第28話 始まった【ダイスの神VS大和の王と従者】
四人が同時にダイスを取り出して投げる。
最初は様子見のつもりか、はたまた刹那達が気付いていないだけかはわからないが、直接魔法を使い妨害はしてこなかった。むしろ出目の操作かもと疑うが、今の刹那と育枝では対抗する手段がないため、一旦無視して行方を見守る。
果たしてどう出てくる。
なぜ一対一で勝負を仕掛けてこなかったのか。
それは、恐らく刹那を警戒して。
ならばどこまでこちらの手の内がバレているか、そこまで考え作戦を頭の中で瞬時に組み立てていく。
少なくともあの日唯に使ったイカサマと戦術は使わない方が賢明だろう。
間違いなくその日の状況の事はアギルの耳に入っていると思われるからだ。
状況を見てからの臨機応変な対応だけで果たしてどこまで通用するか。
それが一つ目の勝負の鍵になると考えた刹那。
「動け、ダイス。我の命だ。絶対を我に。天罰を罪人に」
瞬間――止まりかけていたダイス全部が急に不規則に動き始め。
――出目が大きく変わった。
「「しまった!?」」
このまま行くと刹那と育枝の出目が良さそうだったことから、魔法の介入で強引に状況を変えるアギルに刹那と育枝が声を上げた。
「これが魔法。そしてこの世界の力。生半可な力は魔法の前では通じないと知れ」
微笑みを浮かべて、アギルは言った。
「ダイスはただの道具ではない。力ある者に更なる力を与える。当然アバターも同じだ。力亡き者ではアバターが持つ真の力を発揮させることはできない。つまり、王であるこの俺が一番強いと言うわけだ」
「逃げ腰の王が良く言うぜ」
驚きはしたが、状況理解が終わった刹那は慌てることなく落ち着いている。
四人の出目が揃い、ステータスに振り分けていく。
慢心はしない。油断もしない。
ただ相手の手の内を暴くようにしてステータスを振り分けていく。
その手に迷いはなく、あるのは勝ちに対する執念。
忘れてはいけない。
今の刹那は一人ではない事を。
最強のパートナーを務めるはやはり最強のパートナー意外にあり得ない。
言葉の矛盾を超えて力を合わせた二人はやはり最強という言葉が似合う。
刹那三十四、育枝十八、アギル七十六、唯三十九。
予期せぬことすら起こったわけだが、冷静な二人は希望が来るまで防御一択で構え受けてたつ。結果、両者ノーダメージで第一ターンを終えた。
「やはり俺達を警戒して攻撃と防御に振ったわけだが、残念だったな」
相手の心理の裏をつき、行動。
その光景はさよと琢磨を戦慄させた。
魔法を使う相手を早くも翻弄し始めている。
アギルの攻撃をスキル回避率UP【小】で躱した。
確率論の中で見事十五パーセントを勝ち取った刹那はやはり強運だと思わずにはいられない。
それだけじゃない。
今ならわかる。
この二人は急増ペア何かではなく、二人で一人なのだと。
二対二の対戦において、ステータス振り分け時にどのアバターを対象に行動するかを決められる。その為、普通のダイスゲームより常に選択肢が多いこの勝負。だが選択肢が多いから迷うは二流、どうしていいかわからなくなるは三流、ならば一流とは一体なんだろうか。
それは選択肢が多い分だけ、自分の手配が増える。そう思える者のこと。
「もしかして余裕なの……」
そう思わさせるほどに二人の表情は落ち着いていた。
ただ予想された未来を確かめるように平然としていた。
続く第二ターン。
またしてもアギルが魔法の妨害をしてきた。
今度は相手の出目を強制的に四十以下にする魔法、そして唯の魔法がそこに重なる。
出た出目を強制的に十減らす高等魔法。どちらも魔力消費量が多いことから連発すればすぐにガス欠になる。だがその分デメリット分以上のメリットがある。特に短期勝負に持ち込みたい時や相手のペースを崩したい時にはかなりの有効打となる。
「やっぱり、相手に直接干渉できる魔法は強いな……」
冷静に状況を分析し呟く刹那。
「だね。そろそろ行ける?」
何かを確認するかのように育枝。
「そうだな。そろそろ手を打たないとマズいがアイツらの魔力が切れるかこちらの手配が先になくなるもしくは攻略されるか勝負だな」
「いや……その前にこのターンで大ダメージを受けたら」
心配するさよ。
「そんなの大した問題ではない。最初からこっちは肉を切らせて骨を断つ覚悟で挑んでいるからな」
刹那のダイス出目六十九が三十八へと変わり、更に十減らされ二十八になる。
育枝のダイス出目八十一が二十四へと変わり、更に十減らされ十四となる。
だが、ここでアギルと唯の出目が――。
「やはりな。そこは純粋な運ってわけみたいだな」
舌打ちするアギルと唯を見て、ニヤリと刹那。
相手を確実に妨害しようとすれば自分の出目が操作できない。
もしかしたらその両方を可能にする魔法があるのかもしれないが、今は出来ない、もしくは使わないとしたら後は本人達の運の悪さに賭けるしかない。
アギルの出目四十二。
唯の出目五十一。
