあげてください。苦しそうですよ?」
「あっ! ご、ごめんなさい!」
勢いよくから手を離された美桜は何回か咳き込んで辛そうにしていた。
「ゲホッ! ゴホッ! 苦しかったわ……」
「ご、ごめんなさい……」
加耶は頭を下げて美桜に謝り続けている。
「も、もういいですから! でも急には抱き着かないでください。驚いちゃいます……」
「気を付けるわね……ごめんね……」
謝り続けている加耶に対して、美桜はもういいですからと笑顔を向けて言った。その言葉を聞いた加耶は、ありがとうと涙目になりながら美桜の手を掴む。
「お詫びに何か服をプレゼントするわ! 何がいい?」
突然プレゼントをすると言われて美桜は戸惑ってしまい、本当にいいんですかと聞き返していた。
「いいのよ! お詫びだから、好きな服を選んで!」
「ありがとうございます」
加耶に一礼をした美桜は、2人で服屋の店内を歩き始めた。
出雲はその様子を見てどうにか馴染んできたなと安心していたのである。
「加耶さんにここで出会ってよかったかもな。少し怯えている様子だったし、新しい環境でストレスがかかっていたのかな?」
元気な王に見えていたが部屋で泣いてた姿を見ていたので、空元気を通していたのだろうと考えていた。
だが、加耶と出会ったことで少しは本来の自分を出せるようになれれば御の字だと考えてもいる。
「俺も美桜達のところに行かないとな。どこに行ったんだろう?」
服屋の中は意外と広い空間となっており、多種多様な服が店舗内に陳列されている。
「結構種類が増えた気がするなー制服以外にも普通に外で着れる服もあるし、ズボンまであるよ」
ここの店舗で買えば、上下が揃うとまで言える品揃えである。
店舗内を見渡しながら歩き続けると、配達士の制服売り場の前で2人の姿を見つけた。2人は何やら制服を持って話しているようで、出雲は近寄って話しかけることにした。
「何かあったの? 声がこっちまで聞こえてたよ?」
制服を持っている2人に話しかけると、加耶がこれはダメよという声が耳に入る。
「私は出雲と同じこの服がいいわ! ダメなの!?」
「もっとおしゃれな服があるし、これはただの配達士の制服よ!? もっと良い服を着た方がいいわよ!」
「出雲と同じこの服が着たいの! 他の服はそれから!」
何度も同じこと言い合っている2人を見ていると、買いたいの買えばいいじゃんと肩を落としてしまった。
「買いたいのを買おう? せっかく美桜の欲しい服があるんだから、それを買いませんか?」
「そうね……美桜ちゃんが可愛すぎて色々な服を着させたい思いが溢れちゃったわ……」
「大丈夫よ。気持ちは伝わっているわ。他の服を一緒に選びましょう!」
「ありがとう美桜ちゃん! 大好き!」
その言葉と共に美桜を抱きしめた加耶は、小さな声で良い匂いがすると鼻息を荒くしながら何度も呟いていた。
その言葉は出雲にまで届いており、美桜と共に呆れたような顔をしているのだった。
「私の匂い嗅いでる!? 変なことしないでよ!」
「いいじゃない! 服を買ってあげるからぁ! もう少しだけぇ!」
美桜に引き剥がされそうになるも、もう少しだけと言いながら匂いを嗅ぎ続けていた。出雲は加耶を見ながら残念美人だなと小さく笑っている。
「加耶さん変なことを言っていないで、早く服を買ってあげた方がいいですよ。結構嫌がってるみたいですし、そこまでにした方がいいですって」
「そうね……口を尖らせて威嚇をされているわ……」
残念だわと言いながら加耶は、美桜が欲しいと言っていた配達士の制服を手に取った。配達士の制服には男女の区別がないので、誰でも着られるように調整がされている。
「これを買うわ。他に欲しい服はある?」
「他にか……」
周囲を見渡して美桜は悩んでいるようだ。
どのような服を買えばいいのか、どのような服を買うべきなのか。頭から煙を出しながら悩んでいた。
その様子に気が付いた出雲は、着たいと思う服を買えばいいんだよと声をかける。
「買いたい服ね……Tシャツとこのピンク色のスカートがいいわ。普段着を持っていないから欲しいかも」
「これね! 他にもこういうのがあるからたくさん買ってあげるわ!」
加耶は美桜にこれもどうかなと多数の服を持って来て見せている。
2人の楽しそう買い物を見ていた出雲は、時間がかかりそうだなと思い少し違うところに行っているねと言って服屋を後にすることにした。
「ちょっと違うところに行っているから、買い物を楽しんでね!」
「行っちゃうのね……でも、加耶さんと一緒に楽しんでいるわ! ゆっくり他のところを見てきなさい」
「ありがとう」
その言葉を残して服屋を後にすると一度本店から出てそのまま右側に移動をしていく。
「確かこっちに地下に降りる階段が……あった!」
右側に移動をすると建物の側に地下に降りる階段を見つけた。その階段は鉄製で出来ており、降りるたびに金属音が耳に入る。
「ここの先に武器を作る場所があるんだよな。最近は来ていないからどう変化したかはわからないけど、配達士の武器を主に作っている職人達がいるんだよな」
この本店の敷地内に鍛冶場が存在し、そこでは職人達が配達士のために各種装備品を作っているのである。
出雲もこの鍛冶場のお世話になっており、使用をしている支給品の剣はこの鍛冶場によって作られているのである。
「また剣をもらわないとなー。また壊したって怒られるかもしれんが……」
期待と不安を抱きつつ階段を降り続けていると、目の前に鉄の扉が見えてきた。
「この扉を開けると鍛冶場だったな。さて、どうなることやら」
重い扉を開けると、目の前には多数の働いている職人の姿が目に映る。
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