せっかくのチャンスを後一歩の所で中々物にできない二人。
魔法を使い、有利な展開を選んだはずなのにそうならない。
そのことに早くもアギルがイライラし始める。
そして視野が狭まり始めた瞬間、そして唯の視野が刹那から離れた瞬間を刹那は見逃さなかった。
ダイスの回収と同時にすり替えも行う。
その速さは洗礼されており、人が瞬きを終える時には終わっている。
「残念だったな。せっかく俺達を倒すチャンスだったのに」
アギルの攻撃を受けた育枝が二十八のダメージを受け、唯の攻撃を受けた刹那が二十三のダメージを受けた。今回はアギルと唯が刹那達の攻撃はないと判断し攻撃に全ステータスを振り分け、反対に刹那と育枝は全ステータスを防御に振り分けた。
「ダメージコントロールって言う技術の一つだ。思った通りに相手にダメージを与えられない。それは攻め手にとって大きなプレッシャーになることもある。要は魔法なしでも対抗する手段はあるってことだ」
ポーカーフェイスの刹那と育枝。
だが、刹那は気付いていた。
さっきから育枝の視線が泳いでいる事に。
通常魔法を使う時は相手が力んだり、どこかに力が入ったりしてなんとなくわかる。
それに僅かな力の入り方の加減から次にどんな魔法が使われるかを見極められることに刹那の試合観戦を通して気付いた育枝。そこから相手の手の内や狙いを推測し対抗手段を考え戦うのが育枝なのだが今回はかなり苦戦しているらしい。どれだけ観察してもアギルの魔法だけがわからないのだ。また魔力が少なくなると顔色が悪くなったり、発汗したり、と些細な変化が身体に現れると文献には書いてあったがそれを確かめるにはまだ時間が必要になる。
魔法を使われたか使われていないかがわからないとなると、こちらはかなり不利になる。一ターンに一度ダイスもしくはアバターにしか使えない魔法をダイス干渉に使われたとなるとステータス振り分け時にはもう魔法は使われないと判断できる。もし使われなかった時はステータス振り分け時に行われる戦闘で魔法が使われるかもしれないと予測が出来る。だけどもし魔法が使われた使われていないが全くわからないとなると、常に警戒し続けなければならない。今はまだゲームが始まって時間が経過していない為問題にはならないが、頭を使い集中力が低下してきた時にそれはかなり痛手となる。常に警戒し、基本防御に回り、安全が保障されたターンしか攻撃に移れなくなるからだ。そうなると流石のアギルたちも刹那と育枝の行動パターンが見えて来てと対策されることになるだろう。実際にそうなったらもう詰みと言っても過言ではない。
ダイスの神の真価は刹那と育枝の準備が完了しない事には発揮されない。
かと言って相手が大人しく待ってくれるとは思えないので、首をぽきぽきと鳴らして刹那が小声で言う。
「任せろ。時間は十分に稼いでやる。お前はお前のやるべきことをしろ。俺は俺のやるべきことをする」
「……ッ!?」
その言葉に反応して育枝。
「いけるの?」
それは育枝の観察に必要な分だけ敢えて敵に魔法を使わせると言っているようなものだ。その間刹那だけの力でゲームが存続できる状態で耐えなければいけない。
だが忘れてはいけない。
刹那は同条件に限りだがあのアリスに一度勝っている事実を。
それは誰にでも成し遂げられる偉業でないと正しく認識しておかないといけない。
すなわち、アリスが認めた異世界人であると。
「俺を誰だと思っている?」
手を伸ばし、育枝の頭に手を置いて撫でる。
何気ない言葉と行動に安心感を得たのか育枝の表情が少し柔らかくなる。
刹那の言葉で心に余裕が少しばかりできた育枝は大きく深呼吸をして気持ちを入れ替える。
「ちなみに女の方は?」
「あの時と同じ」
とは言われても、前回戦った時も魔法の類については実際に見てからしかなにもわからなかった刹那。もっと言えば使われていても気付いていない事すらあった人間にその言葉だけでは理解に苦しむ。
「…………」
「あっ……ごめん、ごめん、言ってなかったね」
黙る刹那の頭の中を読んだように。
「女の子が魔法を使う時は目の瞳孔が僅かに大きくなるからよく見ていれば刹那でもわかると思う。それとダイスの時はターンの始め、アバターの時はステータス振り分け時に相手のアバターを一瞬見る癖があるからこれらに気を付けて見たら大丈夫」
と、具体的に教えてくれた。
流石自慢の義妹。
観察という一点においては刹那すら寄せ付けない観察眼を持ち、相手の全てを見通すその眼はまさに常時発動可能スキル(技能)。それは魔力などは必要とせず、長年の私生活を通して得られた育枝の武器でもある。
「そこまでわかっていれば後はなんとかする」
「ごめん……足引っ張て……」
「急にどうしたんだ?」
「ただ……」
「まだ負けていない。ただそれだけだ。今から掴みに行くぞ、勝利のピースを」
その言葉に育枝が頷く。
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